閑話休題
主守
テレビから流れる賑やかな音を聞きながら、オレはといえばテレビも見ずに猪狩のつむじを眺めていた。
当の猪狩はそんなオレのことなどどこ吹く風で、手元の本に一生懸命視線を落としている。その様子は、よくもまあそんなところで読書など出来るものだと感心してしまう程で、猪狩はオレの足の間に座り込んで本を読んでいる。オレの腕の中で猪狩は大人しく読書を楽しんでいるのだった。
時折頬を寄せてみたり手遊びで髪をいじってみたりするのだが、完全に無視されている。どうやら今日は本当に本が読みたい日らしい。
オレはソファでだらだらしながらテレビを見るのが好きだったが、そんなオレのところに気まぐれを起こした猪狩がやってくることがある。いつの間にか、この場所は猪狩の特等席になってしまった。
オレがテレビを眺めて、猪狩は黙って本を読んでいる。猪狩はあまりテレビを見ないのだった。何がそんなに気に入ったのか、猪狩はこんな狭苦しいところで本を読むのが好きらしい。
今日も猪狩は当たり前の顔をしてオレの足の間に収まっている。猪狩がこれをやるとき、オレには見極めなければならないことがあった。すなわち、猪狩が本当に本を読みたくてここにいるのか、そうではないのか、ということである。
後者の場合はつまり、簡単に言うとただ構ってほしいだけのときである。猪狩は昔からシャイなアンチクショーであるので、構ってほしいときほど分かりやすいアクションをとる傾向にある。
さて、と猪狩に視線を落とす。先ほどから様子を見ている限り、今日の猪狩に限っては本当に本が読みたいだけのようであった。オレの方には目もくれずに、熱心にページをめくっている。ちらりと内容に目を落とすと、なんとか理論だとか物理学的に野球を紐解く云々だのと意味不明な単語ばかりが並んでいた。猪狩は練習熱心なのに加え、こういった知識欲に関しても旺盛である。
猪狩の髪を撫でながら、オレは思いついたことを尋ねてみた。眺めているテレビは芸能人の恋バナで大層盛り上がっているところだ。
「なあ猪狩」
「……」
「なあ」
「なんだい」
「お前ってオレのどこが好きなの?」
聞かれた猪狩はどこ吹く風である。無視しているだけなのかもしれないし、単純に本の世界に没頭しているだけなのかもしれない。腕の中の猪狩を抱き直しながらオレはもう一度尋ねた。
「なんだい、キミは急に」
「お前ってオレのどこが好きなわけ」
「そんなことを聞いてどうするんだ」
「べつにどうもしないけど、聞きたいだけ」
猪狩は黙って本を読んでいる。催促する意味でぎゅうぎゅうと腕の力を強めると、猪狩はやれやれと言って大きな溜息をついてから口を開いた。オレは猪狩のつむじに顎を乗っけて遊んでいる。
「ボクは、キライな人間とは一緒にいないよ」
「そんなの分かってるけどさ。じゃあなに、お前ってオレの嫌いなとことかないの」
「だから、キライだったら一緒にいないと言っているだろ」
それってつまりさあ…
未だに手元から視線を上げようとしない猪狩からオレは本を取り上げた。放ると怒られるので、そっとソファの脇に置く。
「オレの全部が好きってことになっちゃうけど?」
猪狩は否定しない。猪狩は黙って態勢を入れ替えると、くるりとこちらに体を向けてオレの頬を掴んだ。利き手である左手でぎゅうと力を込められ、きっとオレは変な顔になっている。
「さっきからうるさいのはこの口か」
「なんらよいかり」
「キミは、ボクが本を読んでいるときくらい静かに出来ないのかい」
「いやだったら、黙らせてみる?」
言った時にはもう、猪狩の唇が重なっている。それは柔らかく吸い付いて、一度合わさるとすぐに離れていった。猪狩は本を拾い上げるとさっさと元の態勢に戻り、再び本に視線を落とした。
「もうすぐキリのいいところまで読み終わる」
「はいはい」
今日は一緒に風呂に入ることを勝手に決めたオレは、もう一度だけ猪狩の髪を撫でるのだった。
――――――――――――
あまくておいしいヤオイの季節になりました
テレビから流れる賑やかな音を聞きながら、オレはといえばテレビも見ずに猪狩のつむじを眺めていた。
