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行かないで

行かないで(主守)

「今日もめちゃくちゃ練習したなあ〜。もう一歩も動けないよ」
「この程度の練習で根を上げるなんて、やっぱりキミは三流だね」
 部活動を終えた後、いつものように私設球場で練習をしたあとでひっくり返ったパワプロに、ボクは言った。言われたパワプロはさして気にした様子もなく、起き上がってボールを片付け始める。慣れたものだ。いつもと同じやり取りに、ボクの口はなんら淀みなくいつもの言葉を投げ掛けていた。
「泊まっていくといいよ。今日は特別にマッサージ師も付けてあげよう」
「いや、今日は帰るよ」
 えっ。漏れた声が自分のものだったのか、はたまた心の声だったのか、判断がつかない。当然、いつものように大袈裟に喜んで泊まっていくパワプロを想像していたボクは、次に言うべき言葉が見当たらず、困惑していた。こんなことは初めてだ。そんなこととは露知らず、パワプロはいつも通り、むしろいつもよりも手際良く道具を片付けて、すでに自らの鞄を肩に下げているではないか。
「じゃあな、猪狩。道具、貸してくれてありがとう」
「ああ……いや、おい」
「どうした?」
「帰るのかい」
「うん。いつも泊めてもらってばっかで悪いし。さすがに最近は入り浸りすぎで、よくないと思って」
 よくないわけがあるか。今日もこの後は、いつものように風呂に入って、風呂から上がったら明日に差し支えのない程度の少しの夜食を食べながら、取り留めのない話をしたり、ゲームをしたり、それに明日は休みなのだから、いつもよりだらだらしたっていい。横になるとすぐに眠くなるというパワプロには特別に、ボクの部屋で眠ることも許可してやるし、今までだってこの前だってそうしてきたのに、なぜ今日は、帰るのだ。ボクは今日を、明日は久しぶりに部活動も休みである今日この日を、何より楽しみにしていたというのに。起きたら一緒に朝食を食べて軽くランニングをして、シャワーを浴びてからの時間を、そのあと一日どう過ごすのか、ずっと考えていたのに。
「じゃあな、猪狩」
「……」
 右手が出た。自分でもどうしてそうなったのか分からない。掴んだパワプロのユニフォームの裾がみっともなく伸びて、ズボンからはみ出した。背を向けて歩き始めていたパワプロが振り返る。顔は見れなかった。
 こちらを振り返ったパワプロは、「ずっと、それが聞きたかった」なんて言って笑うものだから、ボクは何も言っていないと、掴む手を黙って握り返した。




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主守ちゃんか〜わい

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