気のいい隣人
気のいい隣人(主守)
「なあ猪狩、今度一緒に買い物行かない?」
「なんでボクがキミと行かなくちゃいけないんだい」
「ほら、前におまえが話してた、デパート。次の日曜は、練習も休みだろ?」
「ボクはキミと違って暇じゃないんだよ」
そんなことを言っていた猪狩を、日曜日のデパートで見つけた。オレは一瞬見間違いかと思って目を擦ってみたが、やっぱり猪狩だ。見慣れているいつものユニフォームや制服姿じゃないから別人かと思ってもう一度よく目を凝らしてみたが、どう見ても猪狩だった。
猪狩が憎まれ口を叩くのも、素直じゃないのも分かっていたつもりだったが、なるほどそう来たか。もしかして、わざわざオレが来るのを待っていたりしたんだろうか。オレは猪狩の連絡先を知らないし、猪狩も知らないはずだった。
声を掛けようか、どうしようか。プライドの高い猪狩のこと、下手なことはしない方が良いだろうとふんで、オレは知らぬ顔でエスカレーターに乗る。もしかしたら、本当に偶然同じタイミングで買い物に来ただけなのかもしれないし。猪狩のことは、よく分からない。やたらと突っかかってくるかと思いきや、こちらから話し掛けても素っ気なく、そうかと思えば自前の球場を持っているらしい猪狩家の私設球場で一緒に練習を誘われたこともある。自分にとっての猪狩は、未知数で、そして不思議な存在だった。
そういうことを考えているうちに、お目当てのスポーツショップに着いていた。高校生の自分には少々背伸びをした店だったが、その分品揃えもうんと充実していて、仮に買えなかったとしても、並んでいる野球道具を見ているだけで楽しかった。
そうして店の中を見て回っていると、見知った後ろ頭を発見する。もちろん、猪狩だ。オレが店に入ったのを見て、追いかけて来たんだろうか。さすがにそろそろ声を掛けてやろうかと思ったところで、ちょうど良く猪狩が振り返った。
「やあ、キミか。偶然だね」
さすがに苦しい言い訳だろうと言いたくなるのをぐっと押し込んで、オレはつとめて知らぬ顔をする。振り返った猪狩は、普段学校で見るよりも機嫌が良さそうだった。
「猪狩も買い物?」
「まあ、そんなところだ」
買い物じゃなかったら、逆に何の用なんだ。内心では突っ込みが止まらないが、なんとなくそわそわと嬉しそうにしている猪狩を見ていると、そういうことも全部どうでも良くなってくるもんだから、これまた不思議だ。
「キミはいつでもその格好なんだな」
「これが一番落ち着くし」
「落ち着くもなにも、キミは制服すら着てないじゃないか」
「いーじゃん、べつに」
「キミもボクを見習って、たまにはオシャレをするといいよ」
にこにこと笑う猪狩はどうやら自信満々、威風堂々といった風情であったが、オレは特に何も言わなかった。美意識というのは、人それぞれだ。それに、猪狩は猪狩の好きにするのが一番いい。
「オレ、新しいバッテ買いに来たんだけどさ、猪狩のオススメある?」
顔を上げた猪狩と、目が合った。パッと景色が明るくなったように、猪狩があんまり嬉しそうな顔をするものだから、オレは思わず笑ってしまった。
「し、仕方ないな。ボクは心が広いから、キミのような凡人にも教えてあげようじゃないか」
「……」
「なに笑ってるんだ」
「いや、楽しいなって」
固まる猪狩に、オレはまた笑う。その顔を見ているともうどうにでもなれと思って、オレはその手を掴んで歩き出した。
「バッテ、どこかな」
勝手に繋いだ手に猪狩はなんにも言わなかったから、オレは猪狩に携帯番号教えてよと尋ねた。次は待ち合わせをして、どこに行こうか。
了
ーーーーーーーーー
主守はいついかなる時も良いものです
ボツデータっぽいものがメモにそのまま残っていたので、頭から推敲していくついでにオチを付けて完成させました。その日の気分とか勢いとかあるけど、主守はいついかなる時も素晴らしいのですごいと思います。
(もう)去年の守さんの誕生日に書いた小話も上げてなかったので、ついでに載せました
守さん、おめでとう
守さんのいる毎日が祝日です。
「なあ猪狩、今度一緒に買い物行かない?」
