アイスブルー
※設定、時系列総無視なのですべてを許せる心の広い方向け
進守
着信を告げるライトがぱかぱかと光を灯している。
机の上に置いてある携帯電話を一瞥しながら僕は鞄のチャックを閉めた。
荷物はこれだけ。詰めてみると意外にも少ないそれに僕は少しだけ笑った。
誰が何と言おうと、これは僕にとって新たなる門出。めでたい日なのだ。
アイスブルーに点滅するライトを眺めながら僕は携帯電話をポケットにしまった。
父さんと母さんにはもう事前にあいさつを済ませていたから、僕は少ない荷物を提げてさっさと自宅を後にすることにした。
長い長い廊下を歩いて、ようやく玄関のホールが見えてくる。
今日から僕は一人暮らしをするために、この家を出ていくのだった。見送りなど特になかったし、必要なかった。世話になった使用人の数人から見送りたい旨を伝えられたが、僕はそれをきっぱりと断った。今までお世話になりました。さようなら。
玄関から表に出て、門にたどり着くまでがもう少し。
表には当然のように猪狩専属のドライバーが控えていたが、僕はやんわりと断って歩き始めた。まさか歩くのかというドライバーの視線を振り切って僕は進む。
門まで出たらタクシーを呼んであるので、それに乗って新居へ向かう予定だ。
風がさわさわと木々を揺らし、僕の頬を撫でていく。
心地の良い日の光が射すそこには手入れの行き届いた庭園がある。父さん自慢の庭だった。昔はよくここでキャッチボールをしたものだ。子供のときはキャッチボールすらままならないくらいの下手くそで、よくボールを取りこぼしてはなくしたりしていた。ボールがなくなることはもちろん困ったが、2人でボールを探すために一緒になって草むらに顔を突っ込んで遊ぶのは好きだった。しかし、この庭を見ることもしばらくはない。
僕はもうこの家に戻ってくるつもりはなかったし、一人前の野球選手として活躍できるまで、父さんと母さんに会うつもりもなかった。自分が一人でどこまでできるのか試したかった。
タクシーに乗り込み行き先を告げる。
どんどん小さくなる猪狩邸を視界の端に入れながら僕は携帯電話を取り出した。
ライトはいまだにぱかぱかと点滅している。
誰からの着信なのか確かめたくない僕は、携帯を手の中で持て余したまま少しだけ息を吐き出した。
猪狩守とは僕の兄のことである。
猪狩と言えば兄のことを指し、猪狩の弟と言えば僕のことを指すのが学生時代の常であった。
僕はずっと兄の後ろを歩いてきたし、兄の背中を眺めながら生きてきた。
そんな生き方に疑問を持たない時期も、確かにあった。僕は兄のことを慕っていたし、兄もまたそんな僕を何かと気をかけてくれていた。
窓の外をぼんやりと眺めていると雨が降ってきた。さっきまで晴れていたというのに変な天気だ。
今夜は豪雨になるそうですねと運転手が言う。そうなんですね、答えながら僕は鞄の中から折り畳み傘を探し当てる。進は準備がいいな、唐突に兄の声が頭の中をよぎり、僕は少しだけ頭を振ってやり過ごす。
進はボクの弟だからね。
そうだよ兄さん、僕はあなたの弟だ。
オリックスへの入団を希望していることも、一人暮らしを始めることも、兄には何一つ告げていなかった。嘘をついていたわけではない。兄は何も聞かなかったし、僕も何も言わなかっただけだ。
なぜだか僕が自分と同じ球団へ入団するとばかり思い込んでいたらしい兄の様子は、僕からすれば不思議でしかなかった。なぜ僕が自分と同じ球団を希望していると信じきっているのだろう。兄には昔からそういうところがあった。
兄のことを好いているのか嫌っているのか、僕にはよく分からない。
殺したいほど憎いような気もするし、自分のすべてを懸けて愛しているような気さえする。
よく分からない。
兄に対して、好意以外の感情を持つようになったのはいつの頃だっただろうか。
進はボクの弟だからね、その言葉が疎ましいと感じるようになったのはいつからだったか。
僕たちは唯一無二の兄弟だ。
僕のことを弟と呼べるのは兄だけだし、兄のことを兄さんと呼べるのは僕だけだ。
世界でただ、2人だけ。その世界をどういう色で見るのか、それはすべて僕次第なのだ。
アイスブルーのライトはいまだに点滅し続けている。
その青色にまで兄を見てしまった僕は、ブラザーコンプレックスの重病者なのかもしれなかった。だって、ああ、そんなの仕方ないだろう。ずっと一緒にいたんだもの。僕の世界の色とはつまり、兄のいる世界だったんだもの。
記憶の中にある兄の瞳は青く美しく、いつだって澄んでいた。
雨足が強くなり、窓ガラスを激しく打ち鳴らしていた。タクシーが止まる。
携帯を鞄の中に閉まって、代わりに折り畳み傘を開く。
踏み出した一歩は雨で濡れたが、雨遊びをする子供のような心持になって、僕はほんの少しだけ笑った。
―――――――――
この進って何才なんですかね
時期的にどこになるんですかね
普通に考えて一人暮らしの前にまずは寮生活ですよね
ていうか一人暮らしってカイザース時代じゃないの
\(^^)/
考えるな感じろを極めるとこうなるんですね~
猪狩兄弟が好きなだけ
進守
