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かわいくない

かわいくない(主守)

「猪狩、好きだよ」
「知っているよ」
 ああ、かわいくない。隣を歩く猪狩はオレの言葉なんかどこ吹く風で、知らん顔をしている。
 たまには応えてくれてもいいのに、恋人になってからも猪狩は相変わらずだ。オレはそういう猪狩を好きになったし、本当は猪狩が照れていることも喜んでいることも知っていたけど、今日は特別腹の虫の居所が悪かった。猪狩の態度に腹の底から煮えるような怒りが沸いてきて、たぶん今日はもう一緒にいない方がいいんだろうと思った。このままだと、取り返しのつかない喧嘩でもしてしまいそうだ。どうして猪狩は、たった一言を言ってくれないんだろう。ただ一言、お前の口から好きだと聞きたいだけなのに、それだけでオレは満足できる安い男なのに、猪狩はそれすらもくれない。猪狩の気持ちはもちろん知っているが、口にしてもらいたい日だってオレにもあるのだ。
「オレ、今日は帰る」
「うちの私設球場で練習していくんじゃないのかい」
「帰る」
「ふうん。分かった」
 じゃあねと言って歩いて行ってしまう猪狩はもちろんオレを引き止めないし、それどころか振り向きもしない。なんてことだ。半ば呆然とした気持ちで、猪狩の背中を見る。オレはしばらくそれを眺めていたが、その辺にあった道端の石ころを思い切り蹴っ飛ばしてから、猪狩とは反対方向を向いて歩き出した。ずんずんと風を切りながら歩いていたが、ふいに足を止める。格好悪いとは思ってもどうにも後ろ髪を引かれ、こっそり振り返った。オレは、猪狩が好きなのだ。理屈ではなく、どうしようもなく猪狩が好きなのだ。
 振り返って見ると、猪狩は確かに背を向けていたが、明らかにその歩みは遅かった。普通に歩いていればとっくに見えなくなっていてもおかしくないのに、猪狩の背中はまだ、自分の目で捉えることが出来た。その意味を考えたとき、オレはどうしようもない気持ちでいっぱいになって、駆け出していた。走っている勢いのまま後ろから猪狩に抱き付くと、猪狩は特段驚いた様子もなく、いつものトーンでやめろと言った。ああ、かわいくない。なんてかわいくないんだろう。
「やっぱり、行く」
「帰ると言ったり行くと言ったり、キミは忙しいな」
「行く」
「そうかい」
「オレ、猪狩が好き。ムカつくけど、好き」
「……」
「お前が言ってくれない分、オレが言うからいいよ。もう。オレ、猪狩が好き。好き、大好き、馬鹿、好きだよ」
「バカは余計だ」
「こんなお前が好きでしょうがないオレは、馬鹿なんだ。でも好きだから仕方ない」
「聞き捨てならないな、その言い草は。まるでボクに問題があるみたいじゃないか」
「オレは一言聞きたいだけなのに」
「キミが好きだ」
 バカな、キミのことが。一言余計なことを付け加えた猪狩はやっぱりかわいくなかったけど、オレはかわいくない猪狩が好きなので、今度は真正面から思い切り抱き締めた。もう一回言ってとねだると、腕の中で猪狩はなんのことだとしらを切った。ああ、やっぱりかわいくない。





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いやかわいいよ(マジレス)

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