夏とハンバーガー
夏とハンバーガー (主人公と猪狩守)
もしかして猪狩は、今までにハンバーガーを食べたことがないんじゃないか。オレがそれを確信したのは、目の前の猪狩が「ナイフとフォークはどこだ」と尋ねてきたからだ。思えば、猪狩は店に入る前から妙にそわそわしていて、何がそんなに珍しいのか、店内をきょろきょろと眺めては落ち着かない様子だった。
猪狩の家が随分な資産家らしいことは知っていたが、まさかこれほどまでだったとは。言われてみれば確かに、猪狩とファーストフードの組み合わせはなかなか似合わない。
テーブルに置かれたハンバーガーセットが二つ。猪狩に先に席を取っておいてと頼んだオレが、一緒に注文したものだ。新発売、学生限定、この時間帯だけはなんと通常の半額で食べられるのだ。そういうわけでオレは猪狩を誘ったのだった。
「これは、このまま食べるんだよ」
包みを剥がしてそのまま口へ運ぶと、猪狩も同じように、ゆっくりとハンバーガーを口にするのだった。瞳を瞬かせ、黙って食べ進める様子を見ると、どうやら気に入ったようだ。それを見ながら、オレは口いっぱいに入れたパンをバニラシェイクで流し込んだ。美味い。
しかし、オレが食べているものと同じパンであるのに、猪狩が両手で掴んでいるだけでいやに恭しく見えるのは何故だろうか。ハンバーガーを食べているだけなのに、その口元は妙に涼しげで気品すら感じられた。
「猪狩、この前はテスト直前に悪かったな、ありがとう。おかげで、なんとか赤点だけは免れたよ」
「フン。このボクがわざわざ教えてやったんだ、当然だろう」
「これは一応、その御礼。オレの奢りで」
「そうかい」
「美味いな。これ、新発売なんだって」
「へえ」
言いながらポテトを摘んで口に入れると、猪狩は珍しいものを見るような目でそれを見ていた。なるほど、ナイフとフォークを要求した猪狩のことだ、こちらも珍しいに違いない。面白かったので、オレはポテトをひとつ摘んで、猪狩の口元に差し出してやった。
「なんだい」
「ん、いや、別に」
「……」
「食べないのか?」
食べるさ。そんな風に言う声が聞こえたような気がしたが、実際には猪狩は黙ってそれを口にするだけだった。静かに飲み込み、今度は自分から手を伸ばす。どうやらこちらもお気に召したらしい。誤魔化すように吸い上げたバニラシェイクは、なんだかいつもより甘かった。
「今度は、矢部くんも誘って一緒に来よっか」
「ああ」
いつになく素直な返事に、オレは笑った。今度は、牛丼を食べに行くのもいいかもしれない。ラーメンも捨てがたい。食券を買ってから食事をすること、猪狩は知っているだろうか。きっと、物珍しそうにボタンを押すんだろう。
「なに笑ってるんだ」
「いや、楽しいなって」
「急に、変なやつだな」
猪狩にしては珍しく、困ったような顔をするのだった。それもまた、楽しい。今年は猛暑になるらしい、ある夏の日のことだ。
了
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学生主守。ふたりでいっぱい思い出作ってくれい
もしかして猪狩は、今までにハンバーガーを食べたことがないんじゃないか。オレがそれを確信したのは、目の前の猪狩が「ナイフとフォークはどこだ」と尋ねてきたからだ。思えば、猪狩は店に入る前から妙にそわそわしていて、何がそんなに珍しいのか、店内をきょろきょろと眺めては落ち着かない様子だった。
猪狩の家が随分な資産家らしいことは知っていたが、まさかこれほどまでだったとは。言われてみれば確かに、猪狩とファーストフードの組み合わせはなかなか似合わない。
テーブルに置かれたハンバーガーセットが二つ。猪狩に先に席を取っておいてと頼んだオレが、一緒に注文したものだ。新発売、学生限定、この時間帯だけはなんと通常の半額で食べられるのだ。そういうわけでオレは猪狩を誘ったのだった。
「これは、このまま食べるんだよ」
包みを剥がしてそのまま口へ運ぶと、猪狩も同じように、ゆっくりとハンバーガーを口にするのだった。瞳を瞬かせ、黙って食べ進める様子を見ると、どうやら気に入ったようだ。それを見ながら、オレは口いっぱいに入れたパンをバニラシェイクで流し込んだ。美味い。
しかし、オレが食べているものと同じパンであるのに、猪狩が両手で掴んでいるだけでいやに恭しく見えるのは何故だろうか。ハンバーガーを食べているだけなのに、その口元は妙に涼しげで気品すら感じられた。
「猪狩、この前はテスト直前に悪かったな、ありがとう。おかげで、なんとか赤点だけは免れたよ」
「フン。このボクがわざわざ教えてやったんだ、当然だろう」
「これは一応、その御礼。オレの奢りで」
「そうかい」
「美味いな。これ、新発売なんだって」
「へえ」
言いながらポテトを摘んで口に入れると、猪狩は珍しいものを見るような目でそれを見ていた。なるほど、ナイフとフォークを要求した猪狩のことだ、こちらも珍しいに違いない。面白かったので、オレはポテトをひとつ摘んで、猪狩の口元に差し出してやった。
「なんだい」
「ん、いや、別に」
「……」
「食べないのか?」
食べるさ。そんな風に言う声が聞こえたような気がしたが、実際には猪狩は黙ってそれを口にするだけだった。静かに飲み込み、今度は自分から手を伸ばす。どうやらこちらもお気に召したらしい。誤魔化すように吸い上げたバニラシェイクは、なんだかいつもより甘かった。
「今度は、矢部くんも誘って一緒に来よっか」
「ああ」
いつになく素直な返事に、オレは笑った。今度は、牛丼を食べに行くのもいいかもしれない。ラーメンも捨てがたい。食券を買ってから食事をすること、猪狩は知っているだろうか。きっと、物珍しそうにボタンを押すんだろう。
「なに笑ってるんだ」
「いや、楽しいなって」
「急に、変なやつだな」
猪狩にしては珍しく、困ったような顔をするのだった。それもまた、楽しい。今年は猛暑になるらしい、ある夏の日のことだ。
了
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学生主守。ふたりでいっぱい思い出作ってくれい
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