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映画をみる

隣を見たら、猪狩が泣いていたから驚いた。えー。猪狩って映画見て泣くんだ。びっくりして、なんだか見てはいけないものを見た気になって、慌ててスクリーンに向き直る。とっくに食べ終わっているポップコーンの空箱に手を突っ込んで、息を吸う。こっちはまだ残っていた飲み物をジュウと飲み干してから、もう一回隣を見る。猪狩、まだ泣いてる。ハンカチなんてそんな気の利いたものを持ってるわけがなくて、どうしようかと思っているうちに、猪狩はどこから出したのか自分のハンカチで目元を抑えていた。はー。おまえのそんな顔、初めて見たよ。

「つまらなかったね」
 にこにこしながら猪狩が言う。オレは猪狩のせいで映画の内容なんてこれっぽっちも入って来なかったから、何も言えない。その間も猪狩は饒舌にしゃべり続けている。猪狩がよくしゃべるのは、機嫌がいい証拠だ。映画はよっぽど面白かったに違いない。ちぇ、それならオレもちゃんと見とけば良かった。あのあともずっと隣の猪狩が気になって、映画なんて見てる場合じゃなかった。涙を流す猪狩の横顔。猪狩は追加で頼んだ食後の珈琲を飲みながら、まだしゃべっている。
「でもさ、猪狩おまえ泣いてたじゃん」
「は?ボクが?」
 そんなの知らないよと猪狩は言う。そうかよとオレは答える。そうだよと猪狩は言う。それならそうかもなと、オレは猪狩の真似をして珈琲に砂糖をたくさん入れた。おまえが知らなくても、オレが知っている。おまえすら知らないことを、オレは知っているんだ。
 ふふふと笑うと、猪狩が変なやつだなと言うので、オレはまた笑った。




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脈絡がないんだからもちろん意味もオチもない
いいの
主守が好きだから

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