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I want

I want (主守)

 例えるならそれは、喉の渇きに似ている。猪狩にとっての野球とは、おそらくそういうものであった。目指すべき地点に到達したと思ったそのときにはもう、足りなくなっている。もっと、もっと、どれだけ練習しても足りない。どんなにボールを投げても、いくらバットを振っても、満たされることはない。だからこそ、猪狩は野球が好きだった。さらなる高みへ。今日も喉が渇く。

「猪狩、帰りにラーメン食べて行かない?」
 練習後、シャワーを浴びたあとはわざわざ新しいユニフォームに着替える男が言った。こいつは一年中、場所も季節も問わずにユニフォームを着ている。名前をパワプロと言って、猪狩とは高校時代のライバルであり、今ではチームメイトの男でもあった。
「またラーメンかい」
 飽きれた口調を隠しもせずに言うと、万年ユニフォーム男はいいじゃん別になどと口を尖らせてみせた。こういう態度も物言いも、学生の頃から変わらない。野球にしか興味のない猪狩に、このように話しかけて来るのは今も昔もパワプロだけだった。
 どうやらラーメンを食べに行くのは決定事項となってしまったようで、パワプロは上機嫌で鞄の中に荷物を放り込んでいる。適当に詰め込んでチャックを閉めたら完了だ。早く行こうぜ猪狩、そんなことを言う。いつの間にか当たり前になってしまった光景を見ながら、猪狩は手元のドリンクを一気に飲み干した。
 パワプロと一緒にいると、喉が渇く。それは自分にとっての野球との関係性に似ていた。求めれば求めるほど足りない気がして、喉の渇きを感じる。それをなんと言うべきなのか、猪狩は一巡して、思ったことをそのまま口に出して言った。
「キミは、ボクに欲情しないのか」
「は!?」
「べつにおかしなことではないだろう。キミとボクは、恋人同士なのだから」
 パワプロは目を白黒させて慌てている。変なやつだ、そう思いながら猪狩は続けた。
「そもそもボクたちがこうなって変わったことと言えば、せいぜい食事に行く回数が増えたくらいで、だいたいキミはいつもラーメンばかりだし、恋人らしいことどころか半年経ってもなんの進展もないし」
「猪狩、急にどうしたんだよ!?」
「キミがそんなだから、ボクは喉が渇いて仕方ないんだよ」
 蛍光灯の下、ふたつの影がひとつになる。キス。唇と唇が触れるだけの、まるで羽のようなそれであった。猪狩がそっと離れると、パワプロはまだ状況が掴めていないように固まっていた。
「キスのときくらい目を閉じたらどうだい」
「い、い、い、猪狩」
「なんだ」
「もう一回!」
 あんまり勢いよく言うものだから、猪狩は思わず吹き出してしまった。笑っているところをパワプロに肩を掴まれる。今度は向こうから重なるそれに、猪狩はそっと目を閉じた。
「なあ、猪狩」
「うん?」
「好きだ」
「……」
「なんで笑うんだよ」
 吐息を交わしながら笑って、今度は二人揃って目を閉じた。腰を抱くパワプロに、猪狩は両手を背に回して返事をするのだった。




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いつものやつーだけど、手を出されたい守さんは国宝なので

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