当の猪狩はそんなオレのことなどどこ吹く風で、手元の本に一生懸命視線を落としている。その様子は、よくもまあそんなところで読書など出来るものだと感心してしまう程で、猪狩はオレの足の間に座り込んで本を読んでいる。オレの腕の中で猪狩は大人しく読書を楽しんでいるのだった。
時折頬を寄せてみたり手遊びで髪をいじってみたりするのだが、完全に無視されている。どうやら今日は本当に本が読みたい日らしい。
オレはソファでだらだらしながらテレビを見るのが好きだったが、そんなオレのところに気まぐれを起こした猪狩がやってくることがある。いつの間にか、この場所は猪狩の特等席になってしまった。
オレがテレビを眺めて、猪狩は黙って本を読んでいる。猪狩はあまりテレビを見ないのだった。何がそんなに気に入ったのか、猪狩はこんな狭苦しいところで本を読むのが好きらしい。
今日も猪狩は当たり前の顔をしてオレの足の間に収まっている。猪狩がこれをやるとき、オレには見極めなければならないことがあった。すなわち、猪狩が本当に本を読みたくてここにいるのか、そうではないのか、ということである。
後者の場合はつまり、簡単に言うとただ構ってほしいだけのときである。猪狩は昔からシャイなアンチクショーであるので、構ってほしいときほど分かりやすいアクションをとる傾向にある。
さて、と猪狩に視線を落とす。先ほどから様子を見ている限り、今日の猪狩に限っては本当に本が読みたいだけのようであった。オレの方には目もくれずに、熱心にページをめくっている。ちらりと内容に目を落とすと、なんとか理論だとか物理学的に野球を紐解く云々だのと意味不明な単語ばかりが並んでいた。猪狩は練習熱心なのに加え、こういった知識欲に関しても旺盛である。
猪狩の髪を撫でながら、オレは思いついたことを尋ねてみた。眺めているテレビは芸能人の恋バナで大層盛り上がっているところだ。
「なあ猪狩」
「……」
「なあ」
「なんだい」
「お前ってオレのどこが好きなの?」
聞かれた猪狩はどこ吹く風である。無視しているだけなのかもしれないし、単純に本の世界に没頭しているだけなのかもしれない。腕の中の猪狩を抱き直しながらオレはもう一度尋ねた。
「なんだい、キミは急に」
「お前ってオレのどこが好きなわけ」
「そんなことを聞いてどうするんだ」
「べつにどうもしないけど、聞きたいだけ」
猪狩は黙って本を読んでいる。催促する意味でぎゅうぎゅうと腕の力を強めると、猪狩はやれやれと言って大きな溜息をついてから口を開いた。オレは猪狩のつむじに顎を乗っけて遊んでいる。
「ボクは、キライな人間とは一緒にいないよ」
「そんなの分かってるけどさ。じゃあなに、お前ってオレの嫌いなとことかないの」
「だから、キライだったら一緒にいないと言っているだろ」
それってつまりさあ…
未だに手元から視線を上げようとしない猪狩からオレは本を取り上げた。放ると怒られるので、そっとソファの脇に置く。
「オレの全部が好きってことになっちゃうけど?」
猪狩は否定しない。猪狩は黙って態勢を入れ替えると、くるりとこちらに体を向けてオレの頬を掴んだ。利き手である左手でぎゅうと力を込められ、きっとオレは変な顔になっている。
「さっきからうるさいのはこの口か」
「なんらよいかり」
「キミは、ボクが本を読んでいるときくらい静かに出来ないのかい」
「いやだったら、黙らせてみる?」
言った時にはもう、猪狩の唇が重なっている。それは柔らかく吸い付いて、一度合わさるとすぐに離れていった。猪狩は本を拾い上げるとさっさと元の態勢に戻り、再び本に視線を落とした。
「もうすぐキリのいいところまで読み終わる」
「はいはい」
今日は一緒に風呂に入ることを勝手に決めたオレは、もう一度だけ猪狩の髪を撫でるのだった。
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あまくておいしいヤオイの季節になりました
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