夏の終わり
夏の終わり
「ありあとざあーしたー」
それが、ありがとうございましたの意であることに気付いたのは、猪狩が店を出て、買ったものの封を開けようとしたときのことだ。部活帰りの寄り道、コンビニエンスストア、手には冷たい氷菓子。袋を開けて中身を取り出す。それは真ん中で千切れるようになっていて、猪狩は前に見た通りに真似をしてそれを二つに割いた。ひとつを手に取り、さっそく開けて口元に持っていく。
冷たくて、甘い。それはコーヒーのようなチョコレートのような味がして、スムージーのような食感であった。人生で二度目のそれは、何故だか前に食べた時よりも味気なくて、猪狩はわざわざ寄り道したことを早々に後悔していた。前回は隣にいた彼がやたらと美味そうに食べるものだから、猪狩もそういうものだと思って食べていた。袋に残ったもう一つを持て余しながら、猪狩は行儀悪く、それを口に咥えたまま歩き出した。
夏の終わり、日が暮れるのもずいぶん早くなって、この時間にはすっかり辺りは暗くなっていた。遠回りになるのに、癖のようにいつものランニングコースを歩いていることに気が付いて、猪狩は一度足を止める。どうしようかと逡巡したが、やっぱりそのまま歩いて行くことにした。手の中の氷菓子が溶けていく。雫が猪狩の手の平を濡らし、ハンカチを取り出そうとした、そのときだ。名前を呼ばれ、振り返る。
「あれっ、猪狩じゃん」
「パワプロ」
他校の野球部員、今ではすっかり顔馴染みとなってしまった人間の名前を呼ぶと、そいつはにんまりと笑った。なんだその顔は。反射でつい名前を呼んでしまっただけだ。
「今日は、勝負しろって言わないのか?」
「ボクはキミと違って暇じゃないんでね」
「なんだよ、いつもお前からふっかけてくるくせにー……って、お前いいもん持ってるじゃん!」
無邪気に笑って手を差し出す仕草に、猪狩は少しだけ考えて、持っていた袋ごとそれを渡した。パワプロは大袈裟に喜んでみせて、猪狩のするようにそれを口に咥えながら隣に並んで歩き出す。
「キミ、ひとつ貸しだぞ」
「いやいや、この前オレのアイス半分食べたの猪狩じゃん!」
「そうだったかな」
他愛のないやり取りなのにどうしようもなく心が弾んで、猪狩は無意識に口元が緩むのを自覚していた。周りが暗くて良かった。隣のパワプロはあっという間にアイスを食べ終えて、通りがかった公園のくずかごにそれを投げ入れた。ナイスピッチ。そんなことを言ってふざけるものだから、猪狩も同じように投げると、パワプロは楽しそうに笑って言うのだった。
「なあー、キャッチボールしてかない?どうせグラブとボールは持ってんだろ」
「まあ、キミがどうしてもと言うのなら、付き合ってやらないこともない」
「あの辺なら結構明るいから、ボールも見えるだろ」
言うが早いか、パワプロはあっという間に駆けて行ってしまって、猪狩も後を追うようにして走った。ただ冷たいだけだった甘味はいつの間にか猪狩の心も満たして、その甘さに猪狩はこっそり微笑んだ。
了
ーーーーーーーーーー
主人公ちゃんと一緒に食べるとおいしいんだよねえシリーズ何回書いても飽きないから主守はすごい
パピコたべたい
「ありあとざあーしたー」
それが、ありがとうございましたの意であることに気付いたのは、猪狩が店を出て、買ったものの封を開けようとしたときのことだ。部活帰りの寄り道、コンビニエンスストア、手には冷たい氷菓子。袋を開けて中身を取り出す。それは真ん中で千切れるようになっていて、猪狩は前に見た通りに真似をしてそれを二つに割いた。ひとつを手に取り、さっそく開けて口元に持っていく。
冷たくて、甘い。それはコーヒーのようなチョコレートのような味がして、スムージーのような食感であった。人生で二度目のそれは、何故だか前に食べた時よりも味気なくて、猪狩はわざわざ寄り道したことを早々に後悔していた。前回は隣にいた彼がやたらと美味そうに食べるものだから、猪狩もそういうものだと思って食べていた。袋に残ったもう一つを持て余しながら、猪狩は行儀悪く、それを口に咥えたまま歩き出した。
夏の終わり、日が暮れるのもずいぶん早くなって、この時間にはすっかり辺りは暗くなっていた。遠回りになるのに、癖のようにいつものランニングコースを歩いていることに気が付いて、猪狩は一度足を止める。どうしようかと逡巡したが、やっぱりそのまま歩いて行くことにした。手の中の氷菓子が溶けていく。雫が猪狩の手の平を濡らし、ハンカチを取り出そうとした、そのときだ。名前を呼ばれ、振り返る。
「あれっ、猪狩じゃん」
「パワプロ」
他校の野球部員、今ではすっかり顔馴染みとなってしまった人間の名前を呼ぶと、そいつはにんまりと笑った。なんだその顔は。反射でつい名前を呼んでしまっただけだ。
「今日は、勝負しろって言わないのか?」
「ボクはキミと違って暇じゃないんでね」
「なんだよ、いつもお前からふっかけてくるくせにー……って、お前いいもん持ってるじゃん!」
無邪気に笑って手を差し出す仕草に、猪狩は少しだけ考えて、持っていた袋ごとそれを渡した。パワプロは大袈裟に喜んでみせて、猪狩のするようにそれを口に咥えながら隣に並んで歩き出す。
「キミ、ひとつ貸しだぞ」
「いやいや、この前オレのアイス半分食べたの猪狩じゃん!」
「そうだったかな」
他愛のないやり取りなのにどうしようもなく心が弾んで、猪狩は無意識に口元が緩むのを自覚していた。周りが暗くて良かった。隣のパワプロはあっという間にアイスを食べ終えて、通りがかった公園のくずかごにそれを投げ入れた。ナイスピッチ。そんなことを言ってふざけるものだから、猪狩も同じように投げると、パワプロは楽しそうに笑って言うのだった。
「なあー、キャッチボールしてかない?どうせグラブとボールは持ってんだろ」
「まあ、キミがどうしてもと言うのなら、付き合ってやらないこともない」
「あの辺なら結構明るいから、ボールも見えるだろ」
言うが早いか、パワプロはあっという間に駆けて行ってしまって、猪狩も後を追うようにして走った。ただ冷たいだけだった甘味はいつの間にか猪狩の心も満たして、その甘さに猪狩はこっそり微笑んだ。
了
ーーーーーーーーーー
主人公ちゃんと一緒に食べるとおいしいんだよねえシリーズ何回書いても飽きないから主守はすごい
パピコたべたい
PR

