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アフタードリーム

パワポケ1/猪狩進


バナナの皮を踏んで、滑って転んでトラックに轢かれました。
ついでに生死も彷徨いました。
次に起き上がったときには、改造人間になっていました。
僕の人生とはつまりそういうことである。

つまり?

 病院のベッドで何日も昏睡状態だったこと、目を覚ましたら全身焼け付くような痛みに襲われたこと、医師から一生野球のできない身体だと申告されたこと、知らない男たちの誘いに頷いてしまったこと、見たことのない色の液体をたくさん飲んだこと、数えきれないほどの注射を打ったこと、肉体改造後も軋むような心身の疼痛に耐えている毎日のこと、そういった諸々を一切省けば、僕の人生とはつまりそういうものなのである。

 世の少年少女たち、バナナの皮には気を付けなさい。
 ばかみたいだと笑いたくなるかもしれないけど、この世の中にはばかみたいなことが意外とごろごろしているみたいだ。
 だってその証拠に、僕は改造人間になって野球をしているわけであるし、そんなのってばかみたいでおもしろいでしょう。

 バナナの皮が道端に落ちている確率、そしてそれを踏んで転ぶ確率、そしてさらにそのせいで交通事故に遭う確率。僕の予想する限りでは、かなり低いはずだ。それでも、その低い確率を引き当ててしまうのが僕だった。もはやある種の才能に近しい。
 僕はバナナなんて大嫌いだから早くこの世からなくなればいいし、バナナをあんな場所に置いた人間はすみやかに死ねばいいんだろう。それが世のため人のためってやつだよ。
 僕はバナナが嫌い。大嫌いだ。だから、バナナを踏むことになった原因や理由について考えるのはもうやめだ。

 きっと君は、どうしてと、僕に聞くんだろう。
 どうしてだろう、僕にもよく分からないから、答えられなくてごめんね。
 とうとう僕はここまで来た。そう、甲子園の決勝戦だ。
 気付いてくれて、どうもありがとう。だってここが僕の最高の晴れ舞台だ。
 「野球マスク」として、僕はここで死ぬ。君が勝負したかった猪狩進じゃなくてごめんね。それだけ、一言謝りたかったんだ。

 ****

 8回の表、極亜久高校の攻撃。
 バットが空を切り、ミットにボールが収まる。空振り三振。マスクの下を汗が伝う。
 これで今日いくつめの三振だろう、ミットに収まるボールを僕は他人事のように眺めていた。少しでも気を抜くと尋常でない肘の痛みが襲ったが、汗をぬぐうふりをしてやり過ごした。
 だいたい、痛んでいるのは肘だけじゃない。全身を万遍なく這う痛みに、感覚はとうに麻痺していた。
 スコアボードに新しい0が並ぶ。チェンジだ。

 マウンドからベンチへと戻り息を吐く。手の平を握り、ゆっくりと開いてみる。握力は残っている。まだ投げられる。
 水分補給と一緒に、痛み止めの薬を流し込んだ。半分は気休めだったが、飲まないよりは幾分かマシのような気がした。気休めで構わないから、この試合だけはどうか持ちこたえてほしい。
 神様なんか全然信じてないけど、それでも、もしもどこかにいるのなら、最後にどうかひとつくらいワガママをきいてほしい。どこかにいるのかもしれない僕を見放した野球の神様、もう他に何も望まないから、この試合だけ僕にください。
 僕はまだ野球がしたい。

 甲子園の決勝戦は両チームともいまだ無失点、激しい投手戦となっていた。
 僕は前日のパーフェクトゲーム同様今日も無失点で抑えていたが、それは向こうのピッチャーも同じことだった。
 決め球の高速スライダーが、面白いように次々と打者を空振りさせていく。あの日神社で僕が少しアドバイスをしただけでするりと習得してしまった高速スライダーは、あのときよりも格段に切れ味が増していた。
 君は今日までにどれだけ練習したんだろう。僕が病院のベッドで眠っているときも、変な薬を飲んでいる間も、怪しい注射を打たれているときでさえ、君はまた神社で特訓していたんだろうか。
 ああ、僕も君と一緒に練習したかったものだなあ。
 それでも、僕のスライダーだってなかなかのものだとは思わないかい。僕も、君に負けないくらいたくさん練習したつもりなんだ。
 さあ、君のスライダーと僕のスライダー、どちらが上なのか、そろそろ決着をつけようじゃないか。

