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地獄で待っている

地獄で待っている(鋼毅×猪狩進)

 夏が来るたび思い出す。いささか大袈裟な言い草だが、本当のことだった。
 高校三年の夏、プロペラ団に与していた、あの夏。大東亜学園のエースとして、俺はマウンドに立っていた。今から思えば、ずいぶんと馬鹿なことをしたものだと鼻で笑えるが、当時は本気だった。若かったのだ。プロペラ団に唆され、持て囃され、エースとして甲子園の土を踏むことになんの疑いも抱いていなかった。だから、大東亜の「保険」として用意された聖皇学園のことを今でも忘れられない。野球マスク、いや、猪狩進だったか。お前はいま、どこで何をしている。
 野球マスクと名乗るおかしなやつが聖皇のエースだと聞いたとき、オレはらしくもなく声を出して笑ってしまったように記憶している。予備とはいえ、「そんなもの」が大東亜の、自分の代わりとはずいぶんと舐められたものだと思った。だから、一度自分の目で見て確かめてやろうと思って、俺はわざわざ聖皇にまで足を運んだことがある。
 目を疑った。ふざけた名前だと思っていた野球マスク、お前は血を吐きながら、比喩ではなく文字通り血反吐を吐きながら練習していた。聞けば、大幅なパワーアップ手術の代償として、身体に相当な負担がかかっているらしい。
 それにしても、正気の沙汰ではない。改造手術の弊害か、髪色は緑に変色してしまっていたし、目立つマスクは顔を隠す理由もあるだろうが、大幅な視力の低下を補うためのものだと聞いた。普通の眼鏡などでは、もう碌に見えやしないのだろう。練習の途中で倒れるのは一度や二度ではなかったし、おそらく痛み止めか何かの薬を何度も口にしていた。なんという執着。なんという、執念。あのとき、俺が思わずお前に話しかけてしまったのは、必然とも言えただろう。思えばあれが、最初で最後の会話だった。

 俺はいま、火星オクトパスというチームで野球をしている。どんな理由があれ、一度はプロペラ団に加担した身だ、二度とチームに属して野球をすることなどないと思っていたのに、不思議なものだ。俺を誘ったのが、あのとき自分たちを負かしていった極亜久高校のキャプテンだというのだから、つくづく人生というのはどうかしている。
 猪狩進。お前も、今もどこかで野球をしているのだろうか。それとも、もう野球なんかとは縁を切ったか。かつての俺のように、もう見たくもないと思っているか。しかし、たとえ今はプレイヤーではなくても、きっといや必ず、お前はまた野球に戻ってくるだろう。なぜなら、俺もお前も、野球なしでは生きてはいけない馬鹿野郎だからだ。
 これから自分の進む道に希望が溢れているなんて思っちゃいない。むしろ、その逆だろう。望むところだ。またいつかお前に会える日があるのなら、野球がまたお前と会わせてくれる、そんな気がしている。また会おう。野球という、地獄で待っている。





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野球マスクが好きなんだよね
ほんとに
それだけ
トルネード投法も火星オクトパスもきっと二人を繋いでくれるものだと信じてる
信じてる

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