初恋のソーダ割り
初恋のソーダ割り (主人公×猪狩守)
「これは夢だ」
思わず口に出していた。朝起きたら、裸だった。おそるおそる布団をめくると、かろうじて下着は付けているようだ。良かった。いや、よくない。そもそも、全く身に覚えのないここは、一体どこなのだろう。きちんと考えたいのに、未だかつて経験したことのない倦怠感と頭痛がそれを許さなかった。
曖昧な記憶、見慣れない部屋、裸で眠っている自分、ここまで自分の預かり知らぬことばかりだというのに、隣に転がっている男のことだけはよく知っているというのがまた恐ろしい事実であった。しかも、布団からはみ出しているその姿を見るに、どうやら自分と同じく服を着ていないではないか。
引かれたカーテンの向こうから差し込む朝の日差しが眩しかった。その向こうで雀が鳴いている。心なしか、身体のあちこちが痛い。ボクは呑気に寝ている隣の男の頭を引っ叩いた。
「おい」
「んう!?」
「起きろ」
「まだ眠いって…」
「起きろパワプロ」
「ああ、猪狩起きたのか…」
そう言いながらまた布団の中にもぐっていこうとする男は、チームメイトのパワプロだ。ボクが隣に寝ていることに動じていないその様子を見るに、どうやら「こうなった」事情を知っているに違いなかった。
「おい、なんなんだこれは」
「は?猪狩覚えてないの」
「ああ」
「なんにも?」
「ああ…」
「お前、マジでなんにも覚えてないの?ほんとに?昨日はすごかったんだぞ」
それは見ればなんとなく分かる。口には出さずにパワプロの方を見ると、やつは意味ありげに溜息をついてみせるのだった。
「猪狩、どこまで覚えてる?」
「……」
「まさか、なんにも覚えてないの?」
「練習後、一緒に食事に行ったところまでは記憶しているが」
「そうだよ、そこでお前ベロベロに酔っ払ってさあ、帰れないっていうからオレの家まで連れてきたんじゃん!」
「…そうかい、それは悪かったね」
「そんで、なんとか家まで連れて帰って来たと思ったら、お前いきなり玄関でさー」
「げ、玄関…?」
「そうだよお前オレのこと全然離さないし、いきなりだし、しがみついたまますげー激しいし」
「……」
「オレ、あんなの初めてだよ」
「……」
「お前、酔うとあんな風になるんだな」
「……」
ボクが黙るとパワプロも黙ってしまって、妙な沈黙が下りた。果たして何を言うべきなのか、ボクは布団をかき抱いて言葉に詰まった。これはつまり、そういうことで間違いないのだろうか。こんなとき、どんな顔をしたら良いのか分からない。
「あのさあ」
「なんだい…?」
「猪狩、なんか勘違いしてない?」
「かんちがい?」
「いや、なんていうか、そんな顔されると余計困るんだけど…」
ボクはいまどんな顔をしているんだろう。分からない。顔が熱かった。パワプロは、こんなに格好良かっただろうか。いつもの間抜け面が嘘のように真剣な表情をしている。ドキドキして胸が痛かった。ボクは昨日のことを覚えていないのを心底後悔していた。
「いや、あのな猪狩」
「うん」
「オレたち服着てないだろ」
「ああ…」
「それは汚しちゃったから仕方なくこうなったからで…ああなんだろうこの話せば話すほど勘違いが深まる感じ!?あのな、昨日…」
パワプロが話す内容は、確かにボクにとって衝撃的なものだった。
「昨日、お前を担いでなんとか家に帰ったら、酔ったお前がそのままもどしちゃって、玄関でいきなり、しかもオレに抱きついたまま離れないから二人して上も下もめちゃくちゃになって、よっぽど気持ち悪かったのかお前すげー激しく吐いてたし、とにかく汚れた服を脱がせて洗濯に突っ込んで、洗面所で顔やら口やらキレイに洗って、そんでようやく布団まで連れてったところでお前がオレを掴んだまま離さないから、もう疲れてたしめんどいしそのまま寝たの!そんだけ!」
「それだけ?本当に?」
「そうだよ」
「じゃあ、身体のあちこちが痛いのは」
「えっ、痛いのか?玄関で転んだときにどっか打ったのかも、洗面所でも一回転んでたし」
「……、…」
「おい、大丈夫か?見せてみろよ」
パワプロの心配そうにする顔を見たその瞬間、未だかつて経験のない前代未聞の感情が押し寄せて、ボクは身体中の熱が顔に集まるのを感じた。なんなら、耳まで熱い。首も熱い。特大の羞恥。極大の勘違い。
「猪狩、おーい」
「……」
「まあ、そんな日もあるって」
「……」
「猪狩」
「これは、夢だ」
なんなら、正夢にする?少しの間の後、笑ったパワプロはそう言ってこちらに唇を寄せた。重なるそれ。キス。ボクは何が何やら、もう収集が付かなくなっていた。そのあとパワプロの告げた言葉に、ボクはもう一度だけ、同じ言葉を呟いた。
了
ーーーーーーー
しゅ〜まも〜
「これは夢だ」
