エクストリーム・ラバーズ
「キミはボクを好きになる」
いつだったか猪狩がそんなことを言ったあの日からあっという間に季節は巡って、また春が来た。猪狩というのは同じ部活動で野球をしている同級生のことで、同じ学校に通うようになる前から何かしら縁のある不思議なやつだった。あるときはリトルの試合で、あるときは近所の河原で、猪狩とは昔からたびたびいろんなところで遭遇した。高校生になったら、とうとう同じ学校で野球をすることになったのだから、驚きだ。そう言うと、そのときの猪狩も別段驚いた様子はなくて、オレと野球部で出会うことにも当然といった風情であった。猪狩の考えていることはよく分からない。今も、昔も。
「ていうか、好きか嫌いかで言ったら好きっていうか、そんなの当たり前じゃないか?」
「なんの話だ」
オレの話に興味がなさそうな猪狩は、隣でマグドのシェイクを啜っている。ハンバーガーを初めて食べるなどと言うものだから、最初は猪狩流のギャグなのかとも思ったが、どうやら本気のようだったので、オレは注文の仕方から食べ方まで付き合ってやるのだった。ポテトも気に入ったようだが、いちばんのお気に入りはシェイクのようだ。自分はイチゴ味を飲んでいるのに、オレの頼んだバニラまで飲んでしまうのだからよっぽどだ。腹を壊さなければいいが、それを言うと猪狩は当然だろうと鼻を鳴らした。
もうすでに桜が散り終わってしまった木々たちは、緑の葉が生い茂っていて新緑の季節を思わせる。テイクアウトして公園のベンチに並んで腰掛けながら食べるハンバーガーは、なんだかいつもより美味しいような気がした。部活動のない日は、こうして猪狩と寄り道をするのも恒例となっていた。これを食べ終わったら、キャッチボールをすることになるのがお決まりの流れだ。お互いグラブとボールはいつも持ち歩いている。
「いい天気だなあ。このあとキャッチボールする?」
「もちろんだ」
「今日はこのあとバッセンも行かない?」
「いいだろう。フッ、この前あれだけボクにしてやられたというのに、キミは懲りないらしいな」
「あれは、あの日たまたま調子が悪かっただけだろ!今日は絶対勝つ!…あ、猪狩、口のとこついてる」
「ん」
「ちがう逆。っていうか逆も」
「……」
「よしオッケー。なんかさーこういう時間っていいよな。いつもは練習超ハードだし」
「キミは、だらけすぎだ」
「それがいいんじゃんのんびりしてて。なんか、こうしてるとお前のこと好きだなーってすげえ思うし」
「ん?」
「んっ?」
「え?」
「猪狩、どうしたんだよ」
「それはこっちのセリフだろう、何がなんだって」
「いや、だから!まあいいや」
「よくない」
「いいって」
「男らしくないぞ、一度自分で言ったことはきちんと責任を持て」
「もういっかい、聞きたい?」
「なんだその顔は」
「聞きたい?」
「べつに。だからその顔はなんだ。あと近いぞ」
「じゃあ、勝負しようぜ」
「勝負?」
「バッセンで、今日オレがお前に勝ったら、もう一回言うよ」
「言うつもりないだろう、それ」
「どういう意味だよ!オレは今日、絶対お前に勝つ」
「まあせいぜいがんばることだね」
「そうと決まれば行くぞ猪狩!」
「おい引っ張るな!」
いつから好きなんて、そんな野暮なこと考えもつかないくらい、好きだったよ。昔も、今も。オレも、お前も。それでも言いたいし、聞きたいものなんだろうなと、いま知った。掴んでいた猪狩の腕を離して、かわりに手の平を握る。驚いた顔をした猪狩が、おそるおそる握り返してくる感触にオレは我慢出来ずに笑ってしまって、猪狩は怒って、オレはまた、笑ってしまった。
了
ーーーーーーーー
最近主守を書くとどうにも熟成感が出てしまって、もっと初々しい二人が見たい!という謎の葛藤があります
とか言いたかったけど熟成感のある二人が大好きですからねわたくし!しゅまも
