出来レース
出来レース (主人公×猪狩守)
猪狩とケンカをした。その理由は結構くだらなくて、説明するのも憚られるほどだ。世間一般的には「痴話喧嘩」などと称されるのかもしれなかった。
ことの発端はやはり猪狩で、珍しく機嫌の良い猪狩が、テレビを見ていたオレに問いかけたのが始まりだった。
「キミは、ボクのどこが好きなんだい」
なんだその質問。いったいどこで、なにを、どんな風に影響されてきたのか、猪狩の顔はどこか嬉しそうでもあった。気分屋の猪狩は、きっと今日は甘えたい気分なんだろう。オレの返答に期待するその眼差しはかわいらしくもあった。しかしながら、そこまで理解しているにも関わらずオレの口からこぼれたのはとんでもない回答であった。なんでそんなことを言ってしまったのか、分からない。
「え…顔かな」
猪狩の表情がぴしりと固まる。変な沈黙が降りたあと、さっきまで上機嫌だった猪狩は一転して不機嫌を露わにしていた。
「確かにボクはキミと違って見目麗しいから、それをキミが好ましいと思うのは当然のことだろう、だが、それ以外にもあるだろう」
「んー…」
こういうときに限って、何も言葉が出てこない。なんと言っていいのか分からなくて黙っている時間と、それに比例するように猪狩の機嫌はどんどん悪くなっていく。最終的に、猪狩は踵を返してそのまま寝室の方へ引っ込んでいってしまった。
それは、面白くないときの猪狩がよくする癖のような動作だった。やってしまった。リモコンを手に取り、テレビを消す。寝室まで追い掛けると、猪狩は分かりやすく不貞腐れて、布団を被って丸まっていた。ベッドに腰かけると、上質なシルクが手触りよく心地良い。さらりとしたそれを一撫でしてから、オレは布団越しの猪狩に声を掛けた。
「猪狩」
「……」
「そんなことで、怒るなよ」
「キミにとっては「そんなこと」なんだな。よく分かったよ」
「だって「全部」とか言ったらお前怒るだろ」
沈黙。背を向ける猪狩が、思考しているのが分かった。オレは静かに猪狩の言葉を待つ。
「…当たり前だ。適当なことを言ってごまかそうとするな」
「だよな。でも、それ以外になんて言えばいいのか分かんないよ。考えても、出てこないんだよ」
「……」
「考えても、分かんない。お前の好きなところ、それどころかイヤなところも嫌いなところも浮かばない」
「それは、ボクに興味がないということか」
「違うよ。お前の自信過剰すぎるところはどうかと思うし、高飛車な発言も控えた方がいいと思うし、いまだに料理のひとつも出来ないし、ほかの家事だってとんでもない失敗するし、この前は電子レンジ壊したし、そもそもワガママだし、気まぐれで気分屋だし、全然素直じゃないし、人の話は聞かないし」
「おい。そろそろ本気で怒っていいかい」
「でもな」
「……」
「そういうところも含めてお前だと思うと、嫌いじゃないっていうか、結局全部好きなんだよな〜とか思っちゃうわけ」
「……」
「だから、いまさら「どこ」が好きとか聞かれても、困るよ。お前だったら、オレはなんでもいいみたいなんだよ。オレの言いたいこと、分かる?」
「分かるもんか…」
消えるようにして小さくなる語尾を追い掛けて、オレは後ろから覆い被さるようにして猪狩を覗き込む。予想通りの顔をしていた猪狩に、オレは問いかけた。
「それで?今度は猪狩が聞かせてくれる番だろ。猪狩は、オレのどこが好きなんだ?」
緩む頬を我慢もしないでそう言うと、猪狩は怒ったように一言だけ答えるのだった。
「キミと同じだよ!」
おあとがよろしいようで。
了
ーーーーーーーー
きみたちは本当に恥ずかしいな 好きだ
猪狩とケンカをした。その理由は結構くだらなくて、説明するのも憚られるほどだ。世間一般的には「痴話喧嘩」などと称されるのかもしれなかった。
ことの発端はやはり猪狩で、珍しく機嫌の良い猪狩が、テレビを見ていたオレに問いかけたのが始まりだった。
「キミは、ボクのどこが好きなんだい」
なんだその質問。いったいどこで、なにを、どんな風に影響されてきたのか、猪狩の顔はどこか嬉しそうでもあった。気分屋の猪狩は、きっと今日は甘えたい気分なんだろう。オレの返答に期待するその眼差しはかわいらしくもあった。しかしながら、そこまで理解しているにも関わらずオレの口からこぼれたのはとんでもない回答であった。なんでそんなことを言ってしまったのか、分からない。
「え…顔かな」
猪狩の表情がぴしりと固まる。変な沈黙が降りたあと、さっきまで上機嫌だった猪狩は一転して不機嫌を露わにしていた。
「確かにボクはキミと違って見目麗しいから、それをキミが好ましいと思うのは当然のことだろう、だが、それ以外にもあるだろう」
「んー…」
こういうときに限って、何も言葉が出てこない。なんと言っていいのか分からなくて黙っている時間と、それに比例するように猪狩の機嫌はどんどん悪くなっていく。最終的に、猪狩は踵を返してそのまま寝室の方へ引っ込んでいってしまった。
それは、面白くないときの猪狩がよくする癖のような動作だった。やってしまった。リモコンを手に取り、テレビを消す。寝室まで追い掛けると、猪狩は分かりやすく不貞腐れて、布団を被って丸まっていた。ベッドに腰かけると、上質なシルクが手触りよく心地良い。さらりとしたそれを一撫でしてから、オレは布団越しの猪狩に声を掛けた。
「猪狩」
「……」
「そんなことで、怒るなよ」
「キミにとっては「そんなこと」なんだな。よく分かったよ」
「だって「全部」とか言ったらお前怒るだろ」
沈黙。背を向ける猪狩が、思考しているのが分かった。オレは静かに猪狩の言葉を待つ。
「…当たり前だ。適当なことを言ってごまかそうとするな」
「だよな。でも、それ以外になんて言えばいいのか分かんないよ。考えても、出てこないんだよ」
「……」
「考えても、分かんない。お前の好きなところ、それどころかイヤなところも嫌いなところも浮かばない」
「それは、ボクに興味がないということか」
「違うよ。お前の自信過剰すぎるところはどうかと思うし、高飛車な発言も控えた方がいいと思うし、いまだに料理のひとつも出来ないし、ほかの家事だってとんでもない失敗するし、この前は電子レンジ壊したし、そもそもワガママだし、気まぐれで気分屋だし、全然素直じゃないし、人の話は聞かないし」
「おい。そろそろ本気で怒っていいかい」
「でもな」
「……」
「そういうところも含めてお前だと思うと、嫌いじゃないっていうか、結局全部好きなんだよな〜とか思っちゃうわけ」
「……」
「だから、いまさら「どこ」が好きとか聞かれても、困るよ。お前だったら、オレはなんでもいいみたいなんだよ。オレの言いたいこと、分かる?」
「分かるもんか…」
消えるようにして小さくなる語尾を追い掛けて、オレは後ろから覆い被さるようにして猪狩を覗き込む。予想通りの顔をしていた猪狩に、オレは問いかけた。
「それで?今度は猪狩が聞かせてくれる番だろ。猪狩は、オレのどこが好きなんだ?」
緩む頬を我慢もしないでそう言うと、猪狩は怒ったように一言だけ答えるのだった。
「キミと同じだよ!」
おあとがよろしいようで。
了
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きみたちは本当に恥ずかしいな 好きだ
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