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晴れときどき鍋

10/カイザース


ロッカーの扉を開けると、隣にいた友沢はもうすっかり帰り支度を整え終わったようで、飯に行くなら早くしてくださいよなどと言ってオレを急かした。
年が4つも下の新人ルーキーにしては随分な物言いである。しかし、口ではいつも生意気なことを言うが、友沢が本当はとても優しい人間であることをオレは知っている。少しばかり素直じゃない、かわいい後輩である。
現に今日だって二人で居残り練習をした帰りだ。猪狩も誘ったのだが、練習するのなら友沢と自分のどちらかを選べなどと言うものだから、今日は初めに約束をしていた友沢と練習をしたのだ。
こうして友沢と練習するのも何度目かになり、一緒に飯を食べて帰るまでが一連の流れであった。

「パワプロさん、今日はいつにも増してぼけっとしてんすね」
「ああ、ごめん、ごめん。もう帰れるよ」

鞄の中へ適当に荷物を詰めていると、もうちょっとなんとかならないんですかと言って友沢は苦笑する。友沢には意外と几帳面なところがある。
そういえば、最近友沢はよく笑ってくれるようになった。初めの頃と比べれば大分仲良くなったと思う。
だから、練習だってみんなでやればいいのだ。その方が楽しいし、なにより為になるだろう。どうにもこうにも猪狩と友沢はそりが合わないようで、気が付けばしょっちゅう衝突している。猪狩はもともとあんな性格であるし、友沢も猪狩に関しては何かと競いたがるのだった。
しかし、当人らはその状況を楽しんでいる節もあるようなので、最近オレからは何も口出ししないようにしていた。

「なあ友沢」
「なんですか」
「お前、猪狩のことどう思う?」
「どうって…」

そのまま口ごもると、友沢は明後日の方向を向いてから、どういう意味の質問ですかと言って不貞腐れた顔をした。その幼い仕草に、普段は大人ぶってはいるけれど、やっぱり友沢もまだまだ子供なのだなとオレは心中で微笑んだ。なんてったってまだ10代、高卒ルーキーなのだ。

猪狩の話題はどうにも友沢の機嫌を損ねるようなので、オレは質問の方向を少しだけ変えてみることにした。

「じゃあ、進くんのことはどう思う?」
「さっきから質問ばっかりですね」
「まあ、いい機会かなと思って」
「兄弟だけど、全然似てないですよね」
「そう?野球の実力とか、顔立ちとかすごく似てると思うけどな。まさに「兄弟」って感じ」
「オレが言ってるのはそういうことじゃないですよ」

あんただって分かってるでしょ、なんて友沢はしたり顔でオレの方を見た。まあ、もちろん分かっている。猪狩と進くんは正反対の性格をしている。自信満々で高慢ともとれる態度をとる猪狩と、謙虚で素直でいつだってにこにこと微笑んでいる進くん。
確かにそうなのだが、それはいわゆる表面しか見ていないただの周りの評価でしかないということを最近オレは実感していた。当たり前だが、その一面だけを見てその人のすべてを判断してしまうことなんてできやしない。

オレが友沢にこんな話をしたのは、誰かに聞いてもらいたかったからだ。猪狩のことも、進くんのことも、どうやらオレは少し勘違いをしていたようなのだ。
猪狩のことは、カイザースにやってきたときの第一印象があんまりだったため、正直最初はあまりよく思っていなかった。だってそうだろう、やってきて早々に、自分たちが来たからには足を引っ張らないようにしろなどと猪狩は言い放ったのだ。いくら万年2軍のオレとはいえどもその言葉には反発心を覚えた。結果としてその思いが力となり今や1軍レギュラーへと定着できたのだから、今のオレとしては猪狩に感謝をしているのだが、まあそれはまた別の話である。

そういうわけで、オレは猪狩について随分と勘違いをしていた。猪狩が大きなことを言うのはそれだけ陰で努力を重ねてきた自信があるため、きついことを言うのはチームメイト、ひいてはチーム全体を思ってのこと。猪狩は誰よりも野球に対して実直で、何よりもチームの勝利について真剣に考えていた。

さらにオレは、進くんについても少し勘違いをしていた。進くんというよりは、猪狩兄弟についてである。
仲の良い兄弟だなと、オレは単純に思っていた。だって、兄弟揃って野球をしていてあまつさえ同じチームで切磋琢磨しているのだから、そう思うのが自然な流れであろう。猪狩は進くんについて自分のことのように自慢話をすることがあったし(猪狩には重度のブラコンの気があるとオレはふんでいる)、進くんも猪狩にはよく懐いているように見えた。

