誰にもいえない
誰にもいえない(9/主守)
「えっ。猪狩と矢部くん、二人で遊びに行って来たの?」
部室で珍しく二人が話し込んでいるのでなんだと思って尋ねたら、予想外の返事が飛んできた。それに素っ頓狂な声を上げると、猪狩は目を逸らして不機嫌そうに言う。オレは知っている。これは照れ隠しするときの猪狩がよく見せる仕草だった。日直の仕事を終わらせてから来たオレとは違い、二人はもうスパイクも履いていて野球をする準備をすっかり済ませていた。
「べつに遊びに行ったわけじゃない。ちょっと食事をして来ただけだ」
「でもそのあとバッティングセンターに行ったでやんす」
「腹ごなしにな」
へえ、と相槌を打ちながら、オレは何故だか胸がドキドキしてきて、自分の意思とは別に跳ね上がる心臓を気取られぬよう静かに息をついた。これがどういう気持ちなのか自分でも分からない。分からないので、せめて気付かれないようにと、オレは一生懸命普段の自分を思い出しながら声を出した。
「それなら、オレも誘ってくれれば良かったのに」
「パワプロくん、見たいテレビがあるって言ってさっさと帰ったでやんすよ」
「ああ、あの日か…」
「ボクは練習が終わったらすぐに帰りたかったんだ」
「あのときの猪狩くんのお腹の音にはみんなビックリしてたでやんす」
「うるさいな」
相変わらず猪狩と矢部くんは楽しそうに話を続けている。オレがさっさと帰ってしまったあの日、どうやら猪狩が部室で大きな腹の音を鳴らして、それを聞いていた矢部くんと成り行きでご飯を食べに行くことになり、そのついでにバッティングセンターに寄って帰ったということらしい。それだけのことだ。それだけのことがどうしてこんなにも胸をざわめかせるのだろう。
「なに食べに行ったの?今度はオレも一緒にみんなで行こうよ」
「あいにく、ボクはキミたちと違って暇ではないんでね」
「猪狩くん、誘われて嬉しいのがバレバレでやんすよ」
「なんだって」
隣でじゃれている二人と一緒に笑いながら、オレは飲み込めない感情と口に出せない気持ちが喉で大渋滞を起こしていた。なんと言っていいのか分からなかった。猪狩のような気難しい変人と仲良くなれるのは自分だけだと思ったのに、猪狩って自分以外にも懐くんだな。そういうことが頭をよぎって、一人で勝手に恥ずかしくなる。懐くって、なんだ。猪狩はペットじゃない。もちろんオレのものじゃないし、誰と仲良くしたっていい。オレのもの?ますます思考がこんがらがってわけが分からなくなる。オレは猪狩をなんだと思っているのだろうか。
「おい、もう行くぞ。無駄なお喋りはやめないか」
「元はと言えば猪狩くんが始めたんでやんす」
部室を出た二人の背中を見ながら、オレも後に続いて戸を閉める。誰にも言えない気持ちには蓋をして、オレはグラウンドに向かって走り出した。
了
ーーーーーーーーー
矢部くんいつもごめんねありがとう
たまには主人公ちゃんの方に妬いてもらったら思いがけず不穏な空気になりました
たまにはいいじゃないかいいじゃないか
主守は約束されたhappyが待っているので安心してなんでも書ける
「えっ。猪狩と矢部くん、二人で遊びに行って来たの?」
部室で珍しく二人が話し込んでいるのでなんだと思って尋ねたら、予想外の返事が飛んできた。それに素っ頓狂な声を上げると、猪狩は目を逸らして不機嫌そうに言う。オレは知っている。これは照れ隠しするときの猪狩がよく見せる仕草だった。日直の仕事を終わらせてから来たオレとは違い、二人はもうスパイクも履いていて野球をする準備をすっかり済ませていた。
「べつに遊びに行ったわけじゃない。ちょっと食事をして来ただけだ」
「でもそのあとバッティングセンターに行ったでやんす」
「腹ごなしにな」
へえ、と相槌を打ちながら、オレは何故だか胸がドキドキしてきて、自分の意思とは別に跳ね上がる心臓を気取られぬよう静かに息をついた。これがどういう気持ちなのか自分でも分からない。分からないので、せめて気付かれないようにと、オレは一生懸命普段の自分を思い出しながら声を出した。
「それなら、オレも誘ってくれれば良かったのに」
「パワプロくん、見たいテレビがあるって言ってさっさと帰ったでやんすよ」
「ああ、あの日か…」
「ボクは練習が終わったらすぐに帰りたかったんだ」
「あのときの猪狩くんのお腹の音にはみんなビックリしてたでやんす」
「うるさいな」
相変わらず猪狩と矢部くんは楽しそうに話を続けている。オレがさっさと帰ってしまったあの日、どうやら猪狩が部室で大きな腹の音を鳴らして、それを聞いていた矢部くんと成り行きでご飯を食べに行くことになり、そのついでにバッティングセンターに寄って帰ったということらしい。それだけのことだ。それだけのことがどうしてこんなにも胸をざわめかせるのだろう。
「なに食べに行ったの?今度はオレも一緒にみんなで行こうよ」
「あいにく、ボクはキミたちと違って暇ではないんでね」
「猪狩くん、誘われて嬉しいのがバレバレでやんすよ」
「なんだって」
隣でじゃれている二人と一緒に笑いながら、オレは飲み込めない感情と口に出せない気持ちが喉で大渋滞を起こしていた。なんと言っていいのか分からなかった。猪狩のような気難しい変人と仲良くなれるのは自分だけだと思ったのに、猪狩って自分以外にも懐くんだな。そういうことが頭をよぎって、一人で勝手に恥ずかしくなる。懐くって、なんだ。猪狩はペットじゃない。もちろんオレのものじゃないし、誰と仲良くしたっていい。オレのもの?ますます思考がこんがらがってわけが分からなくなる。オレは猪狩をなんだと思っているのだろうか。
「おい、もう行くぞ。無駄なお喋りはやめないか」
「元はと言えば猪狩くんが始めたんでやんす」
部室を出た二人の背中を見ながら、オレも後に続いて戸を閉める。誰にも言えない気持ちには蓋をして、オレはグラウンドに向かって走り出した。
了
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矢部くんいつもごめんねありがとう
たまには主人公ちゃんの方に妬いてもらったら思いがけず不穏な空気になりました
たまにはいいじゃないかいいじゃないか
主守は約束されたhappyが待っているので安心してなんでも書ける
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