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酔っぱらい賛歌

酔っぱらい賛歌(主守)

「猪狩ってキスしたことあるのかなあ」
「キミ、聞こえてるぞ」
 ざわざわと騒がしい、大衆居酒屋の一席。向かいに座る猪狩の真っ赤な顔を眺めながら、オレはけらけらと笑った。
「聞こえるように言ってんだよお」
「そうかい」
 答えた猪狩が唇の端を持ち上げて不敵に微笑んでみせるものだから、なに格好付けてんだよとオレはまた面白くなってしまって、ゲラゲラと笑い声を上げた。酔っている。二人して、めちゃくちゃに酔っ払っている。傾けた猪狩のグラス、もうやめろよと止めてやらないといけないのに、オレもこれ以上飲めば潰れてしまいそうなのに、今夜は止める気にならなかった。
 他の友人といてもチームメイトといても、いつの間にかオレが猪狩を介抱する係になっていたのは、いつからだろうか。この頃では当人である猪狩ですら、それが当然といった風情なのだからおかしなものだ。ゴクゴクと喉を鳴らしてビールを飲む猪狩を横目に、オレは追加の酒を注文した。

「おい猪狩、ほんとに歩けるのか?」
「当然だろ」
 しっかりとした声とは裏腹に、猪狩の足つきはおぼつかないように見えた。よろけた身体を支えると、猪狩は必要ないといったようにしりぞけて、歩き出してしまった。仕方がないので、オレもその後に続く。
 頬を撫でる夜風が気持ち良かった。春先の、まだ少し冷たい風が火照った身体に染み渡る。真冬のように寒いわけではないので、このくらいがちょうど良いように思えた。店から出て風に当たるとほどよく酔いも醒めてきて、オレは上機嫌に鼻歌なんかを歌ってしまう。飯が美味かった。酒も美味かった。隣に猪狩がいる。オレにはそれだけで十分だった。
「ここ、もう桜が咲き始めてる」
 適当に歩く猪狩について行くと、いつもは歩かない川べりにでた。街灯の頼りないあかりでもくっきりと見えるほど、今夜の月はまんまるで明るかった。今年の桜が早咲きなのか、ここの桜が早いのか、それとも酔っ払いの見間違いか。なんでもいいけれど、それはとてもきれいで、オレも猪狩も自然と足を止めていた。もう、そんな時期なのだ。猪狩と過ごすようになって、何度目の春が来たことだろう。目が合った猪狩は、なんとなく、オレと同じことを考えているような気がした。
「なあ」
「なんだい」
「猪狩ってキスしたことあるのかな」
 さっきと同じ質問だった。違うのは、猪狩の回答。
「キミなら知っているんじゃないのかい」
「えっ」
 猪狩は笑っている。オレは、変な声が出た。それを見てころころと笑う猪狩は、いかにも酔っ払いのそれであった。笑う猪狩を尻目に、オレは泥酔した頭をフル回転させて考えていた。猪狩は、どれのことを言っているのだろう。高校生の頃、猪狩の家へ泊まったときのことだろうか。それとも、プロ入り後、初めて二人で飲みに行った日の帰りのことだろうか。もしかして、ついこの間のあれだろうか。いや、でも、どれも絶対に気付かれていないはずだ。それは、絶対、断固、間違いなく。
「フッ」
「な、なんだよ」
「そんなにボクとキスがしたいなら、してあげるよ」
「えっ?」
 瞬きしたときにはもう、唇が重なっている。口と口がくっ付いて、そして離れていった。ぼんやりしていると、猪狩が不満そうな顔で言う。
「ボクがしたのに、キミからしないのは、不公平だろう」
 そういうものだろうか。猪狩が言うのだから、そうなのかもしれない。いや、そうなんだろう。そうにちがいない。そういうことにして、オレは猪狩の口に自分の口をくっ付けた。初めて互いに意識して重ねた唇はふわふわと夢心地で、どこか現実味がない。猪狩もそうなのか、大きな目でじっとこちらを見つめていた。見つめ合い、黙って、どちらからともなく瞼を下ろした時には、もう一度重なっていた。猪狩だ。そう思うと、嬉しくなった。腕の中に猪狩を抱く。
「オレ、猪狩が好きだよ」
「知っていたよ」
 嬉しくなって、オレは腕の中の猪狩にもう一度、キスをした。





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パワプロアニメ化おめでとう!
びっくりしたよ。急だもん。
ほんとうにおめでとう!!!!!

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