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共喰い

共喰い (猪狩進×猪狩守)

 はめられた手袋が行為の合図だった。

「なんだ…兄さんもしたかったんですね」
 白い手袋をつけた進に頬を撫でられる。否定も肯定もせずに顔をそむけると、進はくすりと笑って鼻の頭に口付けた。下りてきたその唇は、ボクの唇と重なることは決してない。進は、こういった行為をする際に、キスだけは絶対にしないのだった。進の布越しの親指が、ボクの唇をなぞるようにして触れていく。
「今日の兄さんは、いつもより物欲しそうな顔をしていますね」
 なにかあったんですか?尋ねながらも、進がこちらの答えなど初めから求めていないことはよく知っている。
進はボクの顔を見ることもなく、淡々とシャツのボタンを外していった。黙々とこなされるそれは単純に作業である。手袋をつけているのに器用なものだと思いながら、ボクは衣服を剥ぎ取っていく指先を黙って見つめていた。進とこういうことをするようになって、もう何度目になるだろう。
「う…」
 何度繰り返されようと、幾度経験しようと、肌を這う布の感覚には慣れそうにもなかった。薄い絹の手袋だが、布一枚隔てているだけでこんなにも違う。進は行為の際、必ず手袋をつける。どうして進がそんなことをするのか自分は知らないし、そもそもいつからこんな行為を続けているのかも忘れてしまった。
 分かっているのは、手袋をつけることが行為の始まる合図だということ、そして手袋をつけた進からは逃げられないということだ。
 柔らかな布の感触が、胸のあたりをいったりきたりしている。それは突起を押したり摘まんだりとせわしなく、思わず眉を歪めて唇を引き結んだ。それを見た進は薄く笑むと、指を口の中に突っこんで乱暴にかき回した。喉の奥まで入れられたそれに思わず嘔吐く。噎せ返って体を折るも、進はやっぱり笑っていた。
「声、我慢しちゃダメって言ったでしょう。いけない兄さんですね」
「あっ…」
 痛いほどに先端の突起を摘ままれる。己の唾液で濡れた手袋は冷たく、思わず声を上げていた。執拗にそこばかりを攻め立てられ、なんだか頭がぼんやりしてくる。体の奥から湧く確かな熱に絶望するも、仕立て上げられた身体はどこまでも進の愛撫に従順であり、抗う術がない。濡れた布が肌をこする快感はゾクゾクと背を這い、蝕むように全身へと広がっていく。
「兄さんって、乳首をいじられるの好きですよね」
「あ、あ…」
「こんなのが、そんなに気持ち良いんですか?」
「は、あ…」
「僕にはよく分かりませんけど」
 いつものことだったが、ボクは進にこうされていると、だんだんわけが分からなくなってきてしまう。布越しの感覚がもどかしい、熱で浮かされているうちにそんなことを思うようになってしまう。直接触って欲しいと欲求が叫ぶたび、望まない行為にそんなことをねだるのはおかしいと理性が訴えかける。
「兄さん、何を考えているんですか?僕が目の前にいるのに、考え事?兄さんのそういうところが、僕」
 大嫌いなんですよ。忌々し気に吐き捨てられた進の声は、やけにはっきりと響いた。目頭が熱くなって、鼻の奥がつんとする。上質なシーツを濡らすそれを見て、進は大きなため息をついた。
「なんで泣くんですか?」
 そんなの分からない。ボクには分からないことばかりだ。ボクが答えないことに進は苛立っているようで、進はいつもより幾分か性急に、そして乱暴に衣服を剥ぎ取っていった。裸にされ、ベッドの上に投げ出される。
「兄さんって、つくづく変態ですよね」
 すっかり勃起している中心を痛いほどに掴まれ、思わず声が漏れた。進の唇には薄い笑みが浮かんでいる。
「こんなことをされても、感じているんですからね」
 進はそれを掴んだまま、今度はボクが快感を得るようにゆっくりといやらしく上下に扱いていった。粘着質な水音がぐちゃぐちゃと響いて、ボクの吐息と、興奮しているらしい進のそれが交わって耳の奥に溶けていった。何もわからないのに、いつだってもたらされる快楽に身体は正直で、ボクは逃れられない波に攫われていくような感覚に陥る。
乱暴な言動とは裏腹に、優しい手つきで愛撫を施す進に、ボクの身体は従順に高ぶっていく。やめてほしい、気持ちがいい、バラバラな心と身体。ふと目が合った進は、いつかの優しい弟のままの顔でボクに微笑み掛けるのだった。それが引き金になったように、ボクは高ぶった熱を吐き出した。
「は、はあ…っ」
射精後の気怠さにぐったりと身体を折るも、進はどこ吹く風だ。ボクの吐き出す浅い息遣いだけが妙に響く中、進は知らん顔で手袋を外してそれをゴミ箱に放った。ボクの涙と唾液と体液が染み込んだ手袋だ。
 手袋を外した進は、たいして乱れていない自身の衣服を正してさっさと部屋から出ていこうとする。素っ裸でいるボクとは対照的に、進の方はこの部屋にやってきた時のままの姿だ。
ベッドに腰かけた進が手袋を外した手で自身の服の裾を正し、襟を直す様をボクは黙って見つめていた。こんなことをしているのに、ボクはもうずいぶんと長らく進に触れていない。練習熱心で、マメだらけだった進の美しい掌は、今どんな風になっているのだろう。ごくりと生唾を飲み込む。
「じゃあね、兄さん」
 こちらを振り返ることもなく部屋を出ていこうと立ち上がった進の服を掴むと、進は鬱陶しそうに眉を寄せてこちらを見るのだった。それを真正面で見つめ返しながら、ボクは掴んだ裾をそのままに進を思い切り引き倒してベッドに沈める。
ボクがそんなことをするとは夢にも思っていなかったらしい進は、無抵抗でされるがままだ。ぽかんと口を開くその顔は、幼少期によく見せたあどけない弟の表情そのもので、ボクは胸の奥のいちばん柔らかい部分を掴まれるような思いがした。
ぺろりと自身の唇を舐め、そっと進の唇と重ね合わせる。すぐに離し、驚いているらしい進の顔を眺めながら、もう一度。角度を変え、互いの唇の輪郭を味わう頃には、進はすっかり大人しくなってしまっていた。呆気にとられ何も言えないらしい進を横目に、ボクは先ほどゴミ箱に放られた手袋を拾い上げた。
「兄さん、どうして」
 問いかけには答えず、ボクは静かに手袋を身に着けた。この手袋が何を合図にしているのかは、進、おまえがいちばんよく分かっていることだろう。
 ボクらの夜はまだ、明けそうにない。

2019.6.23



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三年前に完売しました同人誌より再掲でした。
当時お手に取ってくださった方々、どうもありがとうございました!
最近進守あんまり書いてないですが、やっぱりこの兄弟が大好きなのでまた書きたいですね
みなさんもかいてください、そして見せてください教えてください

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