こたつとみかん
主守
ボクは今、多大なる衝撃を以てしてある事柄に悩まされているのだった。
「猪狩、早く風呂入れよ」
「ああ」
ボクは返答をしながら、風呂へ行くつもりなど全くなかった。
じんわりと温かく居心地の良いこの空間からしばらく出られそうもない。
食器を片づけて洗い物をしているパワプロの背を眺めながらボクはこたつの中に身を埋めた。
急に寒くなったから、こたつ出したんだ。
そう言ってパワプロはこいつを指さした。
以前までテーブルだったそれには布団がかかっていて、横からはコードが伸びていた。
全体的にもっさりとしたそれはとても見た目が良いとは言い難く、もともと美しくないパワプロの部屋の外観をさらに野暮ったいものにしていた。ボクはあからさまに眉をひそめた。そもそもこれが一体何なのか分からなかった。
尋ねるとパワプロは、まさかこたつを知らないの?と驚いた顔でボクを見た。
この物体はこたつというらしい。ボクはこたつを見るのも聞くのもこれが初めてなのであった。
いいから入ってみろよとパワプロに言われるままボクはこたつに足を入れた。
予想外のことに中は温かく、出先で冷えてしまった足先がじんわりと温もっていく。
驚いたボクはパワプロの顔を見た。
「冬は、こたつにみかんなんだ」
そう言ったパワプロは、先ほど買ったばかりのみかんを嬉しそうに机の上に並べるのだった。
生まれて初めてこたつというものに遭遇したボクは、こたつの機能性と心地よさに驚いていた。
こんなにもっさりしているというのに、こたつとはなんと心地の良いものであろうか。
美しいボクに似合うとは到底思えないが、なかなかどうしてこの心地よさには逆らい難い。
このままだとうたた寝すらしてしまいそうだ。
いつもなら夕食を済ませてシャワーを浴びるボクであったが、こたつから出られる気配がなく困っていた。
目の前にあるみかんをひとつ掴む。
「気に入ったみたいで良かったよ」
洗い物を終えたらしいパワプロがキッチンから戻ってくる。
そのままボクの正面にくる格好でこたつの中にもぐり込んだ。
パワプロがこたつの中で足をくっつけてくる。冷たい。こいつは冬でも靴下をはかない。
「汚いからやめろ」
「汚いはないだろ…」
「キミは靴下もスリッパも履かないからね」
「まあそうだけど」
適当にパワプロの相手をしながらみかんの皮をむく。ひとつ口の中に入れると甘酸っぱいみかんの味が口いっぱいに広がった。甘くておいしい。
そんなボクを物欲しそうな顔で見ていたパワプロが口を開ける。
「いっこちょうだい」
あーんとだらしなく開けっ放しになっている口の中にみかんをひとつ放り込む。
もぐもぐと咀嚼すると、もうひとつと言った。
「自分でむけばいいだろ」
「いいじゃん、ちょっとくらい」
もうひとつ、もうひとつと繰り返しているうちにみかんはあっという間になくなってしまった。
せっかくむいたのにほとんど食べられなかったことを不満に思ったボクは新しいみかんを手にとる。
「猪狩に食べさせてもらうとおいしい」
「キミの気のせいだ」
「相変わらずクールだなあ」
そう言いながらパワプロはにこにこと笑ってくる。こたつの中で足を摺り寄せてきたのでボクは払いのけるように態勢を入れ替えた。
もうひとつむいたみかんは、さっきよりも少しだけ酸っぱかった。
「さっきよりも酸っぱいな」
「へえー、オレにもひとつ」
「いやだ」
「なんで」
「自分でむけばいいだろ」
今度こそ分けてやる気のないボクは、不満そうにしているパワプロの顔を横目に次々とみかんを口の中に入れていった。酸っぱいが、これはこれでおいしい。
最後の一粒を口に入れようとすると、その腕をパワプロに掴まれた。
そのまま引き寄せられてみかんは食べられてしまった。
「確かに酸っぱいけど、これはこれでおいしいね」
ボクの腕を掴んだままパワプロは言う。そのままパワプロはボクの指を口に入れるものだから、ボクはあからさまに嫌な顔をすると抗議の声を上げた。
「もうみかんはないぞ」
「うん。でもみかんよりおいしい」
ばかなことを言ったパワプロは相変わらずばかのようにボクの指を舐めている。
指先を舐めていた舌が下りてきて付け根の方をなぞり上げる。そんな動作を何度か繰り返して、とうとうボクの人差し指はパワプロの口の中にすっぽりと覆われて食べられてしまった。
「みかんより猪狩のこと食べたくなっちゃった」
「…ばかだな、キミは」
ばかだと思っているのに、ボクは無理な態勢で顔を近づけると、そのままパワプロの唇にキスをした。
――――――――
猪狩家にはこたつがなさそうだなあと思って、こたつを知らない守さんはかわいいなあと思っていたらこんなことになりました
ボクは今、多大なる衝撃を以てしてある事柄に悩まされているのだった。
「猪狩、早く風呂入れよ」
