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たまにはいいよね

たまにはいいよね

「最近、少なくないかい」
「え、何が」
 猪狩の言葉には主語がない。いかにも不満そうな顔でじっとりこちらを睨め付けてくる。トレーニングから帰ってシャワーを浴び、一緒に夕食を食べ、今度は一体何が気に入らないというのか。学生の頃から猪狩とは一緒にいるが、いまだにこいつの考えていることはよく分からない。
 大股で歩いてきた猪狩は、ソファに座っているこちらに乗り上げるようにして跨って座り、眉を釣り上げて睨んだ表情のまま顔を近付けた。キスされている。そう気付いた時には猪狩の舌が唇を舐めていって、その後で再びゆっくり重なった。柔らかい。猪狩は食事のあとすぐに歯を磨くから、歯磨き粉の味がした。差し出された舌を絡め取り、猪狩の口内を味わうようにキスを続ける。丹念に舐めて吸って互いの唾液が口の端を伝う頃には、歯磨き粉の味はもうしなくなっていた。猪狩の味だ。
「キスが、少なかったの?」
「違う」
「じゃあ、セックス?」
「違う」
「じゃあ、なに?」
「自分で考えろ」
 こんないやらしい格好で自分から跨ってきたくせに、この言い草だ。いかにも猪狩らしい。再び唇を合わせながらシャツのボタンに手を掛けると、その手をぴしゃりとはたかれる。
「だから、違うと言っているだろ」
「だけど。猪狩、勃ってるじゃん、ぐへ」
「キミには、デリカシーというものがないのか」
「うーん、ない」
 首筋に口付ける。シャツの上から胸をまさぐってそのまま唇を滑らせると、すかさず高い声が上がる。我慢なんてするわけもなくて、再び唇が重なった。もちろん、猪狩は本気で嫌がっているわけじゃない。むしろこれは、かなり機嫌の良い日のお誘いだった。他の人には分からないだろうけど、オレには分かる。
「それで、何が少なかったの?」
「……」
「教えて」
「あっ」
「猪狩」
「キミからの、愛情表現」
「ぶは」
 思い切り吹き出した口を、猪狩に掴まれる。今度は本気で怒っているのが分かったから、慌てて謝る。
「ごめんって。はは、猪狩のあまえんぼ」
「恋人をさみしくさせるキミが悪い」
「そういうことに、しといてやるよ」
「……」
「好きだよ、猪狩」
「ボクも」
 猪狩の腕が首に回る。長い口付け。目と目が合って、オレは猪狩を抱き上げた。その間黙って首に絡みついている猪狩の腕が何よりも雄弁だった。今夜はきっと眠れない。


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原稿やってるんですけど、次の新刊が進くんの本なので主進とか書いてるとわたしの中の守さんがやきもち焼くんですよね〜っていう病人なので書きました。
たまにはいいよね。っていうそれだけ。
マジでこういうなんのヤマなしオチなしイミなしでいいなら主守いつまでも書けるよ。まかせろ。

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