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誰も知らない

誰も知らない (主人公と猪狩進と猪狩守)

 体育の授業のあと、教室に戻る途中で見知った顔を見かけた。部活動の先輩、パワプロさんだった。挨拶をするべきか、どうしようか、そんなことを廊下の端で悩んでいる間に、彼の方が僕を見つけた。目が合った瞬間、満面の笑みでこちらに手を振る。進くん、声には出さず、唇の動きで名前を呼ばれる。気さくなその様子に思わず自分も笑って手を振ってしまってから、先輩に対して失礼な態度だったかもしれないと思い直した。無論、彼はそんなことなんてこれっぽっちも気にしていないだろうけれど。
 パワプロさんは、誰にでも優しい。僕は手を振って別れた後、こっそりと振り返って彼を目で追った。
 だから僕は、彼の視線の先に兄がいることに気付いてしまった。兄はまだ、僕にもパワプロさんにも気付いていない。兄にも同じように手を振るのだろうな、そう思いながら僕はそれを見ていた。
 パワプロさんは、一緒に歩いていた友人たちの輪からそっと外れると、ひとり兄を追い掛けた。人を掻き分けるようにして進み、その肩を叩く。急に声を掛けられた兄は、驚いた顔をして彼を見た。しかしそれも一瞬のことで、すぐにその表情はほどけるように柔らかくなった。蕾がほころぶようなそれに、僕は目が離せない。兄の顔。パワプロさんの顔。そのどちらも、僕には見せたことのないものだ。
 踵を返し、僕は二人に背を向けて歩き出す。僕が見ていなければ、知らなければ、何もなかったのと同じことだ。僕は僕の感情に、今日も見て見ぬ振りをする。だからこれは、誰も知らない。兄も、あの人も、僕自身でさえも、誰も知らないことだ。





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進くん幸せになってほしい(ってまじで思ってます)

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