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愛は食卓に

愛は食卓に(主人公×友沢亮)

 金が、ないわけではない。一流企業に勤めていた父には、ある日突然蒸発したとしても、残った家族が生活をしていけるだけの蓄えがあった。母と自分と幼い兄妹は、それを少しずつ切り崩して生活していた。母親が入院してしまってからは、母に代わって友沢が家計の管理をするようになった。
 少しずつ、しかし確実に目減りしていく貯金残高。奨学金制度を利用しているとはいえ、友沢は大学に通わせてもらっている。幼い兄妹たちは、これから本格的に学費が掛かる。そして、いつ退院出来るのかいまだ目処のつかない母親の入院費。保険に入っていたのは、幸いであった。何しろ父はエリートで、そういうところもきちんとしていた。それでも、通帳を見るたびに、友沢の心は焦燥感に苛まれるのだった。残高が減ることはあっても増えることはない。自分が、きちんとしなくては。
 だから友沢は、節約、節制、倹約、とにかく無駄を省いて、切り詰められるところは少しでも努力した。自分の昼食代は、そのひとつであった。朝、夕は兄妹たちと不自由のない食卓を囲む。これから成長期を迎える兄妹たちには、決してひもじい思いなどをさせたくなかった。自分が、我慢すれば良い。それは友沢の確固たる信念のようなものだった。

「友沢?」
 いつの間にか、ぼんやりしていたようだ。スーパーにあるパン売り場の棚を眺めていた友沢は、それを見ながらついつい昔のことを思い出してしまっていた。いつの間にか手に持っていたそれを、隣の男が珍しそうに見ている。
「コッペパン、買うの?」
「いや」
「あ、明日の朝は久しぶりにパンにしない?オレ、パン食べたい」
「これだけじゃ足りないだろ」
「うん、だからこれと食パンも買ってさ」
 言いながら、パワプロはもうすでに籠の中へコッペパンと食パンを入れてしまっている。友沢の顔を見て、パワプロは笑った。
「なに笑ってんだよ」
 ニマニマと笑っているパワプロは、きっと友沢と同じことを思い出していたに違いない。学生時代に友沢が昼食時に食べていた安いパン、それを自分の弁当と交換して欲しいなどと言ったお節介は、後にも先にもこの男だけだ。そう思う友沢の口元は緩んでいて、隣の男を見つめる眼差しは甘かった。
 かつて、友沢には果たさねばならぬことがあった。必ずや実現しなければならないことがあった。それは、家族の生活を己の力で支えること。そのために、プロ野球選手になって、金を稼ぐこと。泥水をすすってでもプロになる、そう言った友沢に、隣の男はあまりにもお節介なことをつらつらと言い並べたものだ。そのお節介のお陰で、友沢は今日まで道を踏み外さずにやって来れた。今なら、そう思う。
「友沢、なんか機嫌良さそう」
「そう見えるなら、そうかもな」
 どうしたら、自分がプロになった際の契約金を、他人の母親の手術代にくれてやるなどと言えるのだろう。そして、それを実行出来るのだろう。友沢とパワプロは、一緒にプロになった。その二人分の契約金を合わせて、母親は手術を受けたのだった。友沢には、信じられないことばかりだ。
「友沢、早く帰ろ」
「そんなに今夜のすき焼きが楽しみなのか」
「それも楽しみだけど、そうじゃなくて!」
 早く二人きりになりたい、そんなことを言う男に、友沢は耳打ちするように返事をするのだった。それを聞いた男の顔色が、血色の良いピンクに変わる。
「友沢がそんなこと言うなんて、信じられない」
 オレもだよ。そう言って友沢は、声を出して笑った。




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めちゃ今更なんですが、13の全日本編で沢父をこの目で確認してから、友沢くんの貧乏について心穏やかに妄想出来る様になりました

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