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ギフテッド

ギフテッド(主人公×猪狩守)

「えっ、猪狩って明日誕生日なの?」
 それで部活が休みになるって、すごいなあー。間延びした話し方をするせいで、隣を歩く男が話すたびに息が白く残る。終業式はもう先週終わったから、今は冬休みだ。世間は冬休みであっても、伝統あるあかつき大附属高校野球部に休みはない。いつの間にか並んで歩くようになった帰り道、明日は休むことを男に告げると、物珍しそうにくるくると目を丸くして、あれやこれやと質問を飛ばしてくる。
 明日は、十二月二十四日。クリスマス・イブ。そして、自分の誕生日。幼い頃から誕生日には毎年パーティを開いて祝いの席が設けられていたが、ここ数年は来賓を招いた本格的なものとなっていた。そこには、一代で猪狩コンツェルンを築いた父・猪狩茂の子息、要するに長男である跡取り息子を周りにお披露目するという意味合いが強くなっている。だから明日は、部活動に参加出来ない。それは事前に監督へ申し入れて許可を取っていることであり、もちろんキャプテンにも伝えてある。パーティと野球。どちらが望むべきものなのか自分にとって明白であるにも関わらず、自分は明日パーティに出席する。それが、決まりだからだ。
「あー、なんかあったかなあ。急に言うからさ、そういうのはもっと事前に教えといてくれるものなんだって」
 ぶつぶつ言いながら、男はポケットの中に手を突っ込んでまさぐっている。べつに何もいらない、猪狩がそう言う前に、男はポケットから出した手をこちらに差し出していた。
「はい。これあげる」
「なんだ」
「消しゴム」
「消しゴム?」
「さっきコンビニで買ったんだけど、予備でもう一個余分に買ってたから、やるよ」
「べつに、いい。いらない」
「そんなこと言うなって、ほら!」
 いいから貰っとけよ。とっさに広げてしまった手の平の上にころりと消しゴムがひとつ。返事をする前に男は出した手をまたポケットに突っ込んでしまっていて、返すに返せなくなった。
「誕生日、おめでと。猪狩」
 笑う男の顔は鼻の頭が赤くなっていて、吐く息はやっぱり白いのだった。

  ***

「なあー、猪狩」
 もちろん聞こえているだろうし呼ばれていることも分かっているのに、猪狩は返事をしないどころか微動だにしなかった。数えるのも面倒になるほど何年も一緒にいるのだからそんな態度にはとっくに慣れているが、それにしてもあまりにも昔から変わらないそのスタンスには息をつきたくなる。勿論、こんなことでめげていては猪狩と一緒にいることなんて出来ない。涼しい顔で本を読んでいるその横顔に、懲りずに話しかける。
「猪狩、その辺に消しゴムない?」
「ない」
「せめて見てから言ってくれよ」
 誌面から顔も上げずに猪狩は言う。返事をしただけマシかもしれない。仕方がないのでその辺の引き出しを勝手に漁ることにしたのだが、そこで珍しく猪狩が反応した。
「おい。キミ、消しゴムくらい自分のものを使え」
「だから、ないからこうやって聞いてんだろ?確か前に、この辺で見たような気が……あ、あったあった」
 まだ封を切っていない新品のそれを見つけ出して摘むと、いつの間にやって来たのか、猪狩に取り上げられてしまった。
「これは、ダメだ」
「もう、そういう意味わかんないいじわるすんなって」
「そういうことじゃない。いいから、これは、ダメなんだ」
 引き出しの、今度はわざわざ鍵のかかるところに入れて、猪狩は目の前で鍵を掛けてしまった。そこまでされる理由が分からなくてさすがに面食らったが、そういえば、と思い出したことがあって、思い出話が口をつく。
「そういえばさあ、猪狩、覚えてる?オレさ、昔、お前に消しゴムあげたことあったよな。誕生日だっていきなり言うからさ、たまたまポケットに入ってたやつ」
「……」
「あれ、いつだっけ。高校の……一年とか二年の時だったような気がするけどなー。覚えてない?」
「……」
「猪狩、なに変な顔してんの」
「してない」
 猪狩はもう、本を読んでいない。明後日の方を向く、その仕草には思い当たることがあって、オレはわざわざ覗き込むようにして猪狩の顔を見た。
「もしかして。さっきの消しゴムって、それ?」
「……」
「さっきの引き出しって、指輪とかしまってる棚じゃん。お前普段付けないから」
「……」
「消しゴム、今日までずっと持っててくれたの?」
 そう言ったときには、もう猪狩を捕まえて腕の中に閉じ込めている。ぎゅうと抱きしめてからもう一度顔を覗くと、猪狩はほんのり頬を染めた。この感情は何と言えばいいのだろう。猪狩と一緒にいるようになってから何百、何千と体感しているのに、言葉に出来たことはない。
「猪狩、さすがにかわいすぎる。無理」
「無理って、なんだ」
「無理は無理。もうお前ほんと無理」
「だからそれは」
「死ぬほど好き。お前が好き」
「……フン」
「な、今年はなに欲しい?ちょっと早いけどさ、教えといてよ。何でもいいよ」
「何でもとは、大きく出たものだな」
 猪狩が、耳打ちするように囁く。まるで内緒話をするみたいに言ったその言葉に、オレはいよいよ倒れてしまいそうになって、代わりに猪狩を強く抱きしめた。




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守さん、お誕生日おめでとう。大好き。
守さんのいる毎日が祝日です。

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