「ああ」
ボクは返答をしながら、風呂へ行くつもりなど全くなかった。
じんわりと温かく居心地の良いこの空間からしばらく出られそうもない。
食器を片づけて洗い物をしているパワプロの背を眺めながらボクはこたつの中に身を埋めた。
急に寒くなったから、こたつ出したんだ。
そう言ってパワプロはこいつを指さした。
以前までテーブルだったそれには布団がかかっていて、横からはコードが伸びていた。
全体的にもっさりとしたそれはとても見た目が良いとは言い難く、もともと美しくないパワプロの部屋の外観をさらに野暮ったいものにしていた。ボクはあからさまに眉をひそめた。そもそもこれが一体何なのか分からなかった。
尋ねるとパワプロは、まさかこたつを知らないの?と驚いた顔でボクを見た。
この物体はこたつというらしい。ボクはこたつを見るのも聞くのもこれが初めてなのであった。
いいから入ってみろよとパワプロに言われるままボクはこたつに足を入れた。
予想外のことに中は温かく、出先で冷えてしまった足先がじんわりと温もっていく。
驚いたボクはパワプロの顔を見た。
「冬は、こたつにみかんなんだ」
そう言ったパワプロは、先ほど買ったばかりのみかんを嬉しそうに机の上に並べるのだった。
生まれて初めてこたつというものに遭遇したボクは、こたつの機能性と心地よさに驚いていた。
こんなにもっさりしているというのに、こたつとはなんと心地の良いものであろうか。
美しいボクに似合うとは到底思えないが、なかなかどうしてこの心地よさには逆らい難い。
このままだとうたた寝すらしてしまいそうだ。
いつもなら夕食を済ませてシャワーを浴びるボクであったが、こたつから出られる気配がなく困っていた。
目の前にあるみかんをひとつ掴む。
「気に入ったみたいで良かったよ」
洗い物を終えたらしいパワプロがキッチンから戻ってくる。
そのままボクの正面にくる格好でこたつの中にもぐり込んだ。
パワプロがこたつの中で足をくっつけてくる。冷たい。こいつは冬でも靴下をはかない。
「汚いからやめろ」
「汚いはないだろ…」
「キミは靴下もスリッパも履かないからね」
「まあそうだけど」
適当にパワプロの相手をしながらみかんの皮をむく。ひとつ口の中に入れると甘酸っぱいみかんの味が口いっぱいに広がった。甘くておいしい。
そんなボクを物欲しそうな顔で見ていたパワプロが口を開ける。
「いっこちょうだい」
あーんとだらしなく開けっ放しになっている口の中にみかんをひとつ放り込む。
もぐもぐと咀嚼すると、もうひとつと言った。
「自分でむけばいいだろ」
「いいじゃん、ちょっとくらい」
もうひとつ、もうひとつと繰り返しているうちにみかんはあっという間になくなってしまった。
せっかくむいたのにほとんど食べられなかったことを不満に思ったボクは新しいみかんを手にとる。
「猪狩に食べさせてもらうとおいしい」
「キミの気のせいだ」
「相変わらずクールだなあ」
そう言いながらパワプロはにこにこと笑ってくる。こたつの中で足を摺り寄せてきたのでボクは払いのけるように態勢を入れ替えた。
もうひとつむいたみかんは、さっきよりも少しだけ酸っぱかった。
「さっきよりも酸っぱいな」
「へえー、オレにもひとつ」
「いやだ」
「なんで」
「自分でむけばいいだろ」
今度こそ分けてやる気のないボクは、不満そうにしているパワプロの顔を横目に次々とみかんを口の中に入れていった。酸っぱいが、これはこれでおいしい。
最後の一粒を口に入れようとすると、その腕をパワプロに掴まれた。
そのまま引き寄せられてみかんは食べられてしまった。
「確かに酸っぱいけど、これはこれでおいしいね」
ボクの腕を掴んだままパワプロは言う。そのままパワプロはボクの指を口に入れるものだから、ボクはあからさまに嫌な顔をすると抗議の声を上げた。
「もうみかんはないぞ」
「うん。でもみかんよりおいしい」
ばかなことを言ったパワプロは相変わらずばかのようにボクの指を舐めている。
指先を舐めていた舌が下りてきて付け根の方をなぞり上げる。そんな動作を何度か繰り返して、とうとうボクの人差し指はパワプロの口の中にすっぽりと覆われて食べられてしまった。
「みかんより猪狩のこと食べたくなっちゃった」
「…ばかだな、キミは」
ばかだと思っているのに、ボクは無理な態勢で顔を近づけると、そのままパワプロの唇にキスをした。
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猪狩家にはこたつがなさそうだなあと思って、こたつを知らない守さんはかわいいなあと思っていたらこんなことになりました
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