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ひとつしかあげない

「キミの言うそれは、どういう意味なんだ」
 恋人の耳元で甘い愛を囁いた結果、このように真顔で問い返されるケースというのは、果たしてどの程度発生する現象なんだろうか。腕の中の猪狩は、甘ったるい雰囲気になるどころか、ごく真剣な表情だ。むしろその顔は怒っているようにさえ見えた。
「どういうって、そのままの意味だけど」
「……」
「オレは、猪狩のことが一番好きだよ」
「ふうん」
 ふうん、と来た。奥歯が凍るようなとびきり恥ずかしい殺し文句を最愛の恋人に贈った結果がこれだ。若干心が折れそうになったところでさすが猪狩、トドメを刺していくのを忘れない。
「ボクはべつに、一番じゃないけどね」
 ゲームセット。胸の真ん中にぐっさり突き刺さった猪狩の言葉が抜けるまで、オレはしばらく身動きが取れなかった。
 そういうことがあって、数日、数週間と時間が経っても、猪狩の様子は今まで通り全く変わりなかった。オレは肩透かしを食ったような、拍子抜けのような、情けないような悲しいような、不思議な気分を味わっていた。それでも猪狩から離れるなんて考えられなくて、それもまた哀愁を誘う。猪狩はもう、オレのことなんて好きじゃないのに。
「おい、パワプロ」
 あとから布団に入ってきた猪狩が、背を向けて眠るオレの背中にくっ付いてくる。珍しい動作に、嫌でも胸が跳ねた。風呂上がりらしい猪狩の体温はいつもより高くて、石鹸のいい匂いがした。返事をしないでいると、肩を揺すられる。
「キミ、最近変だぞ」
「だって猪狩は、オレのこと好きじゃないんだろ」
「誰が言ったんだ、そんなこと」
「お前じゃん!」
 あんまりびっくりしたから、オレは叫びながら勢いよく身体を起こした。突然なんだという目で猪狩がこちらを見ている。
「いや、猪狩が言ったんじゃん!この前!オレ、ほんとにショックだったんだからな!」
「何をそんなに怒っているんだ」
「だから!猪狩がオレのこと、べつに一番好きじゃないって」
「ああ、それのことかい」
 猪狩の顔を見ていると、変に高ぶって泣き出してしまいそうだった。悲しいのか、怒れるのか、でもやっぱり好きで、猪狩の顔を見ているとそれしか考えられない。だって、オレはこんなにも猪狩のことが好きだ。猪狩がオレのことを好きじゃなくなっても、オレは。
「キミは何か勘違いをしているようだね」
「なにを」
「あれは、そんな意味じゃない」
「じゃあ、なに」
「キミの他には、いないという意味だ」
「え」
「キミがボクのことを一番だのなんだのと言うから、じゃあ二番がいるのかと面白くない気持ちになって、少しイジワルをした。かもしれない」
「……」
「ボクは比べられるのが嫌いなんだ、だから」
 猪狩が言い終わる前に、オレはその身体を腕いっぱいに抱きしめた。苦しいと声を出した猪狩を無視して、オレはその胸に顔を埋める。
「猪狩のばか。好き」
「言っていることとやっていることが支離滅裂だ」
「オレ、そんなつもりで言ったんじゃないよ」
「知っている。だからちょっとしたイジワルだと言っただろ」
「全然ちょっとじゃないよ……」
「悪かった」
「ほんとに悪いと思ってる?」
「まあ」
「オレ、猪狩しか好きじゃない」
「知っている」
「やだこのままじゃ許せない」
 どうすればいい?と視線で問う猪狩に、オレは唇をねだった。キス。ゆっくり重なって、すぐに離れた。口付けのあとで猪狩がくれた言葉は砂糖菓子みたいに甘くて、オレはもっと、と言って目を閉じた。




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いつものやつー!!をいつもよりねっとり書きました
ラブラブですね

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