あなたの知らない恋心
※先天性で女の子な猪狩守ちゃん注意
(主←)守←進
ああ、またかとげんなりする。
柔らかな日差しが差し込む心地よい朝とは裏腹にボクの気分は最悪だった。
下腹部に鈍い痛みを感じながら起き上がる。動くと下半身がぬるりと冷たかった。
この様子では下着や寝間着にまで血が付いているに違いなかった。
壁にかけてあるカレンダーを眺めて、そういえばもう一月経つのかと己のうかつさを呪う。
どういうわけか寝ている間にくることの多いボクは、日が近くなると用意をしてから寝るのが常だったからだ。
そろそろと起き上がり布団をめくるとシーツにまで赤いものが付いていた。
使用人を呼んでシーツを片付けさせる。
お嬢様お召し物を…という声を振り切ってボクは洗面所へと向かう。こんなものを他人に洗ってもらうのは絶対にイヤだった。替えの下着と服を持ってボクは洗面台の前に立った。
ひととおりキレイになったそれらを洗濯待ちの籠にぽいと入れるとボクはついでに着替えることにした。
何しろ腹が痛いので体に力が入らない。のろのろとした動作でそれらを終えると、ボクは常備してある薬を飲んだ。
他人はどうか知らないが、ボクは初日にいちばん症状が重いことが多い。何もする気になれなくてボクはもう一度布団へと横になった。
「姉さん」
ノックの音に返事をすると、進が部屋に入ってくる。
朝一番に使用人がシーツを換えていることから合点がいったらしい弟はボクの顔を心配そうに眺めている。月に一度のよくある光景だ。
「姉さん、大丈夫ですか」
「いつも通りだ。薬も飲んだし、少し横になってる」
「無理はしないでくださいね」
「今日は一緒にロードワークに出る約束をしてたのに、ごめん」
「そんなこと気にしないで」
優しい弟は困ったようなはにかんだような顔で微笑んだ。
月経の痛みとホルモンバランスの乱れからくるイライラで面白くない顔をしているボクの頬に進の指が触れた。
「姉さんこわい顔してる」
「…してないよ」
布団越しに、進の掌がボクの下腹部をなでた。
ゆっくりと腹を撫でる進の動作にある種の心地良さを覚えてボクは少しだけ目をつむる。
こうして進がボクの腹を撫でるようになったのはいつからだったろうか。
中学に入学してすぐ、ボクは初潮を迎えた。
初めて経験する下腹部の鈍痛と、あらぬ場所から血が出るという事実にボクはおののいた。
なによりも、野球に対する姿勢が変わってしまうのが苦痛で仕方がなかった。
どんなにボールを投げたくても、腹の痛みでそれが叶わない日があった。どんなに対処をしても、下半身に感じる不愉快さからは逃れられなかった。普段通りの野球ができない、がんばっても己の努力だけではどうにもならないことが歯がゆくてたまらなかった。
ボクはただ野球がしたいだけなのに。
野球には不向きな女の身体を、女である自分のことを悲観したことは何度もある。
嘆いたこともあるし、そういう内容を進にだけは零したこともあった。
そのたびに弟は悲しい顔をして、「そんなことを言わないでください」とボクをたしなめるのだ。姉弟の立場が逆転するのはこのときだけだった。
「そうだ。今日は僕が紅茶を入れましょう。姉さんはアッサムが好きでしたね」
「いいよ、使用人に任せれば」
「そんなこと言わないで、たまには僕にもやらせてくださいよ」
そう言うと弟は紅茶のセットを取り出すと嬉々として準備を始めた。
その様子はボクに気を使っているというよりは、本当に自分がやりたいからやっているという感じだった。進は昔から紅茶を入れるのが好きだったし、確かに上手かった。それは高校生になった今も変わらない。
「今日はミルクをたっぷり入れたミルクティにしましょう。体も温まりますよ」
起き上がって、渡された紅茶に口をつける。
ミルクは並々たっぷりと、砂糖はほんの少しだけ。ボクの好きな、いつもの進が入れた紅茶だった。
「おいしい」
「ふふ。それは良かった」
にこにこしながら進も同じ紅茶を飲んでいる。ミルクティよりもストレートで飲むことを好む弟だったが、今日は自分と同じものを飲んでいるようだ。
体が温まるのはもちろんのこと、心の奥がむずがゆくなるように温かくなった。
「姉さんは、僕の自慢の姉さんですよ」
紅茶を飲む合間に進はそんなことを漏らした。それは思いがけず真剣なまなざしだった。
そして、進の言わんとすることをボクは解しているつもりだった。
「姉さん」の部分を強調する弟に、ボクはにやりと微笑んでやる。
「当たり前だ。なんたってボクは天才猪狩守だからね」
微笑む弟におかわりを要求すると、進は嬉々としてボクのカップに新たな紅茶を注ぐのだった。
柔らかな日差しが差し込む午前のひとときだ。
―――――――
なまぐさい話ですいません
さりげなくシリーズになっているにょたまもちゃんです
これからも思いつく限り書いていきたいなと
いい加減書いたものの整頓がしたいところです
(主←)守←進