実際そうであるし、間違ってはいないのだろう。ただ、どうやらそれだけではないらしいということをオレは最近薄々感じとっていた。
進くんの家に遊びに行って、彼の部屋で手料理を振る舞ってもらったときのことである。そのときにはじめてオレは進くんが実家暮らしではなく一人暮らしをしているということを知った。
そのときはあまり深く考えなかったのだが、どうやらその一人暮らしについて猪狩はあまりよく思っていないようなのだ。ふとした拍子にオレが進くんの家に遊びに行ったことを話すと、猪狩にしては珍しく野球以外の話題に食いついてきて、その日のことを事細かに尋ねてきた。

なぜ猪狩が進くんの一人暮らしをよく思っていないのか、それはどうやら、猪狩が弟のマンションを尋ねることを進くんが望んでいないらしいのが原因のようだった。それがどういう意味を持つのかはよく分からないが、彼ら兄弟の中にもいろいろと事情があるのだろう。猪狩としては、一人で暮らす弟のことが心配で頻繁に顔を出しに行きたいに違いない。
加えて、オレが感じた猪狩の思いとしては、母も退院してきたことであるし、兄弟揃って実家に住みたいという気持ちが強いのではないだろうか。

「…またぼけっとしてますよ」

友沢の言葉に、沈んでいた己の思考から呼び戻される。
疲れてるんですか?と言った後に、あの程度の練習で、と付け加えるのはいかにも友沢らしくオレは笑ってしまう。
そう、つまり、オレが言いたいのは。

「みんなで仲良くできればそれがいちばんいいと思うんだ」
「いきなりなんなんですか」
「よし友沢、飯行こう、飯!」
「だからさっきからそう言ってるじゃないですか」
「猪狩と進くんも呼ぶぞ!」
「ええ?」

なんでまた急に、友沢は訝しげな顔をしているが、オレからすれば急でもなんでもなかった。ほんとうは、ずっとこうしたかったのだ。居残りの秘密特訓もみんなでやりたいし、飯だってみんなで食べたい。みんなで仲良くできるのがオレはいちばん嬉しい。

「そうと決まれば何を食べるかだな」
「もう決定事項なんですか…」
「友沢、何食べたい?」
「オレは肉がいいです」
「肉か…」

肉と猪狩と進くんを思い浮かべて、オレはピンと思いつくものがあった。これならみんなでわいわい食べられるし、なんといってもオレの好物でもある。

「よし、友沢今日は鍋にしよう。しかも、すき焼きだぞ!」
「すき焼きですか、いいですね。でも、猪狩さんってみんなで鍋つつくのとか嫌いそうですよね」
「何言ってるんだ友沢。猪狩はみんなで鍋をつつくのも大人数で食事をするのも好きだぞ」

そうなんですか?と首をかしげている友沢がかわいらしい。どうやら友沢もまだまだ猪狩のことを勘違いしているようである。これはいい機会だ。
以前、オレの部屋で鍋をやったときのことを思い出す。半ば無理やり連れてきた猪狩は文句を言いながらもおいしそうに鍋をつついていたし、猪狩が差し入れで買ってきた肉は最高に美味かった。貧乏人に恵んでやるなどとかわいくないことをのたまっていたが、それが猪狩なりの照れ隠しであることをオレは見抜いていた。

「それに、鍋は進くんの好物でもあるんだよ」

友沢はまたまた首をかしげている。この機会にチームメイトのことを知るのはとてもいいことだ。
以前、進くんと寿司と鍋を食べに行ったことを思い出す。僕のオススメですと言って紹介してくれたそのお店はどこも絶品だった。和食派の進くんのために、今日は和食のコース料理ですき焼きも出してくれるお店に行くことにしよう。

「でもオレ、猪狩さんが行くんならちょっと遠慮したいですね」
「何言ってるんだ友沢、たらふく食って猪狩におごらせればいいだろ」

オレが言うと、友沢は一瞬驚いた顔をした後、それもそうですねと言って笑った。
どうやら今日の食事についてはこれで決定したようである。
タイミングよくオレと友沢の腹がぐうと鳴ったのがおかしくて、オレたちは顔を見合わせて笑った。
ひとしきり笑い合うと、オレは携帯電話で猪狩の名前を探し出してさっそくダイヤルを押した。



―――――――
よく分からないけどカイザースは滾るよねってことをお伝えしたい
守さんとすき焼きのイベントは7でんがな!というツッコミはsoスルー
かわいいからいいんです

主人公ちゃんを中心にみんなわちゃわちゃしてればいいんじゃないかな
需要とかもう気にしない!いつものことか…

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