「なんでボクがキミと行かなくちゃいけないんだい」
「ほら、前におまえが話してた、デパート。次の日曜は、練習も休みだろ?」
「ボクはキミと違って暇じゃないんだよ」
そんなことを言っていた猪狩を、日曜日のデパートで見つけた。オレは一瞬見間違いかと思って目を擦ってみたが、やっぱり猪狩だ。見慣れているいつものユニフォームや制服姿じゃないから別人かと思ってもう一度よく目を凝らしてみたが、どう見ても猪狩だった。
猪狩が憎まれ口を叩くのも、素直じゃないのも分かっていたつもりだったが、なるほどそう来たか。もしかして、わざわざオレが来るのを待っていたりしたんだろうか。オレは猪狩の連絡先を知らないし、猪狩も知らないはずだった。
声を掛けようか、どうしようか。プライドの高い猪狩のこと、下手なことはしない方が良いだろうとふんで、オレは知らぬ顔でエスカレーターに乗る。もしかしたら、本当に偶然同じタイミングで買い物に来ただけなのかもしれないし。猪狩のことは、よく分からない。やたらと突っかかってくるかと思いきや、こちらから話し掛けても素っ気なく、そうかと思えば自前の球場を持っているらしい猪狩家の私設球場で一緒に練習を誘われたこともある。自分にとっての猪狩は、未知数で、そして不思議な存在だった。
そういうことを考えているうちに、お目当てのスポーツショップに着いていた。高校生の自分には少々背伸びをした店だったが、その分品揃えもうんと充実していて、仮に買えなかったとしても、並んでいる野球道具を見ているだけで楽しかった。
そうして店の中を見て回っていると、見知った後ろ頭を発見する。もちろん、猪狩だ。オレが店に入ったのを見て、追いかけて来たんだろうか。さすがにそろそろ声を掛けてやろうかと思ったところで、ちょうど良く猪狩が振り返った。
「やあ、キミか。偶然だね」
さすがに苦しい言い訳だろうと言いたくなるのをぐっと押し込んで、オレはつとめて知らぬ顔をする。振り返った猪狩は、普段学校で見るよりも機嫌が良さそうだった。
「猪狩も買い物?」
「まあ、そんなところだ」
買い物じゃなかったら、逆に何の用なんだ。内心では突っ込みが止まらないが、なんとなくそわそわと嬉しそうにしている猪狩を見ていると、そういうことも全部どうでも良くなってくるもんだから、これまた不思議だ。
「キミはいつでもその格好なんだな」
「これが一番落ち着くし」
「落ち着くもなにも、キミは制服すら着てないじゃないか」
「いーじゃん、べつに」
「キミもボクを見習って、たまにはオシャレをするといいよ」
にこにこと笑う猪狩はどうやら自信満々、威風堂々といった風情であったが、オレは特に何も言わなかった。美意識というのは、人それぞれだ。それに、猪狩は猪狩の好きにするのが一番いい。
「オレ、新しいバッテ買いに来たんだけどさ、猪狩のオススメある?」
顔を上げた猪狩と、目が合った。パッと景色が明るくなったように、猪狩があんまり嬉しそうな顔をするものだから、オレは思わず笑ってしまった。
「し、仕方ないな。ボクは心が広いから、キミのような凡人にも教えてあげようじゃないか」
「……」
「なに笑ってるんだ」
「いや、楽しいなって」
固まる猪狩に、オレはまた笑う。その顔を見ているともうどうにでもなれと思って、オレはその手を掴んで歩き出した。
「バッテ、どこかな」
勝手に繋いだ手に猪狩はなんにも言わなかったから、オレは猪狩に携帯番号教えてよと尋ねた。次は待ち合わせをして、どこに行こうか。
了
ーーーーーーーーー
主守はいついかなる時も良いものです
ボツデータっぽいものがメモにそのまま残っていたので、頭から推敲していくついでにオチを付けて完成させました。その日の気分とか勢いとかあるけど、主守はいついかなる時も素晴らしいのですごいと思います。
(もう)去年の守さんの誕生日に書いた小話も上げてなかったので、ついでに載せました
守さん、おめでとう
守さんのいる毎日が祝日です。
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