今日はなんの日
今日はなんの日(主守)
「キレイだな」
そう言った猪狩はとても満足そうで、そして誇らしげであった。隣を歩く猪狩の横顔は、いつもよりずいぶんと柔らかく、響く声も温かかった。突然のそれにオレが目を瞬かせている間も、猪狩は満足そうに口元に笑みをたたえている。
猪狩が綺麗だと言ったのは、陽が落ちて街々に灯る明かり、そしてこの季節だけのイルミネーションを指しているに違いなかった。なんといっても今日は、クリスマス・イブなのである。キラキラと瞬くそれはいつもの街並みをやたらと幻想的に、そしてロマンティックに映し出していた。
今日は終業式の日で、明日からは冬休みである。寒い体育館で校長先生の話を聞いて、通信簿をもらって、担任の先生から仕上げのありがたい話を聞いたら、おしまいの日だ。しかしながら、あかつき高校野球部は、終業式の日にも冬休みにも練習を欠かすことがない。今日も普段通りいつものメニューをこなしての帰路だった。この頃は恒例となった二人で並んで帰る道、やたらと機嫌の良さそうな猪狩にオレは尋ねてみることにした。
「猪狩でも、クリスマスの日は嬉しいんだな」
「なんのことだい」
「だって、今日はクリスマス・イブじゃん。それで機嫌がいいんじゃないの」
「なに言ってる。今日はボクの誕生日だぞ」
「へ?」
「この街の明かりも、あの電灯も、みんなボクの誕生日を祝っているんだ」
朗らかに笑う猪狩はとても珍しく、本当に機嫌が良さそうだったので、オレはとっさに言いかけた言葉をそのまま飲み込んだ。なに言ってんだ、こいつ。猪狩流の冗談なのかもしれなかったし、いや、こいつのことだから十分本気ということも考えられた。猪狩の考えていることは、凡人のオレにはよく分からない。分からないが、猪狩が嬉しそうにしているなら、それだけで十分だとも思った。
「猪狩、今日誕生日なの」
「そうだよ」
「なんだよ、そういうのはもっと早く言えよな」
「なぜキミに言う必要があるんだい」
「だって、ほら、いろいろあるだろ、いろいろ」
猪狩は知らぬ顔で歩いている。今だけのイルミネーションの光なんかより、隣を歩くいつもの猪狩の方がよっぽど綺麗だ。そんな馬鹿なことを思うのも、すべてはクリスマス、猪狩の誕生日だからということにしておく。
「猪狩、誕生日おめでとう」
「ああ、ありがとう」
いつもより素直な返事が返ってくるのも、誕生日のおかげなのか。嬉しそうに笑う猪狩にオレはたまらなくなって、こっそりその手を取ってみることにした。猪狩の方は見ずに、歩きながらあくまで自然にそっと手を取る。利き腕である左手の方を触ると怒るので、当然右手の方だ。猪狩はもちろん知らないだろうが、オレの定位置はいつだって猪狩の右隣、その理由はあまりにいじらしい。清く正しいお付き合い、オレはいつだって猪狩と手を繋ぐ機会を窺っている。
手を繋いでそのまま歩き出しても、猪狩はちらりとこちらを見たきりで何も言わなかった。街並みの明かりが、猪狩の横顔を静かに照らしているのをオレはこっそりと見る。猪狩の頬が上気しているのは、きっと寒さのせいだけではないだろう。その顔があまりにも美しく見えたものだから、きっと猪狩の言う通り、この光はお前を祝福しているに違いないなどと、そんな馬鹿なことを考えていた。
了
ーーーーーーーーーーー
守さん、お誕生日おめでとうございます。
大好きよ。
「キレイだな」
そう言った猪狩はとても満足そうで、そして誇らしげであった。隣を歩く猪狩の横顔は、いつもよりずいぶんと柔らかく、響く声も温かかった。突然のそれにオレが目を瞬かせている間も、猪狩は満足そうに口元に笑みをたたえている。
猪狩が綺麗だと言ったのは、陽が落ちて街々に灯る明かり、そしてこの季節だけのイルミネーションを指しているに違いなかった。なんといっても今日は、クリスマス・イブなのである。キラキラと瞬くそれはいつもの街並みをやたらと幻想的に、そしてロマンティックに映し出していた。
今日は終業式の日で、明日からは冬休みである。寒い体育館で校長先生の話を聞いて、通信簿をもらって、担任の先生から仕上げのありがたい話を聞いたら、おしまいの日だ。しかしながら、あかつき高校野球部は、終業式の日にも冬休みにも練習を欠かすことがない。今日も普段通りいつものメニューをこなしての帰路だった。この頃は恒例となった二人で並んで帰る道、やたらと機嫌の良さそうな猪狩にオレは尋ねてみることにした。
「猪狩でも、クリスマスの日は嬉しいんだな」
「なんのことだい」
「だって、今日はクリスマス・イブじゃん。それで機嫌がいいんじゃないの」
「なに言ってる。今日はボクの誕生日だぞ」
「へ?」
「この街の明かりも、あの電灯も、みんなボクの誕生日を祝っているんだ」
朗らかに笑う猪狩はとても珍しく、本当に機嫌が良さそうだったので、オレはとっさに言いかけた言葉をそのまま飲み込んだ。なに言ってんだ、こいつ。猪狩流の冗談なのかもしれなかったし、いや、こいつのことだから十分本気ということも考えられた。猪狩の考えていることは、凡人のオレにはよく分からない。分からないが、猪狩が嬉しそうにしているなら、それだけで十分だとも思った。
「猪狩、今日誕生日なの」
「そうだよ」
「なんだよ、そういうのはもっと早く言えよな」
「なぜキミに言う必要があるんだい」
「だって、ほら、いろいろあるだろ、いろいろ」
猪狩は知らぬ顔で歩いている。今だけのイルミネーションの光なんかより、隣を歩くいつもの猪狩の方がよっぽど綺麗だ。そんな馬鹿なことを思うのも、すべてはクリスマス、猪狩の誕生日だからということにしておく。
「猪狩、誕生日おめでとう」
「ああ、ありがとう」
いつもより素直な返事が返ってくるのも、誕生日のおかげなのか。嬉しそうに笑う猪狩にオレはたまらなくなって、こっそりその手を取ってみることにした。猪狩の方は見ずに、歩きながらあくまで自然にそっと手を取る。利き腕である左手の方を触ると怒るので、当然右手の方だ。猪狩はもちろん知らないだろうが、オレの定位置はいつだって猪狩の右隣、その理由はあまりにいじらしい。清く正しいお付き合い、オレはいつだって猪狩と手を繋ぐ機会を窺っている。
手を繋いでそのまま歩き出しても、猪狩はちらりとこちらを見たきりで何も言わなかった。街並みの明かりが、猪狩の横顔を静かに照らしているのをオレはこっそりと見る。猪狩の頬が上気しているのは、きっと寒さのせいだけではないだろう。その顔があまりにも美しく見えたものだから、きっと猪狩の言う通り、この光はお前を祝福しているに違いないなどと、そんな馬鹿なことを考えていた。
了
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守さん、お誕生日おめでとうございます。
大好きよ。
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