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あなたころしすぎたのね

こういうとき、自分はどうすればいいのか、分からなかった。
「オレ、進くんのことが好きなんだ」
 一緒に居残り練習をした帰り道、もうすぐ別れることになる交差点へ差し掛かる前に、彼は言った。部活動の先輩で、歳はひとつ上。兄の同級生で、兄とはずいぶん親しくしているように見えた。
 並んで歩いていた足を止めて、彼の方を見る。自分よりも体格に恵まれていて背が高いので、少しだけ見上げるような格好になる。僕の視線を受けて恥ずかしそうに、それでいて真っ直ぐとこちらを向いたまま背筋を伸ばすその姿は、彼の人となりを表しているようだった。誠実さと実直さ、そして素朴な温かさ。はにかんで、笑う。その次に来る言葉が予想されて、僕は息を詰めた。
「オレと、付き合ってください」
 彼の言う付き合うというものが、例えば今日のように居残り練習を共にすることだとか、次の週末に一緒にミットを見に行くことだとか、そういう類のものではないことは勿論分かっている。同性だからという偏見や嫌悪感も特にない。だって、彼は兄のことが好きなのだろうと思っていたのだから。
 だから僕は猪狩守の弟として、彼にとっての「進くん」であるように努めて接してきた。兄とは違って素直で従順な、礼儀の正しい弟。求められている自分の役割をいつも通りに果たしてきたつもりだった。それで僕たちは、僕の周りは上手く回っていたし、兄も彼もそれで楽しそうにしていた。
 もちろん、すべてが嘘や演技というわけではない。僕は僕なりにこの先輩のことを好ましいと思っていて、ただそれは兄を好きな先輩として見ていたからという可能性が捨てきれないだけであり、突然それらが兄ではなく自分に向いたとき、どうしたらいいのか分からないだけだった。兄の弟としての「進くん」がどうすればいいのかは分かるのに、進として自分がどうしたいのか、分からなかった。
「進くん」
 あなたのことが好きです。でも、どうしたらいいのか分からない。兄なら、こういうときにどうするだろうか。そういうことを考えた自分に心底嫌気が差して、僕は少しの間、目を閉じた。もう一度目を開けたところで、世界が変わっているなんてことはないのに。

あなた殺しすぎたのね





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ほしいが言えない進くんのはなし
自分をころし続けてずっといい子でいたからわかんなくなっちゃった
これからは主人公ちゃんがその手を取って一緒に考えてくれるね……

頭に浮かぶ言葉にこのタイトルがあって、いつか書いてみたいと思っていたらさすが進くん、書かせてくれました。ありがとう。

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