いつだったか猪狩がそんなことを言ったあの日からあっという間に季節は巡って、また春が来た。猪狩というのは同じ部活動で野球をしている同級生のことで、同じ学校に通うようになる前から何かしら縁のある不思議なやつだった。あるときはリトルの試合で、あるときは近所の河原で、猪狩とは昔からたびたびいろんなところで遭遇した。高校生になったら、とうとう同じ学校で野球をすることになったのだから、驚きだ。そう言うと、そのときの猪狩も別段驚いた様子はなくて、オレと野球部で出会うことにも当然といった風情であった。猪狩の考えていることはよく分からない。今も、昔も。
「ていうか、好きか嫌いかで言ったら好きっていうか、そんなの当たり前じゃないか?」
「なんの話だ」
オレの話に興味がなさそうな猪狩は、隣でマグドのシェイクを啜っている。ハンバーガーを初めて食べるなどと言うものだから、最初は猪狩流のギャグなのかとも思ったが、どうやら本気のようだったので、オレは注文の仕方から食べ方まで付き合ってやるのだった。ポテトも気に入ったようだが、いちばんのお気に入りはシェイクのようだ。自分はイチゴ味を飲んでいるのに、オレの頼んだバニラまで飲んでしまうのだからよっぽどだ。腹を壊さなければいいが、それを言うと猪狩は当然だろうと鼻を鳴らした。
もうすでに桜が散り終わってしまった木々たちは、緑の葉が生い茂っていて新緑の季節を思わせる。テイクアウトして公園のベンチに並んで腰掛けながら食べるハンバーガーは、なんだかいつもより美味しいような気がした。部活動のない日は、こうして猪狩と寄り道をするのも恒例となっていた。これを食べ終わったら、キャッチボールをすることになるのがお決まりの流れだ。お互いグラブとボールはいつも持ち歩いている。
「いい天気だなあ。このあとキャッチボールする?」
「もちろんだ」
「今日はこのあとバッセンも行かない?」
「いいだろう。フッ、この前あれだけボクにしてやられたというのに、キミは懲りないらしいな」
「あれは、あの日たまたま調子が悪かっただけだろ!今日は絶対勝つ!…あ、猪狩、口のとこついてる」
「ん」
「ちがう逆。っていうか逆も」
「……」
「よしオッケー。なんかさーこういう時間っていいよな。いつもは練習超ハードだし」
「キミは、だらけすぎだ」
「それがいいんじゃんのんびりしてて。なんか、こうしてるとお前のこと好きだなーってすげえ思うし」
「ん?」
「んっ?」
「え?」
「猪狩、どうしたんだよ」
「それはこっちのセリフだろう、何がなんだって」
「いや、だから!まあいいや」
「よくない」
「いいって」
「男らしくないぞ、一度自分で言ったことはきちんと責任を持て」
「もういっかい、聞きたい?」
「なんだその顔は」
「聞きたい?」
「べつに。だからその顔はなんだ。あと近いぞ」
「じゃあ、勝負しようぜ」
「勝負?」
「バッセンで、今日オレがお前に勝ったら、もう一回言うよ」
「言うつもりないだろう、それ」
「どういう意味だよ!オレは今日、絶対お前に勝つ」
「まあせいぜいがんばることだね」
「そうと決まれば行くぞ猪狩!」
「おい引っ張るな!」
いつから好きなんて、そんな野暮なこと考えもつかないくらい、好きだったよ。昔も、今も。オレも、お前も。それでも言いたいし、聞きたいものなんだろうなと、いま知った。掴んでいた猪狩の腕を離して、かわりに手の平を握る。驚いた顔をした猪狩が、おそるおそる握り返してくる感触にオレは我慢出来ずに笑ってしまって、猪狩は怒って、オレはまた、笑ってしまった。
了
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最近主守を書くとどうにも熟成感が出てしまって、もっと初々しい二人が見たい!という謎の葛藤があります
とか言いたかったけど熟成感のある二人が大好きですからねわたくし!しゅまも
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