オレとおまえとプリンと甘えんぼ
オレとおまえとプリンと甘えんぼ
プリンがない。風呂上り、食べようと思って楽しみにしていたプリンがなくなっていた。冷蔵庫の中を、もう一度くまなく探す。ない。考えられる原因は、ひとつしかなかった。ソファに腰掛けたまま知らん顔している猪狩の横顔にオレは声を掛ける。
「なあ、オレのプリンがなくなってるんだけど」
「ああ、ボクが食べたよ」
「はあ?だってお前、飯食ったあと自分の分食べただろ、あれはオレのじゃん」
「そうだったかな」
本を読んでいた猪狩は、紙面から顔も上げずにそう言った。オレが何と言ってもどこ吹く風で、本の内容に集中しているのか返事すら返さなくなった。さすがにカチンときたオレがわあわあと言い募るも、猪狩は相変わらず涼しい顔をしている。なんてことだ。
やり場のない怒りと、甘味を待ち望んでいたオレの口は、持て余したこの激情をどこにぶつけたらいいのか分からない。仕方がないので、オレは猪狩が持ってきた高級アイスクリームを一人で食べてやることにした。アイスに罪はない、しかし、オレは風呂から上がったらプリンを食べたかったのだ。
しかし、冷たいアイスを食べているうちに、だんだん心も落ち着いてきた。自分が驚くほど単純であることは否めないが、それにしてもこのアイス、めちゃくちゃ美味い。なんだこれ。確かに、猪狩が自慢げに珍しいとか美味いとかなんだかそんなことを言っていたような気もするが、オレはそんなのこれっぽっちも聞いていないのだった。
猪狩め、こんな美味いアイスを持ってきておいて、わざわざコンビニのプリンを食べるとは、とんだ物好きだ。猪狩には、昔からそういう「悪癖」があった。こいつときたら、わざわざオレが食べようと思っていたものを食べてしまうのである。でも、オレは知っている。猪狩がこんなことをする理由を、とっくに見抜いている。
要するに、猪狩はオレに構ってほしいのだった。猪狩の愛情表現は解し難く、それでいて分かってしまえばタネは簡単だった。わざわざオレにちょっかいを掛けて構ってほしい甘えんぼちゃんなのだ、この天才猪狩守とやらは。
アイスを完食し、すっかり機嫌の良くなったオレは、猪狩のことを許してやることにした。かわいい恋人の悪戯じゃないか。そんなにオレに構ってほしいとは、いじらしいやつめ。今もわざと本に集中しているフリをする猪狩に、オレは後ろから抱き付いた。
「猪狩!」
「なんだ、暑苦しい」
「猪狩〜」
「ボクはいま本を読んでいるんだ、邪魔しないでくれるかい」
「ったく、そんなこと言ってオレには分かってるんだからな〜こいつう〜」
「二度は言わないぞ。離れろ、触るな、静かにしろ」
「あ、はい」
猪狩、どうやら今日はマジでプリンが食べたかっただけのようである。思わず真面目に返事を返して、オレは手を離した。恋人に甘えたいというやり場のない衝動を持て余したオレは、途方に暮れる。答えを知っているのは、猪狩に食われてしまったプリンだけだ。
了
ボクとキミとプリンと甘えんぼ
プリンを食べてしまった。ここでいうプリンというのは、本来ならばパワプロが食べる予定だったはずのプリン、という意味だ。自分の分は夕食後に食べてしまったのだから、これで二つ目だった。
この衝動を、なんと説明すれば良いのだろう。パワプロと一緒にいると、たびたび似たようなことがあった。この気持ちの正体を、ボクは今も適切に表現することが出来ない。パワプロのもの、そう思うと、ボクにはどうしようもない感情が湧き上がってくるのだった。
風呂から上がったパワプロは、案の定冷蔵庫の中を確認して怒っている。自分でも上手く理由を説明出来ないこと、そして読み始めた本が存外に面白かったこともあり、適当にあしらってしまった。
