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ごめんなさい

ごめんなさい

 初めは、あなたを利用するために近付きました。我ながら浅はかで軽率で救いのない理由です。僕、猪狩進という人間は、幸も不幸も、良くも悪くも、兄の猪狩守に多大な影響を受けてここまで大きくなりました。兄のことが好きなのか、嫌いなのか、大人になった今でも未だに判然としません。誰より憎んでいるような気もするし、それでいて誰より愛しいような気もするのです。兄から離れたいような、離れたくないような、とにかく僕の人生にとって兄とはそういう人でした。
 そういった折、僕の人生にひとつの転機が訪れました。父があるプロ野球球団を買収して、自分の名前を付けてしまったのです。猪狩カイザース。その日から僕と兄はチームメイトとなり、いつだったか学生の時のように共に励むようになりました。
 そのときに現れたのが、あなたです。僕にとって、あなたの存在は異質で、衝撃を与えるに十分なものでした。だって、あの兄が、野球に関しては人一倍厳しい兄が、お世辞にも実力があるとは思えないあなたに、妙に突っかかっていっては構うものですから。そもそも僕は、兄のあんな顔を今までに見たことがありません。あなたに対する態度も声も仕草も、僕にとってはセンセーショナルでした。兄が、僕を差し置いてあなたに構うことが、にわかには信じられなかったのです(兄は昔から重度のブラコンだったのですよ)。
 だからあなたに興味を持ちました。兄の気を引くために、あなたを利用しようと考えました。残念ながら僕も、極度のブラザーコンプレックスの持ち主なのです。兄が好きなあなたを好きだと言って、僕は笑いました。

「今日は、ケーキを焼いたんですよ」
「わあ、すごい!進くんって本当になんでも出来るんだね」
「大袈裟ですよ」
 恋人であるパワプロさんがそう言ったのを聞きながら、僕は淹れたばかりの紅茶を差し出しました。昼下がり、いつものように僕の家に遊びに来た彼と、穏やかなティータイムを過ごしていました。信じられないことに彼はまんまるのケーキをひとつぺろりと平らげてしまいました。だって、進くんの作ったケーキが美味しすぎるんだもん。子供のような口ぶりに、僕は笑います。
「さすがにちょっと苦しいかも……」
「ふふ、食べすぎですよ」
「生クリームがほんとに美味しかったー」
 ソファに腰掛けた彼は、お腹をさすりながら、今も僕の焼いたケーキのことを褒めてくれています。世界一美味しいなんて、あまりに大袈裟なリップサービスのように聞こえますが、彼は本気で言っているのです。そういう人でした。胸の奥が温かくなる感覚。自然と、口をついて出ていました。
「僕、あなたのことが好きです」
「うん、知ってるよ」
 柔らかく笑うその顔に、僕は違うと叫び出したくなりました。違う。違うんです。僕は本当にあなたのことが好きなんです。
「僕、パワプロさんのことが好きです」
「オレも進くんが好きだよ」
 その言葉を聞くたびに、僕はなんて馬鹿なことをしてしまったんだろうと思いました。自責の念に駆られるなどとどの口が言うのかと、深い後悔が胸を突き刺します。あなたと過ごすたび、あなたを知るたび、僕は本当にあなたのことを好きになってしまったんです。そんなこと、言えるわけがないのに。だってそんなことを言えば、あなたは僕のことを嫌いになるでしょう。あなたに嫌われる僕が、僕は嫌いです。だから言ってはいけない。なのに、あなたの顔を見ていたら、これ以上嘘をつくのはもう無理だとも思いました。
「違うんです」
僕は、
「うん?」
「僕、本当にあなたのことが好きなんです」
 やっぱりほんとのことなんて言えない卑怯な僕は、さっきと似たような言葉を繰り返しました。きょとんとした後で、パワプロさんが、優しく笑います。
「うん、知ってるよ」
 それはさっきと同じ返事でしたが、さっきとはまるで違う意味の返事でした。ああ。パワプロさんは、最初から、ぜんぶ、ぜんぶ知っていたんですね。それなのに、一度も僕のことを責めないで、僕の好きにさせてくれていたんですね。ああ。
「好きです」
 ごめんなさいと言ったつもりの僕の言葉にパワプロさんはやっぱり笑って、頭を撫でてくれました。思わず泣いてしまった僕に、パワプロさんはさっきと同じ言葉をもう一度だけ繰り返して、優しいキスをひとつ、くれました。





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屈折した進が好きだからすぐこういうの書くけどまじのまじのまじに好きです
ごめんなさいする進くん超゛かわいいよ
好き

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