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瓦解

進守


思えば、崩壊の兆しはずいぶんと前からあった。
それが表出するのか、内面に沈んだまま鈍く光っているのか、ただそれだけの違いだった。
気付いてしまえばそれはとても簡単なことで、長年胸をつかえさせていた嫌なしこりが喉元をすっと下っていくような思いで僕は唾をのみ込んだ。

ずっとやってみたかったことを、僕は今日実行に移した。
僕の下でもがいている兄は、一切の抵抗をしない。
馬乗りにされて首を絞められているというのに、抵抗をしないとは一体全体どういうことなのだろう。
兄は死にたがっているようには見えなかったし、そういう人間ではないことを僕はよく知っている。
必死になって抵抗して、泣いて暴れて、自分を叱責する兄を想像していた僕としては若干拍子抜けの思いである。
兄さん、ちゃんと抵抗しないと、どうなっても知らないよ。
なんてったって、僕はこんなことをするのは初めてなんだからね。
もちろん加減の仕方なんて知らない。

僕は昔から兄の青い瞳が好きだった。
それはどこまでも透き通っていて、汚いことなど何も知らないかのようにただ純粋なきらめきを以て兄は世界を見ていた。
そんな兄を体現しているかのように深く澄んだブルーの瞳。
兄の見る世界とは一体どのようなものなのだろうか、僕はそれがずっと気になっていた。

首を絞められて抵抗する兄の瞳が、一体どんな色を映すのか、僕はそれが知りたい。
歪むのだろうか、濁るのだろうか、それとも。
それだというのに、兄の瞳は一向に開かれないまま、閉ざされたままなのである。
兄はこんなときにまでいじわるだ。
その瞳に映る僕は何色なのか、それが知りたかっただけなのに。

「兄さん」

呼びかけても兄は答えない。
自分がそうさせているというのに、僕はそれがどうしようもなく許せなかった。
首を絞める指に力が入り、爪が食い込む。
ぎりぎりと締め上げる感覚は、僕が長い間抱き続けてきた感情にも似ていた。
僕にとっての兄とは、真綿で首を絞められるようなものだった。
じわりじわりと確実に締め上げ、それはいつしか決定的な苦しみとなる。

世界でただひとりだけ、僕の愛しい兄さん。

手を離すと、兄は大きく息をついて盛大にむせ返った。
体をくの字に折り曲げて苦しそうに咳き込んでいる。
その様子を横目に僕は兄の上から降りて、ついでにベッドからも降りた。
これ以上ここにいても無駄だと思ったからだ。
やりたかったことはやってみたし、もういい。

「進」

僕の名を呼んだ兄の声は、ひそかに震えていた。蚊の鳴くような声だった。
僕はなんにも知らないフリをして振り返る。

「進、おまえはボクを殺したいのか」

知らないよ、そんなの。
それだけ言って、僕は部屋を後にした。



―――――
みじかい

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