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走れ猪狩

猪狩は激怒した。必ず、かの鈍感鈍間のパワプロを解らせなければならぬと決意した。パワプロには猪狩の心がわからぬ。猪狩は、パワプロの恋人である。学生の頃より二人は白球を追い掛け、野球と共に暮らして来た。けれども猪狩の恋心に対しては、パワプロは人一倍に鈍感であった。
(今日こそは、絶対にボクの方から誘わずに向こうから押し倒させてやる!)
 要するに猪狩くんは、なかなかパワプロくんが手を出してくれないことに悶々としているだけでした。
「おい、パワプロ」
 ソファに寝転がってテレビを見ていたパワプロくんを端に追いやって、その隣に寄り添うように猪狩くんは腰掛けました。
 開けた窓からは、朝の温かな日差しと柔らかな風、そして小鳥のさえずりが聞こえてくるのでした。こんなに素晴らしい朝をだらだらと寝転びながら過ごすなど、言語道断です。わざと身体を密着させながら、猪狩くんはパワプロくんにしなだれかかりました。こちらを見る彼の視線に猪狩くんの胸は小さく飛び跳ねます。
「今日はなんだか少し暑いな」
 そう言って猪狩くんは、わざと自分の肌が見えるように、着ているシャツを引っ張りました。もちろん、ボタンは上からひとつふたつ、開けてあります。
「そうか?天気予報だと昨日より涼しくなるみたいだけど」
 猪狩くんの火照る身体…もとい火照った顔もなんのその、どこ吹く風で言うパワプロくんは本当に涼しい顔をしています。いつもならばこの辺りで怒ってしまうのですが、今日の猪狩くんは本気です。気持ちをぐっと押し込めて、パワプロくんの腿へ手を這わせました。
(これならどうだ!)
「なんだよ猪狩。ここ座りたいのか?たく、ほんとわがままだよな〜お前」
 猪狩くんの気持ちなど露ほども知らぬパワプロくんは、いつものこととさして気にもせず、ソファから降りて、それを背もたれにしてテレビを見るのでした。確かに常日頃猪狩くんは自分の好きな時にソファを占領すべくパワプロくんを退かしますが、今日は違います。違うと言ったら違うのです。
「……キミ、今日は皿洗い当番だろう」
「あっ、そうだった。忘れる前に今からやるか」
 もちろん猪狩くんにとっては皿などどうでも良く、新たな作戦に移るべくパワプロくんに席を立たせるのが目的でした。まんまと流しの前で皿を洗い始めるパワプロくんの隣に、猪狩くんもそっと並びました。
「ボクも手伝う」
「珍しいな。助かるけど」
 パワプロくんがそう言った瞬間、わざと蛇口に手をかざした猪狩くんは、勢いよく流れ出る水でびしょ濡れになってしまいました。猪狩くんどころか辺り一面水浸しになってしまいましたが、猪狩くんとしては作戦大成功です。水も滴るなんとやら。一枚だけ着ているシャツが肌に張り付いてぐっしょりと濡れそぼっています。
(さあ、ボクをよく見ろ!)
「ばっ、猪狩お前なにやってんだよ、も〜!タオル持ってくるからちょっと待ってて!」
 どうだと言わんばかりに顔を上げた猪狩くんでしたが、その時にはもうパワプロくんはタオルを取りにいなくなっていて、ぽかんとしている間に渡されたタオルで全身拭かれ、もちろん床も綺麗に清掃され、ご丁寧に着替えまでさせられているのでした。
 しかも、薄手のシャツ一枚では寒いだろうと、きちんと季節に相応なセーターを持って来られてしまいました。生地は上等なカシミヤで織られたもので、猪狩くんのお気に入りの一着でもあります。服を着せてもらった猪狩くんは万歳の姿勢から手を下ろし、ついでにそのままそっぽを向きました。猪狩くん、ここで限界を迎えました。きっとパワプロくんを睨み付け、立ち上がります。
「もういい!ボクは走ってくる!」
「え?ならちゃんとウェアに着替えた方が」
「いい!」
 言うが早いか家を飛び出して、猪狩くんは駆け出しました。初めは怒りに任せてがむしゃらに足を動かしていましたが、いったん走り出すといつもの癖でランニングコースをなぞっていました。朝露に濡れる樹木は日の光にきらきらと眩く、吹き抜ける風は爽やかで、いつしか通常のトレーニングのように走っていました。セーターを着て出てきたことを後悔しながら、いつもより少しだけ長めのコースを走り終え、猪狩くんは家に戻りました。リビングの戸を開けると、待っていたようにパワプロくんが顔を覗かせました。
「おかえり、猪狩」
「……」
「さっき頭から濡れてたし、風呂入りたいかと思って沸かしといたぞ」
 走ってきたことで頭も冷えていたので、猪狩くんは小さく御礼を言うと素直に入浴することにしました。さっぱりと汗を流したらなんだかいろんなことがどうでも良くなってしまって、気分良く風呂を上がりました。そうして身体を拭いて下着を手に取ったところで、パワプロくんが脱衣所に入って来ました。
「ちょっ…なんのつもりだ、ボクはまだ」
「いやあ、待てなくなっちゃってさ」
「は」
 猪狩くんの声はそのままパワプロくんに飲み込まれて、それ以上何も言えなくなってしまいました。パワプロくんの口はまるで猪狩くんを食べてしまうように吸ったり食んだり、時には舌べろを噛んでいくものですから、猪狩くんは何が何だか分からないまま、すっかりとろけてしまいました。
「何なんだ急に、キミは……」
「いや、猪狩が誘ったんじゃん」
「なっ、キミ知ってて」
 続きはパワプロくんの唇が重なって、猪狩くんはやっぱり何も言えないのでした。待ち望んでいたそれにうっとりと瞼を下ろした顔は、パワプロくんだけが知っていることです。

 おしまい!


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ギャグですって言えばなんでも許してもらえると思ってるな?(思ってる)
守さんはかわいーなーーー

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