あなたに殺してほしかった
猪狩進→主守
口火を切ったのは兄の方だった。
「ボクたち、交際しているんだ」
いつもの柔和な仮面でやり過ごそうと試みたが、真正面から己を射抜く兄の視線がそれを許さなかった。笑おうとした頬は固まったまま動かず、無様な表情を見せたに違いない。兄は少しだけ戸惑ったようなそぶりを見せ、それでもいつものようにはっきりとした口調で言い切った。
ボクとパワプロは、少し前から付き合っている。その、いわゆる男女間における意味合いでの交際だ。こんなの、どうかしているだろう。それは、自分でもよく分かっているんだ。分かっているのに、どうしてもやめることが出来なかった。認めたくはないけど、ボクはパワプロのことが好きだったんだ。今まで、進にもたくさん迷惑をかけたな。パワプロとのことで、巻き込んで迷惑を掛けて悪かった。今後は、その、あいつとはもっと上手くやるようにするから、進にも迷惑を掛けることはなくなると思う。
お前には一度、きちんと話をしておこうと思っていたんだ。今までありがとう。
ありがとう、もう一度繰り返すと、兄は恥ずかしそうに少しだけ笑った。それが何を意味しているのか僕には理解できない。唯一理解できたのは、終わってしまったということだった。パワプロさんに片想いしていた僕の世界は、とうとう今日で終わりを告げてしまった。随分とまあ、あっけないものだ。
僕はずっとパワプロさんのことが好きだった。兄に思いを寄せているパワプロさんが好きだった。だって、僕が初めてパワプロさんに出会った日から、彼の目は兄だけを見ていたのだから。それでも、良かった。ただ近くにいられるだけで僕は満足だったし、「猪狩守の弟」という事実は、彼に近付くためのこの上ない最高の口実だったからだ。猪狩守の弟である僕に対して、彼はとても優しく接してくれた。
兄がパワプロさんに好意を抱いているということもとっくに見抜いていた。嘘をつくことが出来ない兄の態度はあまりにも分かりやすかったし、パワプロさんもまた、兄への好意を隠さなかった。彼らは、誰の目から見ても両想いなのであった。
それを知らないふりをして、いや、知った上でなかったことにして、僕はパワプロさんの傍にいた。彼らが喧嘩をすれば仲裁に入ったし、橋渡しのような役割を担っていた。兄が僕に対して詫びたのはおそらくこの部分に対してであろう。
僕は、彼らが喧嘩するたび密かに喜んでいたのだ。僕を頼ってくれるパワプロさんが嬉しかった。彼が零す兄の愚痴を聞きながら傍にいられるのが楽しかった。僕の口からは、思ってもいないことが次々と零れて落ちた。
「進くんは、優しいなあ」
そう言う彼は、とても優しかった。
「進?」
呼び掛けられて、兄の方を見る。いつだって、僕の前を行く兄だ。自らの手で道を切り開き、欲しいものは自分の力で手に入れてきた兄。成功と栄光は、兄の元へ惜しみなく降り注ぐためのものだった。僕はそれを、ずっと昔からいちばん近くで見てきたのだ。
「そう。兄さんおめでとう。パワプロさんと仲良くね」
その後に自分がなんと言ったのか、僕はもう忘れてしまった。思い出す必要も、覚えておく必要もないだろう。
―――――――――
こういうのが好きすぎる
口火を切ったのは兄の方だった。
「ボクたち、交際しているんだ」
いつもの柔和な仮面でやり過ごそうと試みたが、真正面から己を射抜く兄の視線がそれを許さなかった。笑おうとした頬は固まったまま動かず、無様な表情を見せたに違いない。兄は少しだけ戸惑ったようなそぶりを見せ、それでもいつものようにはっきりとした口調で言い切った。
ボクとパワプロは、少し前から付き合っている。その、いわゆる男女間における意味合いでの交際だ。こんなの、どうかしているだろう。それは、自分でもよく分かっているんだ。分かっているのに、どうしてもやめることが出来なかった。認めたくはないけど、ボクはパワプロのことが好きだったんだ。今まで、進にもたくさん迷惑をかけたな。パワプロとのことで、巻き込んで迷惑を掛けて悪かった。今後は、その、あいつとはもっと上手くやるようにするから、進にも迷惑を掛けることはなくなると思う。
お前には一度、きちんと話をしておこうと思っていたんだ。今までありがとう。
ありがとう、もう一度繰り返すと、兄は恥ずかしそうに少しだけ笑った。それが何を意味しているのか僕には理解できない。唯一理解できたのは、終わってしまったということだった。パワプロさんに片想いしていた僕の世界は、とうとう今日で終わりを告げてしまった。随分とまあ、あっけないものだ。
僕はずっとパワプロさんのことが好きだった。兄に思いを寄せているパワプロさんが好きだった。だって、僕が初めてパワプロさんに出会った日から、彼の目は兄だけを見ていたのだから。それでも、良かった。ただ近くにいられるだけで僕は満足だったし、「猪狩守の弟」という事実は、彼に近付くためのこの上ない最高の口実だったからだ。猪狩守の弟である僕に対して、彼はとても優しく接してくれた。
兄がパワプロさんに好意を抱いているということもとっくに見抜いていた。嘘をつくことが出来ない兄の態度はあまりにも分かりやすかったし、パワプロさんもまた、兄への好意を隠さなかった。彼らは、誰の目から見ても両想いなのであった。
それを知らないふりをして、いや、知った上でなかったことにして、僕はパワプロさんの傍にいた。彼らが喧嘩をすれば仲裁に入ったし、橋渡しのような役割を担っていた。兄が僕に対して詫びたのはおそらくこの部分に対してであろう。
僕は、彼らが喧嘩するたび密かに喜んでいたのだ。僕を頼ってくれるパワプロさんが嬉しかった。彼が零す兄の愚痴を聞きながら傍にいられるのが楽しかった。僕の口からは、思ってもいないことが次々と零れて落ちた。
「進くんは、優しいなあ」
そう言う彼は、とても優しかった。
「進?」
呼び掛けられて、兄の方を見る。いつだって、僕の前を行く兄だ。自らの手で道を切り開き、欲しいものは自分の力で手に入れてきた兄。成功と栄光は、兄の元へ惜しみなく降り注ぐためのものだった。僕はそれを、ずっと昔からいちばん近くで見てきたのだ。
「そう。兄さんおめでとう。パワプロさんと仲良くね」
その後に自分がなんと言ったのか、僕はもう忘れてしまった。思い出す必要も、覚えておく必要もないだろう。
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こういうのが好きすぎる
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