春と待ち合わせ
春と待ち合わせ (主守)
どこから飛んできたのか、目の前を舞う桜の花びらを追いかけて顔を上げると、そいつは手を上げてこちらに走ってくるのだった。猪狩、と呼ばれる。
頬を撫でる柔らかな風と、穏やかな気候が心地良かった。春という季節は不思議なもので、どこか背筋が伸びるような、それでいて面映いような気持ちにさせる。しかし、そんなボクの気持ちは、今まさに一瞬で吹き飛んでしまった。
「ごめん、待った?」
待ち合わせをしていた人物に対して投げかける定番の台詞であろう。ここでボクが、「今来たところだ」と答えれば、まさしく完璧だ。なんといったって今日は、「初めてのデート」であるのだから。そう、デートだ。そういう気持ちで、ボクはそわそわとした気持ちと共に駅前で待っていた。自慢の愛車で来るつもりだったところを、こいつが、パワプロが、待ち合わせをしたいなどと言うものだから。
ボクの顔を見つけたパワプロは、満面の笑みで笑っている。いつも着ている彼のトレードマークとも言うべき、ユニフォームという出で立ちで。そういえばこいつは学生の頃からそうだった。いつでもどこでも、夏でも冬でもユニフォーム一枚の格好をしている。
「猪狩、どうした?」
こちらを覗き込むパワプロは全くいつもの通りだった。それを見ていると、腹の底からふつふつと込み上げてくるものがある。ボクが昨晩、どれだけ悩んだことか、こいつは知らない。どんな服装をしていこうか、デートにふさわしい格好とはどんなものか。ボクは、キミがどんな服装でやってくるのか、待っている間ずっと考えていたのに。ボクの時間と、この不毛な胸の高鳴りを返せ!
「じゃ、行こっか」
その手は、自然な動作でボクの手を掴んだ。驚いて顔を上げると、きゅ、と少しだけ強く掴まれる。手を繋いだまま歩き出したパワプロが言った。
「だって、今日は、デートだろ」
赤くなったパワプロの顔を、春風が撫でていく。単純なボクはすっかり機嫌を直して、その背中を追いかけた。デートはまだ、始まったばかりだ。
了
ーーーーーーーーーーー
なぜなら、春だからです
どこから飛んできたのか、目の前を舞う桜の花びらを追いかけて顔を上げると、そいつは手を上げてこちらに走ってくるのだった。猪狩、と呼ばれる。
頬を撫でる柔らかな風と、穏やかな気候が心地良かった。春という季節は不思議なもので、どこか背筋が伸びるような、それでいて面映いような気持ちにさせる。しかし、そんなボクの気持ちは、今まさに一瞬で吹き飛んでしまった。
「ごめん、待った?」
待ち合わせをしていた人物に対して投げかける定番の台詞であろう。ここでボクが、「今来たところだ」と答えれば、まさしく完璧だ。なんといったって今日は、「初めてのデート」であるのだから。そう、デートだ。そういう気持ちで、ボクはそわそわとした気持ちと共に駅前で待っていた。自慢の愛車で来るつもりだったところを、こいつが、パワプロが、待ち合わせをしたいなどと言うものだから。
ボクの顔を見つけたパワプロは、満面の笑みで笑っている。いつも着ている彼のトレードマークとも言うべき、ユニフォームという出で立ちで。そういえばこいつは学生の頃からそうだった。いつでもどこでも、夏でも冬でもユニフォーム一枚の格好をしている。
「猪狩、どうした?」
こちらを覗き込むパワプロは全くいつもの通りだった。それを見ていると、腹の底からふつふつと込み上げてくるものがある。ボクが昨晩、どれだけ悩んだことか、こいつは知らない。どんな服装をしていこうか、デートにふさわしい格好とはどんなものか。ボクは、キミがどんな服装でやってくるのか、待っている間ずっと考えていたのに。ボクの時間と、この不毛な胸の高鳴りを返せ!
「じゃ、行こっか」
その手は、自然な動作でボクの手を掴んだ。驚いて顔を上げると、きゅ、と少しだけ強く掴まれる。手を繋いだまま歩き出したパワプロが言った。
「だって、今日は、デートだろ」
赤くなったパワプロの顔を、春風が撫でていく。単純なボクはすっかり機嫌を直して、その背中を追いかけた。デートはまだ、始まったばかりだ。
了
ーーーーーーーーーーー
なぜなら、春だからです
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