ああ、またかとげんなりする。
柔らかな日差しが差し込む心地よい朝とは裏腹にボクの気分は最悪だった。
下腹部に鈍い痛みを感じながら起き上がる。動くと下半身がぬるりと冷たかった。
この様子では下着や寝間着にまで血が付いているに違いなかった。
壁にかけてあるカレンダーを眺めて、そういえばもう一月経つのかと己のうかつさを呪う。
どういうわけか寝ている間にくることの多いボクは、日が近くなると用意をしてから寝るのが常だったからだ。
そろそろと起き上がり布団をめくるとシーツにまで赤いものが付いていた。
使用人を呼んでシーツを片付けさせる。
お嬢様お召し物を…という声を振り切ってボクは洗面所へと向かう。こんなものを他人に洗ってもらうのは絶対にイヤだった。替えの下着と服を持ってボクは洗面台の前に立った。
ひととおりキレイになったそれらを洗濯待ちの籠にぽいと入れるとボクはついでに着替えることにした。
何しろ腹が痛いので体に力が入らない。のろのろとした動作でそれらを終えると、ボクは常備してある薬を飲んだ。
他人はどうか知らないが、ボクは初日にいちばん症状が重いことが多い。何もする気になれなくてボクはもう一度布団へと横になった。
「姉さん」
ノックの音に返事をすると、進が部屋に入ってくる。
朝一番に使用人がシーツを換えていることから合点がいったらしい弟はボクの顔を心配そうに眺めている。月に一度のよくある光景だ。
「姉さん、大丈夫ですか」
「いつも通りだ。薬も飲んだし、少し横になってる」
「無理はしないでくださいね」
「今日は一緒にロードワークに出る約束をしてたのに、ごめん」
「そんなこと気にしないで」
優しい弟は困ったようなはにかんだような顔で微笑んだ。
月経の痛みとホルモンバランスの乱れからくるイライラで面白くない顔をしているボクの頬に進の指が触れた。
「姉さんこわい顔してる」
「…してないよ」
布団越しに、進の掌がボクの下腹部をなでた。
ゆっくりと腹を撫でる進の動作にある種の心地良さを覚えてボクは少しだけ目をつむる。
こうして進がボクの腹を撫でるようになったのはいつからだったろうか。
中学に入学してすぐ、ボクは初潮を迎えた。
初めて経験する下腹部の鈍痛と、あらぬ場所から血が出るという事実にボクはおののいた。
なによりも、野球に対する姿勢が変わってしまうのが苦痛で仕方がなかった。
どんなにボールを投げたくても、腹の痛みでそれが叶わない日があった。どんなに対処をしても、下半身に感じる不愉快さからは逃れられなかった。普段通りの野球ができない、がんばっても己の努力だけではどうにもならないことが歯がゆくてたまらなかった。
ボクはただ野球がしたいだけなのに。
野球には不向きな女の身体を、女である自分のことを悲観したことは何度もある。
嘆いたこともあるし、そういう内容を進にだけは零したこともあった。
そのたびに弟は悲しい顔をして、「そんなことを言わないでください」とボクをたしなめるのだ。姉弟の立場が逆転するのはこのときだけだった。
「そうだ。今日は僕が紅茶を入れましょう。姉さんはアッサムが好きでしたね」
「いいよ、使用人に任せれば」
「そんなこと言わないで、たまには僕にもやらせてくださいよ」
そう言うと弟は紅茶のセットを取り出すと嬉々として準備を始めた。
その様子はボクに気を使っているというよりは、本当に自分がやりたいからやっているという感じだった。進は昔から紅茶を入れるのが好きだったし、確かに上手かった。それは高校生になった今も変わらない。
「今日はミルクをたっぷり入れたミルクティにしましょう。体も温まりますよ」
起き上がって、渡された紅茶に口をつける。
ミルクは並々たっぷりと、砂糖はほんの少しだけ。ボクの好きな、いつもの進が入れた紅茶だった。
「おいしい」
「ふふ。それは良かった」
にこにこしながら進も同じ紅茶を飲んでいる。ミルクティよりもストレートで飲むことを好む弟だったが、今日は自分と同じものを飲んでいるようだ。
体が温まるのはもちろんのこと、心の奥がむずがゆくなるように温かくなった。
「姉さんは、僕の自慢の姉さんですよ」
紅茶を飲む合間に進はそんなことを漏らした。それは思いがけず真剣なまなざしだった。
そして、進の言わんとすることをボクは解しているつもりだった。
「姉さん」の部分を強調する弟に、ボクはにやりと微笑んでやる。
「当たり前だ。なんたってボクは天才猪狩守だからね」
微笑む弟におかわりを要求すると、進は嬉々としてボクのカップに新たな紅茶を注ぐのだった。
柔らかな日差しが差し込む午前のひとときだ。
―――――――
なまぐさい話ですいません
さりげなくシリーズになっているにょたまもちゃんです
これからも思いつく限り書いていきたいなと
いい加減書いたものの整頓がしたいところです
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