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甘いデザートは最後にどうぞ

神童さんと進くん


「僕、神童さんに会うために生まれてきたような気がするんです」

ご飯ですよ、と呼ばれてキッチンに行ってみると、進くんはにっこりとしながらそんなことを言った。それは光栄だねと微笑み返すと、彼は照れたように笑って俺に席を勧めてきた。
言われたままいつもの席に座り、テーブルの上を眺める。いつもながらに、いや、いつも以上に豪勢な食事だった。彼は料理が得意だった。いつだったか、毎回こんなに作るのは大変ではないかと尋ねたことがあったが、好きだからいいんですと教えてくれた。
それに、神童さんに食べてもらえるのが嬉しいんです。

「そうだ、洗濯をしたときにボタンのとれたシャツがありましたから、繕っておきました」

あっちのハンガーにかけてありますからねと言った彼はまさしく少女のように可憐に笑った。
わざわざ口に出すことではないだろうと思って黙っているが、彼はエプロン姿というものがとてもよく似合う。腰回りが細い彼には、男性用のエプロンは幾分かあまりがちになるらしい。くるりと後ろを向くと大きくリボン結びがなされた紐が垂れている。いつの日か俺がプレゼントしたものだ。随分と気に入ってくれたらしい進くんは長いことそれを愛用している。

「あ、ご飯が冷めちゃいますね。どうぞ召し上がってください」

ほこほこと湯気を立てる白いご飯、そして今日のメインはビーフシチューだった。それに加えて、トマトとキュウリのたっぷり乗ったサラダ、白身魚のホイル焼き、煮物、さらには漬物までもところせましとテーブルに置かれていた。ボリュームたっぷりなのはいつものことであったが、自分の好物ばかりが取り揃えられているということに気が付いた。
下準備がきちんとなされた柔らかい肉とごろごろとした大きめの野菜が入っているビーフシチュー。彼の作るそれはいつだって絶品だった。目の前にあるそれは今日もいつもと寸分たがわずに美味そうだ。ごくりと喉が鳴る。

「そうだ。この前神童さんのアドバイス通り少しスイングを変えてみたらすごく調子が良くなったんです」

この調子でスランプも抜けられたらいいんですけどね、と彼は力なく笑った。
俺は最近の彼の様子を見ていてもそこまで調子が悪いようには思えなかったが、彼は頑なにスランプだといってきかなかった。確かに以前よりも多少打率は下がっているようだったが、相変わらずどんなピッチャーに対しても上手に当てるバッティングをするし、司令塔としてマスクをかぶる彼は相変わらずの活躍であった。
それでも何か少しでも参考になるのならと、グリップの握りとスイングについて話をしたところだった。良くなったと感じるのならそれでいい。

「神童さんの球を受けるキャッチャーがヘボじゃあ恥ずかしいですからね」

軽い物言いだったが、その顔は真剣だった。前から感じていたことだったが、彼はいささか俺という人間を過大評価しすぎている。確かにそれなりの成績も残しているし練習量も人よりちょっとばかし多いかもしれないが、ただそれだけのことだ。
野球が好きだから練習もするし、練習したからには活躍できたら純粋に嬉しい。昔からずっと、ただそれだけのことをしているだけだった。

「神童さんの球を受けるのは、僕ですからね」

微笑んだその顔に、入団当初の彼の顔が重なった。僕はあなたにあこがれてこの球団に入りました。真っ直ぐとこちらを見て言った彼の瞳には、いささかの曇りもなかった。強い意志とはっきりとした決意を感じ取ったのをよく覚えている。それは、今自分の前にいる彼も同じことだった。
にこにこと微笑みながらも、こちらを射抜く視線は寸分の曇りもなく澄んでいた。
彼の大きな紫色の瞳が好きだった。眼差しから優しさが滲み出ているようだった。

「そうそう、言い忘れていました」

その瞳がふわりと細められ、彼は今日いちばんの笑顔で言った。

「神童さん、ご結婚おめでとうございます」

ありがとう、進くん。だからこれから先の話は、こちらに向けている包丁を置いてからにしようか。夜はまだ長い。


―――――――――
ずっと書きたかったネタですが、相手を誰にするのか悩んだ末神童さんになりました
主人公ちゃんや兄さんでもベリーベリーおいしいと思うのでどなたかお願いしまーす!

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