ひとつもあげない
ひとつもあげない
「友沢、どうしたの」
気遣う声がどこまでも優しくて、つまらないことで不貞腐れている自分が本当に嫌になった。練習をして、一緒に飯を食べてから帰る道。腹ごなしの散歩も兼ねて、駅からわざわざ遠回りして帰るこの道が友沢は何よりも好きだった。そうだったのに。昔はそれだけで十分満足していたのに、今の友沢はどうしても子供のように駄々をこねるのをやめられなかった。
「ずっと、猪狩さんがいいんだと思ってた」
「また言ってる」
優しい眼差しに耐えかねて、何か言わなくてはと思った結果がこれだ。自分の口は、余計なことしか言わない。言ったそばから後悔したが、それでもやめることは出来なかった。下を向いたまま早足で歩く友沢には、今どこを歩いているのかもよく分からなくなっていた。いつもの道を外れて、ずいぶんと人通りが少なくなったことだけは分かる。月のない夜に、街灯の明かりばかりが眩しい。
「なんで猪狩さんじゃなくて、オレなんですか」
「友沢と猪狩を比べたことがないから、そんなの分かんないよ」
優しい言葉だと思った。告白をしたのは自分の方で、彼はそれにオーケーしてくれただけ。そう思っている自分には、過ぎた言葉だと思う。そう思うのに、満足出来ない。だから何度も確認するのに、すればするほど不安になった。大好きだと思う人を手に入れてこれでようやく満たされると思ったのに、欲求には際限がなくて、次から次へと欲しくなる。本当に子供みたいで、馬鹿みたいで、幼稚な感情だ。
彼が話す学生時代のちょっとした思い出だとか、野球にまつわるエピソードだとか、そういうものにいちいち付いて回る猪狩守の名前が気に入らない。面白くない。そうやって話を蒸し返しては、何度似たようなやり取りを繰り返したことだろう。いよいよ愛想を尽かされても、おかしくない。
「友沢って、そんな顔もするんだな」
言われて、友沢はようやく顔を上げることができた。優しい眼差しに抱かれて、何も言えなくなる。あんまり無邪気に笑うもんだから、友沢は全身の力が抜けていくのが分かった。固く握りしめていた手の平を解いてポケットから出すと、その手をひょいと掴んで繋がれる。
「オレ、友沢のこと好きだよ」
ぶわ、と全身の熱が顔に集まったように熱くなる。なんにも言えなくなって黙っていると、彼がまた笑う。
「友沢は、どうしたい?」
「言ってもいいんですか」
「もちろん」
考えるよりも前に、言葉が出ていた。
「オレを、あんただけのものにして」
言われた彼は少しだけ驚いたような顔をして、その後で繋いでいた手に力を込めた。それをぎゅうと握り返して、友沢は彼の言葉を待つ。
「家、来る?」
返事の代わりとばかりに抱き付くと、彼の笑い声が降ってくる。友沢は、もっと言いたいこと言っていいよ。本当にそんなことになったらあんたが困るだけだと言い返したかったが、友沢はそれを飲み込み、お言葉に甘えてキスをねだることにした。
了
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めーっちゃ嬉しかったので、書きました!ありがとうございます!友沢くん、幸せになってくれ〜!
「友沢、どうしたの」
気遣う声がどこまでも優しくて、つまらないことで不貞腐れている自分が本当に嫌になった。練習をして、一緒に飯を食べてから帰る道。腹ごなしの散歩も兼ねて、駅からわざわざ遠回りして帰るこの道が友沢は何よりも好きだった。そうだったのに。昔はそれだけで十分満足していたのに、今の友沢はどうしても子供のように駄々をこねるのをやめられなかった。
「ずっと、猪狩さんがいいんだと思ってた」
「また言ってる」
優しい眼差しに耐えかねて、何か言わなくてはと思った結果がこれだ。自分の口は、余計なことしか言わない。言ったそばから後悔したが、それでもやめることは出来なかった。下を向いたまま早足で歩く友沢には、今どこを歩いているのかもよく分からなくなっていた。いつもの道を外れて、ずいぶんと人通りが少なくなったことだけは分かる。月のない夜に、街灯の明かりばかりが眩しい。
「なんで猪狩さんじゃなくて、オレなんですか」
「友沢と猪狩を比べたことがないから、そんなの分かんないよ」
優しい言葉だと思った。告白をしたのは自分の方で、彼はそれにオーケーしてくれただけ。そう思っている自分には、過ぎた言葉だと思う。そう思うのに、満足出来ない。だから何度も確認するのに、すればするほど不安になった。大好きだと思う人を手に入れてこれでようやく満たされると思ったのに、欲求には際限がなくて、次から次へと欲しくなる。本当に子供みたいで、馬鹿みたいで、幼稚な感情だ。
彼が話す学生時代のちょっとした思い出だとか、野球にまつわるエピソードだとか、そういうものにいちいち付いて回る猪狩守の名前が気に入らない。面白くない。そうやって話を蒸し返しては、何度似たようなやり取りを繰り返したことだろう。いよいよ愛想を尽かされても、おかしくない。
「友沢って、そんな顔もするんだな」
言われて、友沢はようやく顔を上げることができた。優しい眼差しに抱かれて、何も言えなくなる。あんまり無邪気に笑うもんだから、友沢は全身の力が抜けていくのが分かった。固く握りしめていた手の平を解いてポケットから出すと、その手をひょいと掴んで繋がれる。
「オレ、友沢のこと好きだよ」
ぶわ、と全身の熱が顔に集まったように熱くなる。なんにも言えなくなって黙っていると、彼がまた笑う。
「友沢は、どうしたい?」
「言ってもいいんですか」
「もちろん」
考えるよりも前に、言葉が出ていた。
「オレを、あんただけのものにして」
言われた彼は少しだけ驚いたような顔をして、その後で繋いでいた手に力を込めた。それをぎゅうと握り返して、友沢は彼の言葉を待つ。
「家、来る?」
返事の代わりとばかりに抱き付くと、彼の笑い声が降ってくる。友沢は、もっと言いたいこと言っていいよ。本当にそんなことになったらあんたが困るだけだと言い返したかったが、友沢はそれを飲み込み、お言葉に甘えてキスをねだることにした。
了
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めーっちゃ嬉しかったので、書きました!ありがとうございます!友沢くん、幸せになってくれ〜!
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