着信を告げるライトがぱかぱかと光を灯している。
机の上に置いてある携帯電話を一瞥しながら僕は鞄のチャックを閉めた。
荷物はこれだけ。詰めてみると意外にも少ないそれに僕は少しだけ笑った。
誰が何と言おうと、これは僕にとって新たなる門出。めでたい日なのだ。
アイスブルーに点滅するライトを眺めながら僕は携帯電話をポケットにしまった。
父さんと母さんにはもう事前にあいさつを済ませていたから、僕は少ない荷物を提げてさっさと自宅を後にすることにした。
長い長い廊下を歩いて、ようやく玄関のホールが見えてくる。
今日から僕は一人暮らしをするために、この家を出ていくのだった。見送りなど特になかったし、必要なかった。世話になった使用人の数人から見送りたい旨を伝えられたが、僕はそれをきっぱりと断った。今までお世話になりました。さようなら。
玄関から表に出て、門にたどり着くまでがもう少し。
表には当然のように猪狩専属のドライバーが控えていたが、僕はやんわりと断って歩き始めた。まさか歩くのかというドライバーの視線を振り切って僕は進む。
門まで出たらタクシーを呼んであるので、それに乗って新居へ向かう予定だ。
風がさわさわと木々を揺らし、僕の頬を撫でていく。
心地の良い日の光が射すそこには手入れの行き届いた庭園がある。父さん自慢の庭だった。昔はよくここでキャッチボールをしたものだ。子供のときはキャッチボールすらままならないくらいの下手くそで、よくボールを取りこぼしてはなくしたりしていた。ボールがなくなることはもちろん困ったが、2人でボールを探すために一緒になって草むらに顔を突っ込んで遊ぶのは好きだった。しかし、この庭を見ることもしばらくはない。
僕はもうこの家に戻ってくるつもりはなかったし、一人前の野球選手として活躍できるまで、父さんと母さんに会うつもりもなかった。自分が一人でどこまでできるのか試したかった。
タクシーに乗り込み行き先を告げる。
どんどん小さくなる猪狩邸を視界の端に入れながら僕は携帯電話を取り出した。
ライトはいまだにぱかぱかと点滅している。
誰からの着信なのか確かめたくない僕は、携帯を手の中で持て余したまま少しだけ息を吐き出した。
猪狩守とは僕の兄のことである。
猪狩と言えば兄のことを指し、猪狩の弟と言えば僕のことを指すのが学生時代の常であった。
僕はずっと兄の後ろを歩いてきたし、兄の背中を眺めながら生きてきた。
そんな生き方に疑問を持たない時期も、確かにあった。僕は兄のことを慕っていたし、兄もまたそんな僕を何かと気をかけてくれていた。
窓の外をぼんやりと眺めていると雨が降ってきた。さっきまで晴れていたというのに変な天気だ。
今夜は豪雨になるそうですねと運転手が言う。そうなんですね、答えながら僕は鞄の中から折り畳み傘を探し当てる。進は準備がいいな、唐突に兄の声が頭の中をよぎり、僕は少しだけ頭を振ってやり過ごす。
進はボクの弟だからね。
そうだよ兄さん、僕はあなたの弟だ。
オリックスへの入団を希望していることも、一人暮らしを始めることも、兄には何一つ告げていなかった。嘘をついていたわけではない。兄は何も聞かなかったし、僕も何も言わなかっただけだ。
なぜだか僕が自分と同じ球団へ入団するとばかり思い込んでいたらしい兄の様子は、僕からすれば不思議でしかなかった。なぜ僕が自分と同じ球団を希望していると信じきっているのだろう。兄には昔からそういうところがあった。
兄のことを好いているのか嫌っているのか、僕にはよく分からない。
殺したいほど憎いような気もするし、自分のすべてを懸けて愛しているような気さえする。
よく分からない。
兄に対して、好意以外の感情を持つようになったのはいつの頃だっただろうか。
進はボクの弟だからね、その言葉が疎ましいと感じるようになったのはいつからだったか。
僕たちは唯一無二の兄弟だ。
僕のことを弟と呼べるのは兄だけだし、兄のことを兄さんと呼べるのは僕だけだ。
世界でただ、2人だけ。その世界をどういう色で見るのか、それはすべて僕次第なのだ。
アイスブルーのライトはいまだに点滅し続けている。
その青色にまで兄を見てしまった僕は、ブラザーコンプレックスの重病者なのかもしれなかった。だって、ああ、そんなの仕方ないだろう。ずっと一緒にいたんだもの。僕の世界の色とはつまり、兄のいる世界だったんだもの。
記憶の中にある兄の瞳は青く美しく、いつだって澄んでいた。
雨足が強くなり、窓ガラスを激しく打ち鳴らしていた。タクシーが止まる。
携帯を鞄の中に閉まって、代わりに折り畳み傘を開く。
踏み出した一歩は雨で濡れたが、雨遊びをする子供のような心持になって、僕はほんの少しだけ笑った。
―――――――――
この進って何才なんですかね
時期的にどこになるんですかね
普通に考えて一人暮らしの前にまずは寮生活ですよね
ていうか一人暮らしってカイザース時代じゃないの
\(^^)/
考えるな感じろを極めるとこうなるんですね~
猪狩兄弟が好きなだけ
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