春と病室
春と病室 (5/ 猪狩守)
病室の外がうるさいと思って顔を上げると、弟の声がした。なんだろうと耳を済ませると、弟ともう一人男の声が混じる。それは、自分の記憶違いでなければ、先日河原で一打席勝負をした、他校の野球部員のものに違いなかった。あいつが、なぜここに。いや、弟が、なぜあいつと話をしているのだろう。ここが病院であることも忘れて、ボクは勢いよくベッドから乗り出した。
立ち上がると、痛めた足首がじわりと熱を持った。顔をしかめ、足元をみやる。怪我をするなど、三流選手のすることだ。あの日は朝から体調が優れなかったにも関わらず、練習を強行した己の思慮の浅さが招いたことであった。悔やんだところで時間は戻らないので、今は自分に出来ることをするだけだ。そう思って、大人しくイメージトレーニングにいそしんでいたところだというのに。
扉の向こうでは、相変わらず騒がしく会話をする声が聞こえてくる。無視をしようと思っても、どうにも気が散って仕方ない。そうしているうちに、自分の苛立ちの矛先がおかしな方向に向いてしまっていることに、気が付いた。
弟よ、そいつの相手をするのは、このボクだ。
「あっ、に、兄さん!」
「人が気持ちよくイメージトレーニングしているときに、大声出すんじゃない」
ガチャリ、不躾にドアノブを捻ると、そこには弟と女性の看護師、そして例の野球部員が床に転がっていた。フンと鼻を鳴らすと、弟が情けない声で言うのだった。
「その人、頭から血が出てるよ…」
「ほほう、たしかに。こんな怪我人がいるとは、さすが病院だな」
どうやら、ドアを開けたときにぶつけたらしい。ちら、と見ると、血を流しながらもケロリとした表情でこちらを見ているそいつと目が合うのだった。名前を確か、パワプロといっただろうか。ふうん。ボクの顔を見るといつも目を吊り上げて目の敵にするくせに、弟とはそんな顔で話をするのか。
「もう、いいかげんにしなさい!」
女性の看護師の一喝に、ボクら三人は同時にはっとして、弟とボクは有耶無耶に病室から追い出される格好になった。部屋から出る直前、真正面からパワプロと目が合って、ボクは瞳を瞬いた。
「もう、兄さん、あんまり無茶しないでよ」
「ああ」
「今日はもう僕は帰りますから、くれぐれも安静にしてくださいよ」
「ああ、分かってる」
「…どうかしたんですか?」
「いや」
尋ねたいことはあったが、やめた。パワプロとも、野球をしていれば、そのうちにまたどこかで会うだろう。ボクたちは、長話をするよりも野球をしていた方がずっと自然であろう。そのためにも、こんな怪我など早く治さなくてはならない。そうだろう、パワプロ。
「じゃあ、進。またグラウンドでな」
そう言って、ボクは弟の頭に一度だけ手をやって、自身の病室の戸を開けた。
了
ーーーーーーー
2年め4月4週。進くんの初登場定期イベントのときに入院してると病室で会えるんですね。
知らなかった!
散々遊んだのに、まだまだ知らないことあるなあ
(忘れてることも多数)
病室の外がうるさいと思って顔を上げると、弟の声がした。なんだろうと耳を済ませると、弟ともう一人男の声が混じる。それは、自分の記憶違いでなければ、先日河原で一打席勝負をした、他校の野球部員のものに違いなかった。あいつが、なぜここに。いや、弟が、なぜあいつと話をしているのだろう。ここが病院であることも忘れて、ボクは勢いよくベッドから乗り出した。
立ち上がると、痛めた足首がじわりと熱を持った。顔をしかめ、足元をみやる。怪我をするなど、三流選手のすることだ。あの日は朝から体調が優れなかったにも関わらず、練習を強行した己の思慮の浅さが招いたことであった。悔やんだところで時間は戻らないので、今は自分に出来ることをするだけだ。そう思って、大人しくイメージトレーニングにいそしんでいたところだというのに。
扉の向こうでは、相変わらず騒がしく会話をする声が聞こえてくる。無視をしようと思っても、どうにも気が散って仕方ない。そうしているうちに、自分の苛立ちの矛先がおかしな方向に向いてしまっていることに、気が付いた。
弟よ、そいつの相手をするのは、このボクだ。
「あっ、に、兄さん!」
「人が気持ちよくイメージトレーニングしているときに、大声出すんじゃない」
ガチャリ、不躾にドアノブを捻ると、そこには弟と女性の看護師、そして例の野球部員が床に転がっていた。フンと鼻を鳴らすと、弟が情けない声で言うのだった。
「その人、頭から血が出てるよ…」
「ほほう、たしかに。こんな怪我人がいるとは、さすが病院だな」
どうやら、ドアを開けたときにぶつけたらしい。ちら、と見ると、血を流しながらもケロリとした表情でこちらを見ているそいつと目が合うのだった。名前を確か、パワプロといっただろうか。ふうん。ボクの顔を見るといつも目を吊り上げて目の敵にするくせに、弟とはそんな顔で話をするのか。
「もう、いいかげんにしなさい!」
女性の看護師の一喝に、ボクら三人は同時にはっとして、弟とボクは有耶無耶に病室から追い出される格好になった。部屋から出る直前、真正面からパワプロと目が合って、ボクは瞳を瞬いた。
「もう、兄さん、あんまり無茶しないでよ」
「ああ」
「今日はもう僕は帰りますから、くれぐれも安静にしてくださいよ」
「ああ、分かってる」
「…どうかしたんですか?」
「いや」
尋ねたいことはあったが、やめた。パワプロとも、野球をしていれば、そのうちにまたどこかで会うだろう。ボクたちは、長話をするよりも野球をしていた方がずっと自然であろう。そのためにも、こんな怪我など早く治さなくてはならない。そうだろう、パワプロ。
「じゃあ、進。またグラウンドでな」
そう言って、ボクは弟の頭に一度だけ手をやって、自身の病室の戸を開けた。
了
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2年め4月4週。進くんの初登場定期イベントのときに入院してると病室で会えるんですね。
知らなかった!
散々遊んだのに、まだまだ知らないことあるなあ
(忘れてることも多数)
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