忍者ブログ

ハートホイップ

プロ入り後の主人公と進


ドキドキと早まる鼓動を抑えきれずに、オレは切符と携帯電話を握りしめて改札をくぐり抜けた。
ちょうどホームへと滑り込んできた電車へタイミング良く乗車する。
ここから普通電車に乗って3駅。
ガタンゴトンとのんびり走る列車に妙な安心感を覚えてオレは大きく息をついた。
最寄り駅からたったの3駅先、そこに彼の住むマンションがある。
近いような、遠いようなもどかしい距離だ。
その気にさえなればいつでも会いに行ける距離。
嬉しいような、落ち着かないような、いや、もちろん嬉しいに決まっている。

にやけそうになる顔を必死でこらえながらオレは再び携帯の画面に目を落とした。

お休みのところ突然すみません。猪狩です。
ケーキを焼いたのですが、作りすぎてしまったので良かったら食べていただけないでしょうか。
ご連絡お待ちしています。

短い文面を何度も読み返して、From欄「猪狩進」の文字に頬が綻ぶ。
携帯を眺めてはニヤニヤしているオレは傍から見れば立派な不審者に違いないのだが、初めてもらったメールがこのような嬉しい内容であるのだから喜ぶなという方が無理な話である。
メールアドレスはとうに交換していたが、実際にメールをもらうのは初めてだった。
オレの方からも、進くんにメールを送ったことは今までに一度もない。

チームメイトの彼とはここ最近で随分と仲良くなったが、どこかへ一緒に行くのはいつも決まって練習後のことであったし、チームメイトなので何かあればしょっちゅう顔を見合わせているわけでわざわざメールをする用もなかった。
もちろん、アドレスを交換してから何度もメールをしようと思ったのだが、いかんせんオレにはメールで伝えなければならないような用件を思いつくことができなかったのである。
そんな折に、先ほどのメールだ。
オフである今日一日をどう過ごそうか布団の上でごろごろしながら考えていたオレは、あまりの嬉しさから一気に目が覚めて飛び起きた。
気が付けばアドレス帳から彼の名前を探して電話をかけていた。

(でも、突然家なんかに押しかけちゃってほんとに良かったのかな~)

嬉しさのあまり勢い込んで電話してしまったオレは、気が付けばそのままのノリで今から行くよなどと言ってしまったのだった。
そこからはもう怒涛の展開で、家の場所を尋ねればなんと自宅の最寄駅からたったの3駅先、さらに「僕の予定は今日一日空いていますよ」などと彼も言うものだから、今日は進くんの家で遊ぶことになった。
ここまでとんとん拍子で話が運んでしまって大丈夫だろうかとは思うけれども、反面どうしようもない胸の高鳴りを抑える方法など分からない。
そしてここにきてようやく、オレは彼に抱いていた気持ちの正体を知ったのだった。
分かってしまえば至極単純なものである。

それにしても、少し前に本屋へ寄った時、料理をするのが好きだという話は聞いていたのだが、まさかケーキまで作れるだなんて驚いた。
進くんと手作りケーキの組み合わせ。驚くほど違和感がない。
ケーキのスポンジのようにふわふわと笑う彼を想像してオレはまたもニヤニヤしてしまうのだった。

電車は乗った時と同じように滑らかにホームへとすべり込む。
踏み出した一歩はどうしようもなく軽くて、オレは半分スキップをしながら階段を駆け下りた。





「ど、どうしよう、今からパワプロさんが来ちゃう…!」

握りしめた携帯と目の前のケーキを眺める。喉はからからで、胸はどうしようもなく早鐘を打っていた。
メールなどして大丈夫だったろうかという心配をよそに、パワプロさんからはすぐに返信があった。それも、メールではなく電話で。
ディスプレイに表示された名前にどきどきしてしまって、あとはもうずっとふわふわした心地のまま通話は終了し、気が付けば彼が自分の家に来ることになっていた。
自分は変なことを言わなかっただろうか、チームメイトとしていきすぎたことをしていないだろうか。

「部屋、片づけなくちゃ…」

あわてて部屋を見渡すも、普段からこまめに掃除をしているので別段片付けが必要なところは見つからない。
それでも落ち着かない気分のまま、進は部屋の中を行ったり来たりうろうろするのだった。

ケーキを焼こうと思ったのはほんの気まぐれだった。
たまたま買った料理の本に載っていたので、ちょうど甘いものが食べたかったのもあり作ってみた。
ショートケーキにしたのは、以前に彼が好きだと言っていたのを思い出したからだった。
そして、仕上げの生クリームをしぼり終わったところでようやく我に返った。
そこにあるのは、初めてにしては上手く出来たという喜びと、一体何をやっているんだろうという自問だった。
自分で食べるものなのでレシピもそこそこに適当に作るはずだったのだが、彼のことを思い浮かべながらの作業にはだんだんと熱が入り、気が付けばデコレーションまで完璧に施されたホールケーキがそこにはあった。
乗せられたイチゴの上には粉砂糖まで振りかけてある。
何かをする際、凝り性になってしまうのは昔からだった。

余った生クリームを舐めながらケーキを見つめること数分の後、いつしか彼にこのケーキを食べてもらいたいという思いが湧きあがっていた。
手作りを食べてもらいたいだなんてどこの女の子だと自身に突っ込みを入れながらも、自分の作ったケーキを食べてきっとおいしいと言ってくれるだろう彼のことを考えると胸が高鳴った。
おいしいよ、進くんはなんでもできるんだね。
にっこり笑うその顔はケーキよりも甘いにちがいない。

気が付くとメールをしていて、さらに気が付けば今からパワプロさんが自宅へ来ることになっていた。
まさか自分のマンションからさほど離れていない場所に住んでいるとは思わずに驚いている。
これからは練習後だけではなく、もう少し頻繁に会えるようになるだろうか。いや、それよりも今はこれからのことを考えなければならない。
来客用のお皿とカップを…、背伸びをして少し高い位置にある食器をとろうとしたところでチャイムが鳴った。
あわてた進はエプロンを外すのも忘れて玄関へと急ぐのだった。



―――――――
進がケーキ焼いてたらかわいいよねってことが言いたかっただけなので、意味も内容もありません。
オチは主人公ちゃんが食べました。
ケーキ食べたい

拍手

PR

カレンダー

03 2026/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30

最新記事

ブログ内検索

忍者アナライズ