三球勝負
9/主人公×猪狩守
三球勝負
ニヤリと笑った猪狩の顔。勢いよく振ったバットは空を切り、オレは少しよろける。フォークだ。手元でストンと落ちたボールに確信する。前回までには、投げて来なかった球だ。新しく覚えてきたらしい。
「次、いいかな?」
猪狩は笑っている。予想外の球にまんまと空振りしたオレの様子が楽しくてたまらないといった顔で笑っている。一瞬、マウンドのロジンを拾うような仕草を見せた猪狩だったが、帽子を被り直し、すぐにまた投球動作に戻った。当然ながら、河原にロジンはない。夕焼けだけが、オレたちの勝負の行方を見守っている。バットを握り、オレは架空のバッターボックスに入って構え直した。
やあ、偶然だね。そんなことを言ってオレの前に現れる猪狩とこうして勝負をするようになって、どれだけが経っただろう。出会った初め、河原を歩くオレにぶつかってきた猪狩は、謝りもせずにどういうことか三球勝負を挑んできた。それ以来、顔を見合わせるたび、勝負は今日まで続いている。グラブに、バット、いつでもどこでも必ず持ち歩いているオレたちは、なるほど野球馬鹿といった点では大いに気が合うのだろう。猪狩との勝負は、いつも唐突だった。
「フフフ、振らなきゃ当たらないよ」
二球目、ストレート。分かっていたのに手が出なかったそれに、オレは小さく息をつく。猪狩は左手で新しいボールを握りながら満足そうな顔をしている。ここにきて、今まで見た中でいちばんの球速を披露してくる。猪狩は、そういうやつだった。息を吐き、集中する。三球勝負に、遊び球はない。次で最後だ。オレは、次の球を打たなければならない。
猪狩は、鼻持ちならないやつだ。何度か会うたび、オレは猪狩がどういった人物なのか徐々に分かってきたのだった。あかつき高校の猪狩守。高校野球界の有名人、その姿は雑誌にも取り上げられ、サウスポーである猪狩のその腕は黄金の左腕などと持て囃されている。そんな猪狩が、なぜオレに構うのか。
カーン、甲高い音が辺りに響き、猪狩が大きく振り仰ぐ。あの当たりならば、右中間辺りに落ちる二塁打くらいにはなっただろうか。オレの勝ちだった。振り返った猪狩が、帽子を脱ぎ、悔しそうな顔を見せた。しかし、それも一瞬のことで、その顔はすぐにまたいつもの自信満々ふてぶてしい顔に戻っている。
「今回はキミの勝ちでいいよ。失投を見逃さなかったキミの勝利といったところかな」
いつもの負け惜しみを言う猪狩に、オレは毎度恒例の呆れた顔で応戦する。オレは、猪狩の球を打たなければならない。なぜなら。
「いい暇つぶしになったよ」
そう言い残して、猪狩は鞄を拾って去っていった。オレも、バットを片付けて鞄を持ち直す。
オレがおまえの球を打ち続ける限り、おまえはまた、オレに会いに来るだろう。だからやっぱり、オレは次も、おまえの球を打たなければならないのだ。
了
ーーーーーーーーーーーーーー
好きだな〜以外の感情がない
三球勝負
ニヤリと笑った猪狩の顔。勢いよく振ったバットは空を切り、オレは少しよろける。フォークだ。手元でストンと落ちたボールに確信する。前回までには、投げて来なかった球だ。新しく覚えてきたらしい。
「次、いいかな?」
猪狩は笑っている。予想外の球にまんまと空振りしたオレの様子が楽しくてたまらないといった顔で笑っている。一瞬、マウンドのロジンを拾うような仕草を見せた猪狩だったが、帽子を被り直し、すぐにまた投球動作に戻った。当然ながら、河原にロジンはない。夕焼けだけが、オレたちの勝負の行方を見守っている。バットを握り、オレは架空のバッターボックスに入って構え直した。
やあ、偶然だね。そんなことを言ってオレの前に現れる猪狩とこうして勝負をするようになって、どれだけが経っただろう。出会った初め、河原を歩くオレにぶつかってきた猪狩は、謝りもせずにどういうことか三球勝負を挑んできた。それ以来、顔を見合わせるたび、勝負は今日まで続いている。グラブに、バット、いつでもどこでも必ず持ち歩いているオレたちは、なるほど野球馬鹿といった点では大いに気が合うのだろう。猪狩との勝負は、いつも唐突だった。
「フフフ、振らなきゃ当たらないよ」
二球目、ストレート。分かっていたのに手が出なかったそれに、オレは小さく息をつく。猪狩は左手で新しいボールを握りながら満足そうな顔をしている。ここにきて、今まで見た中でいちばんの球速を披露してくる。猪狩は、そういうやつだった。息を吐き、集中する。三球勝負に、遊び球はない。次で最後だ。オレは、次の球を打たなければならない。
猪狩は、鼻持ちならないやつだ。何度か会うたび、オレは猪狩がどういった人物なのか徐々に分かってきたのだった。あかつき高校の猪狩守。高校野球界の有名人、その姿は雑誌にも取り上げられ、サウスポーである猪狩のその腕は黄金の左腕などと持て囃されている。そんな猪狩が、なぜオレに構うのか。
カーン、甲高い音が辺りに響き、猪狩が大きく振り仰ぐ。あの当たりならば、右中間辺りに落ちる二塁打くらいにはなっただろうか。オレの勝ちだった。振り返った猪狩が、帽子を脱ぎ、悔しそうな顔を見せた。しかし、それも一瞬のことで、その顔はすぐにまたいつもの自信満々ふてぶてしい顔に戻っている。
「今回はキミの勝ちでいいよ。失投を見逃さなかったキミの勝利といったところかな」
いつもの負け惜しみを言う猪狩に、オレは毎度恒例の呆れた顔で応戦する。オレは、猪狩の球を打たなければならない。なぜなら。
「いい暇つぶしになったよ」
そう言い残して、猪狩は鞄を拾って去っていった。オレも、バットを片付けて鞄を持ち直す。
オレがおまえの球を打ち続ける限り、おまえはまた、オレに会いに来るだろう。だからやっぱり、オレは次も、おまえの球を打たなければならないのだ。
了
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好きだな〜以外の感情がない
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