 野球マスク。それが今の僕の名前だ。
 変色した緑の髪、顔を隠す派手なマスク、横柄な態度、そのどれもがみな過去の自分とはまるで違うものだということを確認しては安堵する自分がいる。
 それでも、本当はずっと前から気が付いていた。
 何をどんなに変えたところで、僕は猪狩進だ。それ以上でもそれ以下でもない。安心すると同時にまた、それと同じだけ悲しくなるのだった。
 それなのに、僕はまだ野球をしている。人の道すらも違えてしまったというのに、野球をしているのだ。

 ストライク、バッターアウト!
 審判のコールが、雲一つない真っ青な空を切り割いて、つんざくように鳴った。歓声、怒号、こちらとあちらの、敵も味方もないまぜになった興奮が降りかかってくる。
 チェンジだ。また僕の出番がやってきた。
 マウンドを足でならし、ロジンを手にとる。ロジンを手に取ったあと帽子を触るのは、兄さんの癖だったろうか。無意識に帽子を触っていた自分が嫌になる。
 何もかもを違え、己の信念までも曲げたというのに、僕という人間はあろうことかマウンドでピッチャーをしている。兄である猪狩守と同じことをしているのだ。なぜだろう。

僕にとって、マウンドとは兄の場所であった。光り輝く兄が君臨する場所。それを手助けするのが僕の使命だったというのに。



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ご無沙汰しております。まだやってたの?と言われそうですが、やってました。やってます。
皆様ご機嫌いかがでしょうか。わたくしは元気です。

よりにもよって、久しぶりの更新がこんな感じです。
すきなことをすきなところまで書き散らしております。
n年前に書きかけのまま置いたあったものを発見し、一行目を読み、そうだよココが書きたかったんだよ!と滾って書き足しました。
書きたかったのはまさしく一行目です。そこにすべてが詰まっています。

生まれて初めて発行した同人誌の、もとのもとのもと、みたいなものだった気がいたします。
いまでも野球マスクを思うとどうにかなりそうな気持ちになって、実際どうにかなりそうです。
命のように大切な気持ちです。

おもしろくもなんともない私事なんですが、昨年の夏ごろ、有体に言ってガッツリ体調を崩しまして、それ以来何かを書いたり、一から生み出したりする力のようなものも崩れてしまったような気がして、萌えは萌えとして楽しみつつ、創作活動はしていませんでした。
いま思えば、そうなる前にパワプロオンリーに参加できたのは紛れもない僥倖でした。
わたし、運がいい。

そういうわけで、なにかを失うのが急ならば、なにかを取り戻すのも急なんでしょう。
すべては気の向くまま心の思うまま

久しぶりにここへ訪れて、大変恐縮なのですが、今でも毎日のようにカウンターが回っていることにとてもとても驚いて、感激と、感謝の気持ちを覚えました。
見てくださって、どうもありがとう。
またこんな風に、思い出したように戻ってきたら、どうぞよろしくお願います。

いいよね、パワプロ。この前公式がグッズ販売をしたときにはガッツリ買いましたよ。
好きだよ、ほんとうにね

今になって、昔書いたものに感想をいただけたのが衝撃的に嬉しくて、それが今回の原動力となりました。
周りの方にたくさん頼ってしまって右も左も分からずの代物でしたが、あのとき勇気を出して同人誌を出してよかったです。
久しぶりに開いたら、魂詰まってんなと思いました。
いまも通販してますので、よかったら読んでみてください笑

久しぶりに言いたいこと言って、すっきりしました。
またお目にかかれますように。

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