思わず口に出していた。朝起きたら、裸だった。おそるおそる布団をめくると、かろうじて下着は付けているようだ。良かった。いや、よくない。そもそも、全く身に覚えのないここは、一体どこなのだろう。きちんと考えたいのに、未だかつて経験したことのない倦怠感と頭痛がそれを許さなかった。
曖昧な記憶、見慣れない部屋、裸で眠っている自分、ここまで自分の預かり知らぬことばかりだというのに、隣に転がっている男のことだけはよく知っているというのがまた恐ろしい事実であった。しかも、布団からはみ出しているその姿を見るに、どうやら自分と同じく服を着ていないではないか。
引かれたカーテンの向こうから差し込む朝の日差しが眩しかった。その向こうで雀が鳴いている。心なしか、身体のあちこちが痛い。ボクは呑気に寝ている隣の男の頭を引っ叩いた。
「おい」
「んう!?」
「起きろ」
「まだ眠いって…」
「起きろパワプロ」
「ああ、猪狩起きたのか…」
そう言いながらまた布団の中にもぐっていこうとする男は、チームメイトのパワプロだ。ボクが隣に寝ていることに動じていないその様子を見るに、どうやら「こうなった」事情を知っているに違いなかった。
「おい、なんなんだこれは」
「は?猪狩覚えてないの」
「ああ」
「なんにも?」
「ああ…」
「お前、マジでなんにも覚えてないの?ほんとに?昨日はすごかったんだぞ」
それは見ればなんとなく分かる。口には出さずにパワプロの方を見ると、やつは意味ありげに溜息をついてみせるのだった。
「猪狩、どこまで覚えてる?」
「……」
「まさか、なんにも覚えてないの?」
「練習後、一緒に食事に行ったところまでは記憶しているが」
「そうだよ、そこでお前ベロベロに酔っ払ってさあ、帰れないっていうからオレの家まで連れてきたんじゃん!」
「…そうかい、それは悪かったね」
「そんで、なんとか家まで連れて帰って来たと思ったら、お前いきなり玄関でさー」
「げ、玄関…?」
「そうだよお前オレのこと全然離さないし、いきなりだし、しがみついたまますげー激しいし」
「……」
「オレ、あんなの初めてだよ」
「……」
「お前、酔うとあんな風になるんだな」
「……」
ボクが黙るとパワプロも黙ってしまって、妙な沈黙が下りた。果たして何を言うべきなのか、ボクは布団をかき抱いて言葉に詰まった。これはつまり、そういうことで間違いないのだろうか。こんなとき、どんな顔をしたら良いのか分からない。
「あのさあ」
「なんだい…?」
「猪狩、なんか勘違いしてない?」
「かんちがい?」
「いや、なんていうか、そんな顔されると余計困るんだけど…」
ボクはいまどんな顔をしているんだろう。分からない。顔が熱かった。パワプロは、こんなに格好良かっただろうか。いつもの間抜け面が嘘のように真剣な表情をしている。ドキドキして胸が痛かった。ボクは昨日のことを覚えていないのを心底後悔していた。
「いや、あのな猪狩」
「うん」
「オレたち服着てないだろ」
「ああ…」
「それは汚しちゃったから仕方なくこうなったからで…ああなんだろうこの話せば話すほど勘違いが深まる感じ!?あのな、昨日…」
パワプロが話す内容は、確かにボクにとって衝撃的なものだった。
「昨日、お前を担いでなんとか家に帰ったら、酔ったお前がそのままもどしちゃって、玄関でいきなり、しかもオレに抱きついたまま離れないから二人して上も下もめちゃくちゃになって、よっぽど気持ち悪かったのかお前すげー激しく吐いてたし、とにかく汚れた服を脱がせて洗濯に突っ込んで、洗面所で顔やら口やらキレイに洗って、そんでようやく布団まで連れてったところでお前がオレを掴んだまま離さないから、もう疲れてたしめんどいしそのまま寝たの!そんだけ!」
「それだけ?本当に?」
「そうだよ」
「じゃあ、身体のあちこちが痛いのは」
「えっ、痛いのか?玄関で転んだときにどっか打ったのかも、洗面所でも一回転んでたし」
「……、…」
「おい、大丈夫か?見せてみろよ」
パワプロの心配そうにする顔を見たその瞬間、未だかつて経験のない前代未聞の感情が押し寄せて、ボクは身体中の熱が顔に集まるのを感じた。なんなら、耳まで熱い。首も熱い。特大の羞恥。極大の勘違い。
「猪狩、おーい」
「……」
「まあ、そんな日もあるって」
「……」
「猪狩」
「これは、夢だ」
なんなら、正夢にする?少しの間の後、笑ったパワプロはそう言ってこちらに唇を寄せた。重なるそれ。キス。ボクは何が何やら、もう収集が付かなくなっていた。そのあとパワプロの告げた言葉に、ボクはもう一度だけ、同じ言葉を呟いた。
了
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しゅ〜まも〜
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