そんなボクの態度にパワプロは怒り心頭で、そのままキッチンの方へと消えていった。そうかと思えば、すぐに戻ってきて、今度はソファに座って読書をしているボクを後ろから抱き締めた。相変わらず、わけの分からないやつだ。そして、タイミングが悪い。ちょうど物語の良いところであったので、ボクは感情のまま邪険に振り払ってしまった。
不貞腐れたパワプロは、ソファの端っこに座ってテレビを見ている。そのまま、どのくらい経っただろうか。キリの良いところまで読み終わったボクは、本を閉じてテーブルの上に置いた。それに気が付いているくせに、隣の男はわざと知らん顔をしている。
「おい、パワプロ」
「なんだよ」
「悪かったね」
「それは、何に対して謝ってるわけ?」
ふう、とパワプロは大袈裟に息をついた。
「オレ、怒ってるんだけど」
「そうだろうね」
「ああそうだオレは怒ってる、めちゃくちゃ怒ってる、だから、今日は猪狩の方からキスしてくれるまで許さないことにした!」
「いいよ」
パワプロの顔を捕まえて、そのまま口付けた。間抜け面のそれが面白くて、もう一度。気分が良かったので、唇を吸い上げてそのままぺろりと舐め上げてやった。なんだか甘い味がする。
「これで、許してくれるのかい?」
「ほんと、おまえさあ…」
脱力したように、パワプロはこちらにしなだれかかってきた。抱き締める腕に大人しく収まっていると、パワプロは馬鹿なことを言っている。ボクはこれから、プリンの代わりに食べられてしまうらしい。馬鹿だ。そう思うのに、その首に腕を回したボクは、もっと馬鹿なんだろう。
そのあと、キッチンのゴミ箱から発見されたアイスクリームの空箱を巡ってもう一悶着あるわけだが、それはまた、別の話だ。
了
ーーーーー
書いてて恥ずかしかったです
プリンがない。風呂上り、食べようと思って楽しみにしていたプリンがなくなっていた。冷蔵庫の中を、もう一度くまなく探す。ない。考えられる原因は、ひとつしかなかった。ソファに腰掛けたまま知らん顔している猪狩の横顔にオレは声を掛ける。
「なあ、オレのプリンがなくなってるんだけど」
「ああ、ボクが食べたよ」
「はあ?だってお前、飯食ったあと自分の分食べただろ、あれはオレのじゃん」
「そうだったかな」
本を読んでいた猪狩は、紙面から顔も上げずにそう言った。オレが何と言ってもどこ吹く風で、本の内容に集中しているのか返事すら返さなくなった。さすがにカチンときたオレがわあわあと言い募るも、猪狩は相変わらず涼しい顔をしている。なんてことだ。
やり場のない怒りと、甘味を待ち望んでいたオレの口は、持て余したこの激情をどこにぶつけたらいいのか分からない。仕方がないので、オレは猪狩が持ってきた高級アイスクリームを一人で食べてやることにした。アイスに罪はない、しかし、オレは風呂から上がったらプリンを食べたかったのだ。
しかし、冷たいアイスを食べているうちに、だんだん心も落ち着いてきた。自分が驚くほど単純であることは否めないが、それにしてもこのアイス、めちゃくちゃ美味い。なんだこれ。確かに、猪狩が自慢げに珍しいとか美味いとかなんだかそんなことを言っていたような気もするが、オレはそんなのこれっぽっちも聞いていないのだった。
猪狩め、こんな美味いアイスを持ってきておいて、わざわざコンビニのプリンを食べるとは、とんだ物好きだ。猪狩には、昔からそういう「悪癖」があった。こいつときたら、わざわざオレが食べようと思っていたものを食べてしまうのである。でも、オレは知っている。猪狩がこんなことをする理由を、とっくに見抜いている。
要するに、猪狩はオレに構ってほしいのだった。猪狩の愛情表現は解し難く、それでいて分かってしまえばタネは簡単だった。わざわざオレにちょっかいを掛けて構ってほしい甘えんぼちゃんなのだ、この天才猪狩守とやらは。
