創傷被覆材
創傷被覆材 (主進)
「あ、進くん絆創膏とれそうだよ」
言われて、左頬を触る。いつも付けている絆創膏が、汗で取れかかっているようだった。確かに、今日は蒸し暑くて一段と汗をかいていた。
「それにしても、今日はちょっと張り切りすぎたかも。オレ、もう一歩も動けない」
「はは、僕もです」
神社の境内、地面にひっくり返ったままパワプロさんが笑う。部活動が終わったあと、二人でこっそり神社で練習をするようになって、しばらくが経った。僕が一人でバットを振っているのを、たまたまパワプロさんが見かけたのがきっかけで始まった習慣だった。今では約束をしていなくても、二人とも自然と足が向くようになっていた。だから、この人の前でならいいかと思った。とれかけている絆創膏を剥がして、僕はポケットに突っ込んだ。
「新しいの、ある?確かオレ、鞄の中に入れっぱなしになってるやつが」
「いいんです。怪我をしているわけではないですから」
「ん?」
「昔から、あんまり兄と間違えられるものですから」
「それって」
日の落ちた境内、蛍光灯の明かりの下でパワプロさんが訝しげな顔をしている。大の字になって寝転んでいた格好から、起き上がって僕の顔をまじまじと見る。しかし、明かりがあってもなくても、僕の頬には傷も怪我もない。僕は自然と笑っていた。にこにこといつも通り、笑っているはずだった。
「昔は、本当によく兄と間違えられたんです。同じ野球のユニフォームを着ていると、特に。だから、髪を伸ばしてみたり、帽子を後ろ向きに被ってみたり、子供なりにいろいろ試したんですよ」
「……」
「ある日、うっかり転んでしまったときに、鼻の頭を擦りむいてしまって。絆創膏を貼った顔を見て、これだと思ったんですよね」
起き上がって僕を見るパワプロさんは、ちょうど明かりの真下にいるせいでその表情はよく分からなかった。何か言いたそうにもごもごと口を動かしていたが、それを遮るように僕は続ける。
「兄さんや、他の人には内緒ですよ。今までずっと秘密にしてきたんですから」
軽口に聞こえるように、ただの冗談だと分かるように、僕はパチリとウインクをしてみせた。こんなのは、つまらないただの世間話。僕は後輩として、部活動の先輩と他愛のない話をしているだけだ。だから、僕は後輩らしく先輩の方へ尋ねてみせた。
「ね、パワプロさんの秘密も教えてください」
「えっ?」
「どんな些細なことでもいいので、僕が初めてになる秘密がいいな、なんて」
「……」
僕の言葉を受けて思案顔をするパワプロさんは、真面目で誠実で、そしてとても優しい。この人は、いつもちゃんと考えてくれる。僕の話を聞いてくれる。だから、少し困らせてみたかっただけ。もう十分ですよ。そう言おうと口を開いたところで、彼の身体が動いて影が重なった。それはほんの一瞬のことで、僕は何が起きたのかよく分からなかった。
「今の、ちゃんと秘密にしといてね」
明後日の方を向いた彼の頬は、赤かった。おそらく、絆創膏を剥がした僕の頬も同じように。彼がこんな風に触れてくれるなら、もう絆創膏はいらないかもしれないなあ。そんなことを考えながら、僕は左の頬に触れて、もう一度笑った。
了
ーーーーーーーーーーーー
進くんってさあ………
猪狩進くんの二次創作をしたことがある人なら皆一度は彼のそれについて考えたことがあるはずだ
絆創膏には愛も夢も詰まってる
「あ、進くん絆創膏とれそうだよ」
言われて、左頬を触る。いつも付けている絆創膏が、汗で取れかかっているようだった。確かに、今日は蒸し暑くて一段と汗をかいていた。
「それにしても、今日はちょっと張り切りすぎたかも。オレ、もう一歩も動けない」
「はは、僕もです」
神社の境内、地面にひっくり返ったままパワプロさんが笑う。部活動が終わったあと、二人でこっそり神社で練習をするようになって、しばらくが経った。僕が一人でバットを振っているのを、たまたまパワプロさんが見かけたのがきっかけで始まった習慣だった。今では約束をしていなくても、二人とも自然と足が向くようになっていた。だから、この人の前でならいいかと思った。とれかけている絆創膏を剥がして、僕はポケットに突っ込んだ。
「新しいの、ある?確かオレ、鞄の中に入れっぱなしになってるやつが」
「いいんです。怪我をしているわけではないですから」
「ん?」
「昔から、あんまり兄と間違えられるものですから」
「それって」
日の落ちた境内、蛍光灯の明かりの下でパワプロさんが訝しげな顔をしている。大の字になって寝転んでいた格好から、起き上がって僕の顔をまじまじと見る。しかし、明かりがあってもなくても、僕の頬には傷も怪我もない。僕は自然と笑っていた。にこにこといつも通り、笑っているはずだった。
「昔は、本当によく兄と間違えられたんです。同じ野球のユニフォームを着ていると、特に。だから、髪を伸ばしてみたり、帽子を後ろ向きに被ってみたり、子供なりにいろいろ試したんですよ」
「……」
「ある日、うっかり転んでしまったときに、鼻の頭を擦りむいてしまって。絆創膏を貼った顔を見て、これだと思ったんですよね」
起き上がって僕を見るパワプロさんは、ちょうど明かりの真下にいるせいでその表情はよく分からなかった。何か言いたそうにもごもごと口を動かしていたが、それを遮るように僕は続ける。
「兄さんや、他の人には内緒ですよ。今までずっと秘密にしてきたんですから」
軽口に聞こえるように、ただの冗談だと分かるように、僕はパチリとウインクをしてみせた。こんなのは、つまらないただの世間話。僕は後輩として、部活動の先輩と他愛のない話をしているだけだ。だから、僕は後輩らしく先輩の方へ尋ねてみせた。
「ね、パワプロさんの秘密も教えてください」
「えっ?」
「どんな些細なことでもいいので、僕が初めてになる秘密がいいな、なんて」
「……」
僕の言葉を受けて思案顔をするパワプロさんは、真面目で誠実で、そしてとても優しい。この人は、いつもちゃんと考えてくれる。僕の話を聞いてくれる。だから、少し困らせてみたかっただけ。もう十分ですよ。そう言おうと口を開いたところで、彼の身体が動いて影が重なった。それはほんの一瞬のことで、僕は何が起きたのかよく分からなかった。
「今の、ちゃんと秘密にしといてね」
明後日の方を向いた彼の頬は、赤かった。おそらく、絆創膏を剥がした僕の頬も同じように。彼がこんな風に触れてくれるなら、もう絆創膏はいらないかもしれないなあ。そんなことを考えながら、僕は左の頬に触れて、もう一度笑った。
了
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進くんってさあ………
猪狩進くんの二次創作をしたことがある人なら皆一度は彼のそれについて考えたことがあるはずだ
絆創膏には愛も夢も詰まってる
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