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花よりだんご

「猪狩、花見しようぜ!」
 団子と酒の入った袋を持ち上げながらそんなことを言って人の家に突然押し掛け、酔っ払った挙句芝生の上で大の字になって寝てしまうような人間を、猪狩は他に知らない。庭師によって美しく剪定された芝は随分と寝心地も良いのか、ぐーすか気持ちよさそうにいびきをかいて寝ているパワプロの顔を眺めながら猪狩は息をついた。
 猪狩の家は大きい。家というよりは豪邸といった装いで、当然ながら「庭」のスケールも一般家庭の認識とは大きく外れたものになる。だから確かに、自宅でありながら悠々と花見は出来るし目の前に桜も咲いているわけであるが、それにしてもこの男のやることは唐突だ。せめて事前に連絡してから来ることは出来ないのだろうか。
 そういう男を横目に見ながら、猪狩はパワプロが持参した団子を一口齧った。美味い。思わず団子を持ち上げてまじまじと眺める。包んであった袋に書いてある店名を確認するも、猪狩には全く知らない店であった。もぐもぐと咀嚼しながら、無意識にもう一本取り上げる。桃白緑の三色が美しい模範的な花見団子の次は、別の容器に分けて入っているみたらし団子。これまた美味い。たっぷりと甘めのタレがかかっているのも、猪狩の好みに合っていた。猪狩は、甘いものが好きだ。
 それにしても、家で花見とはよく思い付いたものだ。もう一本みたらし団子を手に取りながら、猪狩は隣で眠り続ける男を眺める。こいつはいつでもユニフォーム姿だ。いつものことなのに、なぜだか今日は無性に笑いが込み上げて来て、猪狩は誰も見ていないのをいいことに声を出して笑った。気分がいい。春の陽気と団子と桜が、猪狩を上機嫌にさせている。そうに違いなかった。
「おいパワプロ。バカは風邪を引かないとは言うが、いい加減起きないか」
 猪狩が肩を揺すって起こしてやるも、パワプロは少しだけ身じろぎをして、また眠ってしまった。おい、と先程よりもすこし大きい声で呼ぶ。幼い仕草で目を擦ってみせたパワプロは、それでも起きることはなく、何を思ったのか猪狩の方へ手を伸ばした。なんだと言う間もなく、パワプロは猪狩の膝に自分の頭を乗せてしまうのだった。ちょうどいい枕を手に入れたパワプロは、再び目を瞑って寝てしまった。猪狩が声を掛けても知らないフリだ。
「……」
 あまりに自由きままな様子の男に、猪狩はそれ以上なにも言葉が出て来なかった。意外にも嫌ではなかったとか、寝顔をもう少し見ていたいとか、膝に乗る重さと温もりが存外に心地良いとか、そんな理由では断じてない。決してない。ただ呆れて言葉にならなかっただけだ。そういうことにして、猪狩はいつも被っているパワプロの帽子をそっと取り上げて、その頭を撫でた。




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たまには普通の甘いやつ(?)
主人公ちゃんが最初のひとことしか喋ってないところがみどころです。

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