幻想
幻想 (主人公×友沢亮)
例えばの話だ。友沢は、考える。例えば、自分が念願のプロ入りを果たしたとしたら、契約金が入るだろう。その後もプロ野球選手として活躍すれば、まとまったお金を稼ぐことが出来る。そうすれば、家族が助かる。病気を患う母はこれでようやく手術を受けることが出来て、幼い弟妹たちの食い扶持を心配する必要もなくなり、安心して進学することが出来るだろう。
そのためには、幾多にも数多にも渡る苦難、試練が待っている。人生、そう上手くはいかないものだ。実際、友沢は高校生のタイミングでプロ入りの機会を逃した。理由はもちろん分かっていたが、そんなことで簡単に諦められるものならば、友沢は今日までこんな思いを抱いていない。
プロ入りと一口に言っても、そこには様々な要素が交錯する。才能だけでやっていける世界でないことはもちろん、そうかといって努力すれば足りるのかと言ったらそんなことは断じてない。才能、努力、そして、運。友沢はそのどれか、どこかがきっと欠けていて、プロ入りを逃した。大学に通いながら、友沢はようやくそんな風に自分の境遇について考えることができるようになった。
これは常に、「例えば」の話である。例えば、活躍してスカウトの目に留まりたい。そう考えたとき、チームメイトの力は必要不可欠ということになってくる。チームメイトに恵まれて試合に勝つことが出来れば、その分自分の活躍する場も増えるだろうし、そういった目に留まる機会もぐっと増すであろう。やっかいなことに、野球は一人では出来ないのだ。
だから、例えば、もしも同じ方向を向いて努力出来る友人、切磋琢磨し合えるライバルなんかがいたとしたら、それは素晴らしいことだ。互いに発奮し合い、技術を磨き合う。負けたくない、そういう気持ちが自分ではなく他者に向くことで得られるメリットを、友沢は知らなかった。友沢の世界は今までずっと閉ざされていたものだから、それが半ば無理矢理こじ開けられたときの景色など、想像も及ばなかったのだ。
だから、これは、例えばの話だ。例えば友沢が高校生の時にプロ入りを決めていたら、大学に通っていなかったら、別の学校を選んでいたら、もしくは野球を諦めていたら。まるで幻想のように浮かんでは消える世迷い事だった。
「友沢、どうした?ぼんやりして」
そう言って友沢の顔を覗き込むのは、かつてのチームメイトだった男で、そして今もまた友沢と同じチームで野球をしているのだった。今日は久々のオフで、二人して買い物に出掛けた帰り道であった。
「しょうもないこと考えてた」
「なんだよ、それ」
その笑い顔は学生の頃から変わらないもので、この男は笑うと妙に幼い顔付きになるのだった。口には出さないが、友沢はその顔を結構気に入っていた。
「休みって終わるの早いよなあ」
男の横顔を、夕焼けが照らしている。二人分の影が並んで揺らめいた。友沢は、プロになった。隣を歩く男と一緒に、念願のプロ入りを果たしたのだった。それは今まで描いてきた甘い幻想そのもので、それを思うと友沢は今でも不思議な気持ちになる。友沢が手を差し伸べると、隣の男は何も言わず握り返した。
「パワプロ」
「ん、なに?」
「なんでもない」
口にすると消えてしまいそうになる甘い気持ちを、友沢は今日も胸に秘めて黙っている。友沢の夢の続きは、今日もこの手の中にある。
了
ーーーーーーー
主友しゅげーーしゅき
例えばの話だ。友沢は、考える。例えば、自分が念願のプロ入りを果たしたとしたら、契約金が入るだろう。その後もプロ野球選手として活躍すれば、まとまったお金を稼ぐことが出来る。そうすれば、家族が助かる。病気を患う母はこれでようやく手術を受けることが出来て、幼い弟妹たちの食い扶持を心配する必要もなくなり、安心して進学することが出来るだろう。
そのためには、幾多にも数多にも渡る苦難、試練が待っている。人生、そう上手くはいかないものだ。実際、友沢は高校生のタイミングでプロ入りの機会を逃した。理由はもちろん分かっていたが、そんなことで簡単に諦められるものならば、友沢は今日までこんな思いを抱いていない。
プロ入りと一口に言っても、そこには様々な要素が交錯する。才能だけでやっていける世界でないことはもちろん、そうかといって努力すれば足りるのかと言ったらそんなことは断じてない。才能、努力、そして、運。友沢はそのどれか、どこかがきっと欠けていて、プロ入りを逃した。大学に通いながら、友沢はようやくそんな風に自分の境遇について考えることができるようになった。
これは常に、「例えば」の話である。例えば、活躍してスカウトの目に留まりたい。そう考えたとき、チームメイトの力は必要不可欠ということになってくる。チームメイトに恵まれて試合に勝つことが出来れば、その分自分の活躍する場も増えるだろうし、そういった目に留まる機会もぐっと増すであろう。やっかいなことに、野球は一人では出来ないのだ。
だから、例えば、もしも同じ方向を向いて努力出来る友人、切磋琢磨し合えるライバルなんかがいたとしたら、それは素晴らしいことだ。互いに発奮し合い、技術を磨き合う。負けたくない、そういう気持ちが自分ではなく他者に向くことで得られるメリットを、友沢は知らなかった。友沢の世界は今までずっと閉ざされていたものだから、それが半ば無理矢理こじ開けられたときの景色など、想像も及ばなかったのだ。
だから、これは、例えばの話だ。例えば友沢が高校生の時にプロ入りを決めていたら、大学に通っていなかったら、別の学校を選んでいたら、もしくは野球を諦めていたら。まるで幻想のように浮かんでは消える世迷い事だった。
「友沢、どうした?ぼんやりして」
そう言って友沢の顔を覗き込むのは、かつてのチームメイトだった男で、そして今もまた友沢と同じチームで野球をしているのだった。今日は久々のオフで、二人して買い物に出掛けた帰り道であった。
「しょうもないこと考えてた」
「なんだよ、それ」
その笑い顔は学生の頃から変わらないもので、この男は笑うと妙に幼い顔付きになるのだった。口には出さないが、友沢はその顔を結構気に入っていた。
「休みって終わるの早いよなあ」
男の横顔を、夕焼けが照らしている。二人分の影が並んで揺らめいた。友沢は、プロになった。隣を歩く男と一緒に、念願のプロ入りを果たしたのだった。それは今まで描いてきた甘い幻想そのもので、それを思うと友沢は今でも不思議な気持ちになる。友沢が手を差し伸べると、隣の男は何も言わず握り返した。
「パワプロ」
「ん、なに?」
「なんでもない」
口にすると消えてしまいそうになる甘い気持ちを、友沢は今日も胸に秘めて黙っている。友沢の夢の続きは、今日もこの手の中にある。
了
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主友しゅげーーしゅき
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