アイスを完食し、すっかり機嫌の良くなったオレは、猪狩のことを許してやることにした。かわいい恋人の悪戯じゃないか。そんなにオレに構ってほしいとは、いじらしいやつめ。今もわざと本に集中しているフリをする猪狩に、オレは後ろから抱き付いた。
「猪狩!」
「なんだ、暑苦しい」
「猪狩〜」
「ボクはいま本を読んでいるんだ、邪魔しないでくれるかい」
「ったく、そんなこと言ってオレには分かってるんだからな〜こいつう〜」
「二度は言わないぞ。離れろ、触るな、静かにしろ」
「あ、はい」
猪狩、どうやら今日はマジでプリンが食べたかっただけのようである。思わず真面目に返事を返して、オレは手を離した。恋人に甘えたいというやり場のない衝動を持て余したオレは、途方に暮れる。答えを知っているのは、猪狩に食われてしまったプリンだけだ。
了
ボクとキミとプリンと甘えんぼ
プリンを食べてしまった。ここでいうプリンというのは、本来ならばパワプロが食べる予定だったはずのプリン、という意味だ。自分の分は夕食後に食べてしまったのだから、これで二つ目だった。
この衝動を、なんと説明すれば良いのだろう。パワプロと一緒にいると、たびたび似たようなことがあった。この気持ちの正体を、ボクは今も適切に表現することが出来ない。パワプロのもの、そう思うと、ボクにはどうしようもない感情が湧き上がってくるのだった。
風呂から上がったパワプロは、案の定冷蔵庫の中を確認して怒っている。自分でも上手く理由を説明出来ないこと、そして読み始めた本が存外に面白かったこともあり、適当にあしらってしまった。
そんなボクの態度にパワプロは怒り心頭で、そのままキッチンの方へと消えていった。そうかと思えば、すぐに戻ってきて、今度はソファに座って読書をしているボクを後ろから抱き締めた。相変わらず、わけの分からないやつだ。そして、タイミングが悪い。ちょうど物語の良いところであったので、ボクは感情のまま邪険に振り払ってしまった。
不貞腐れたパワプロは、ソファの端っこに座ってテレビを見ている。そのまま、どのくらい経っただろうか。キリの良いところまで読み終わったボクは、本を閉じてテーブルの上に置いた。それに気が付いているくせに、隣の男はわざと知らん顔をしている。
「おい、パワプロ」
「なんだよ」
「悪かったね」
「それは、何に対して謝ってるわけ?」
ふう、とパワプロは大袈裟に息をついた。
「オレ、怒ってるんだけど」
「そうだろうね」
「ああそうだオレは怒ってる、めちゃくちゃ怒ってる、だから、今日は猪狩の方からキスしてくれるまで許さないことにした!」
「いいよ」
パワプロの顔を捕まえて、そのまま口付けた。間抜け面のそれが面白くて、もう一度。気分が良かったので、唇を吸い上げてそのままぺろりと舐め上げてやった。なんだか甘い味がする。
「これで、許してくれるのかい?」
「ほんと、おまえさあ…」
脱力したように、パワプロはこちらにしなだれかかってきた。抱き締める腕に大人しく収まっていると、パワプロは馬鹿なことを言っている。ボクはこれから、プリンの代わりに食べられてしまうらしい。馬鹿だ。そう思うのに、その首に腕を回したボクは、もっと馬鹿なんだろう。
そのあと、キッチンのゴミ箱から発見されたアイスクリームの空箱を巡ってもう一悶着あるわけだが、それはまた、別の話だ。
了
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書いてて恥ずかしかったです
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