幾星霜
幾星霜 (主人公×友沢亮)
殴られる。そう思ってきつく目を瞑ったオレに待っていたのは、予想外の衝撃だった。覚悟した衝撃が頬ではなく、唇に降ってきたのだ。それも拳ではなく、友沢自身の唇によって。オレの胸倉を掴んだままの友沢の手は、妙に熱を帯びていた。
どうしてこんなことになったのか思い出せない。二人きりの部室、最後まで居残ったオレと友沢で取り留めのない話をしていたのがほんの少し前の話。つまらないことで言い争いになって、珍しく激昂した友沢に胸倉を掴まれた。こんなに怒った友沢を、オレは初めて見た。友沢の瞳は燃えるように瞬いている。服を掴まれたまま乱暴に引き寄せられ、間近で目が合うと不自然な沈黙が降りた。殴られる。そう思ってオレは、覚悟を決めて目を閉じたのだ。そうして降ってきたのは、唇に柔らかな感触。すぐには分からなかった。キスされている。オレが、友沢に。
「……」
閉じられていた目蓋がゆっくりと持ち上がると、きれいなエメラルドが見えた。押し付けていた唇を離した友沢が、静かに離れる。
「お前が、くだらないことを言うからだ」
友沢の口ぶりは、まるでオレが全部悪いみたいで、それでいて罪悪感を露わにしたなんとも言えないものだった。離れる直前、歯を立てられた唇をオレは無意識に舐めていた。もしかしたら、少し切れているかもしれない。確認するように舌を這わせる。
「お前のせいだ…」
繰り返した友沢は、力なく項垂れた。無理矢理キスされたのはオレで、無作法に胸倉を掴まれたのはオレの方なのに、なんだかこっちが悪いような気すらしてくる。こんなにも感情を剥き出しにする友沢は、初めてだった。
友沢はいつもいろんなことに無関心そうで、そして素っ気なかった。それはもちろん、オレと話している時でさえ。それなのに、今日の友沢は大層苛立っているようで、そしてそれと同じくらい悲しんでいるようにも見えた。
「友沢って」
「言うな」
「友沢」
「うるさい!」
思わず、「泣くな」などと続けてしまった自分に驚く。そして驚いたのはオレだけでなく、言われた友沢の方も同じだったようだ。いつもの仏頂面に戻った友沢の顔が不機嫌そうに歪んだ。
「友沢、どうしたんだよ」
苦虫を噛み潰したような顔で、友沢は部室の壁を睨み付けている。その眼差しはゆらゆらと揺れていた。その逸らした瞳から、涙が、滴が、何か大切なものがこぼれ落ちてしまうのではないだろうかと、オレは妙な心配をしてしまう。初めて間近で見た友沢の目は、そのくらいきれいだった。
「友沢、どうしてオレにキスしたの」
友沢は答えない。自分で尋ねておきながら、返事は期待していなかった。
両手で頬を挟み込むように掴んでも、友沢は嫌がらなかった。いつもの無表情、いや、熱を帯びた眼差しだけが一心にこちらを見つめていた。
もう一度合わせてみたら、何か分かるかもしれない。言い訳は、そのくらいで十分だろう。目蓋を下ろした友沢に、オレは静かに口付けた。
了
ーーーーーーーー
主人公ちゃん、いったい友沢に何を言ったんだ
胸倉掴んでキスをする沢がすきすぎる候
殴られる。そう思ってきつく目を瞑ったオレに待っていたのは、予想外の衝撃だった。覚悟した衝撃が頬ではなく、唇に降ってきたのだ。それも拳ではなく、友沢自身の唇によって。オレの胸倉を掴んだままの友沢の手は、妙に熱を帯びていた。
どうしてこんなことになったのか思い出せない。二人きりの部室、最後まで居残ったオレと友沢で取り留めのない話をしていたのがほんの少し前の話。つまらないことで言い争いになって、珍しく激昂した友沢に胸倉を掴まれた。こんなに怒った友沢を、オレは初めて見た。友沢の瞳は燃えるように瞬いている。服を掴まれたまま乱暴に引き寄せられ、間近で目が合うと不自然な沈黙が降りた。殴られる。そう思ってオレは、覚悟を決めて目を閉じたのだ。そうして降ってきたのは、唇に柔らかな感触。すぐには分からなかった。キスされている。オレが、友沢に。
「……」
閉じられていた目蓋がゆっくりと持ち上がると、きれいなエメラルドが見えた。押し付けていた唇を離した友沢が、静かに離れる。
「お前が、くだらないことを言うからだ」
友沢の口ぶりは、まるでオレが全部悪いみたいで、それでいて罪悪感を露わにしたなんとも言えないものだった。離れる直前、歯を立てられた唇をオレは無意識に舐めていた。もしかしたら、少し切れているかもしれない。確認するように舌を這わせる。
「お前のせいだ…」
繰り返した友沢は、力なく項垂れた。無理矢理キスされたのはオレで、無作法に胸倉を掴まれたのはオレの方なのに、なんだかこっちが悪いような気すらしてくる。こんなにも感情を剥き出しにする友沢は、初めてだった。
友沢はいつもいろんなことに無関心そうで、そして素っ気なかった。それはもちろん、オレと話している時でさえ。それなのに、今日の友沢は大層苛立っているようで、そしてそれと同じくらい悲しんでいるようにも見えた。
「友沢って」
「言うな」
「友沢」
「うるさい!」
思わず、「泣くな」などと続けてしまった自分に驚く。そして驚いたのはオレだけでなく、言われた友沢の方も同じだったようだ。いつもの仏頂面に戻った友沢の顔が不機嫌そうに歪んだ。
「友沢、どうしたんだよ」
苦虫を噛み潰したような顔で、友沢は部室の壁を睨み付けている。その眼差しはゆらゆらと揺れていた。その逸らした瞳から、涙が、滴が、何か大切なものがこぼれ落ちてしまうのではないだろうかと、オレは妙な心配をしてしまう。初めて間近で見た友沢の目は、そのくらいきれいだった。
「友沢、どうしてオレにキスしたの」
友沢は答えない。自分で尋ねておきながら、返事は期待していなかった。
両手で頬を挟み込むように掴んでも、友沢は嫌がらなかった。いつもの無表情、いや、熱を帯びた眼差しだけが一心にこちらを見つめていた。
もう一度合わせてみたら、何か分かるかもしれない。言い訳は、そのくらいで十分だろう。目蓋を下ろした友沢に、オレは静かに口付けた。
了
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主人公ちゃん、いったい友沢に何を言ったんだ
胸倉掴んでキスをする沢がすきすぎる候
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