おぼえていてね
おぼえていてね (主人公×猪狩進)
例えば、ドラマの中で登場人物が涙を流すシーン。目尻からスッと一筋涙が流れて、旬の役者がぽろぽろと零す涙はまるで宝石のよう。オレにとって、他人が涙を流すシーンというのはそういうものだった。だから、目の前で嗚咽を漏らすその人に、オレは気の利いた一言すらも出てこない。
進くんが、泣いている。野球部の後輩である彼と、一緒になってこっそり居残り練習をした帰りであった。あまりに驚いて、オレは直前のやり取りすら思い出せない。それでも、オレのせいで彼がこんなになってしまっていることだけは分かった。ぼろぼろと零れる雫が、彼のユニフォームを濡らしていく。流れる涙を拭って、彼が目蓋をぐいぐい擦るものだから、目元はすっかり腫れてしまっていた。
「どうして、兄さんじゃなくて、僕のことが好きなんて、言うんですか」
嗚咽に紛れて、そんなことを言う。オレは本当に困ってしまって、何度同じことを尋ねられても同じことしか答えられない。悲しいというよりは、怒っているようなニュアンスで、彼は何度も尋ねる。会話は平行線だ。
「きみと猪狩を比べたことがないから、分からないよ」
そう言うと、ようやく収まってきた嗚咽がまた大きくなって、とうとう彼は堰を切ったようにわんわん泣き出してしまった。いつも朗らかに微笑んでいる聡明な彼が、鼻の頭を真っ赤にして、まるで子供のようだった。
「僕のこと、嫌いになったでしょう」
「まさか」
少し落ち着いたあと、ふて腐れたようにしながらぐずぐずと鼻を鳴らす彼は、本当に子供のようだった。一度も見たことのないその表情はあどけなくて、かわいらしかった。持っていたタオルを差し出すと、彼は素直に受け取って、しかし顔を埋めるようにして動かなくなってしまった。
「恥ずかしい、見ないでください」
「まあ、いいじゃないか。こんな日だって」
「いやだ、見ないで」
「進くん、あんな顔もするんだね」
「お願いです、忘れてください」
「忘れられるわけないよ」
「ごめんなさい、こんなみっともない」
「みっともなくはないけど、オレの前だけにしといてね。もったいないから」
「もったいない?」
「うん。それに、あんな顔を見たら、みんなきみのことが好きになっちゃう」
「そんな物好きな人、いません」
「ここにいるけど」
そう言うと、進くんはようやくタオルに押し付けていた顔を上げてくれるのだった。泣き腫らしたその顔は今までに見たこともない表情で、オレは笑った。
「ひどい。笑いましたね」
「ごめん、つい」
「ひどいです」
「ねえ。聞くけどさ。進くんのどの辺が、猪狩に似てるの?」
「え」
「進くんは、自分のどこが猪狩に似てると思うの」
「顔、とか」
「猪狩のそんな顔、見たことないけど」
「そういうことじゃないです」
「あとは?」
「野球、してる、ところとか」
「じゃあオレもじゃん。オレも野球してるから、猪狩に似てるってことになるけど」
「だからそういうことじゃないです。違います」
「違わないよ」
きょとんとしている彼の鼻の頭をつまんで、オレは呼び掛けた。
「進くん」
「……」
「進くん」
「はい」
「うん。進くんだ」
鼻をつままれた進くんは、不本意そうに眉をしかめて、そのあとで困ったような顔で笑ってくれた。ほろり、最後に一筋だけ頬をすべった美しい涙は、まるでドラマのワンシーンのよう。テレビの中の役者顔負けの真剣な表情で、オレは彼を抱き寄せる。寄せた唇、勢い余って歯をぶつけてしまったのは、なるほどご愛敬である。オレの恥ずかしさなど、彼の笑顔に比べたらなんでもないものだ。
ちょっぴりかしこまったあと、改めて目を瞑った進くんは、たぶんいまこの世界でいちばんかわいらしい。そういうことを考えながら、オレはかわいいかわいい彼の唇にそっと口付けた。
了
ーーーーーーーーー
考えるな感じてほしいし主進しあわせになってほしい
恋愛未満な二人が書きたかったのに勝手にイチャコラはじめおって!
例えば、ドラマの中で登場人物が涙を流すシーン。目尻からスッと一筋涙が流れて、旬の役者がぽろぽろと零す涙はまるで宝石のよう。オレにとって、他人が涙を流すシーンというのはそういうものだった。だから、目の前で嗚咽を漏らすその人に、オレは気の利いた一言すらも出てこない。
進くんが、泣いている。野球部の後輩である彼と、一緒になってこっそり居残り練習をした帰りであった。あまりに驚いて、オレは直前のやり取りすら思い出せない。それでも、オレのせいで彼がこんなになってしまっていることだけは分かった。ぼろぼろと零れる雫が、彼のユニフォームを濡らしていく。流れる涙を拭って、彼が目蓋をぐいぐい擦るものだから、目元はすっかり腫れてしまっていた。
「どうして、兄さんじゃなくて、僕のことが好きなんて、言うんですか」
嗚咽に紛れて、そんなことを言う。オレは本当に困ってしまって、何度同じことを尋ねられても同じことしか答えられない。悲しいというよりは、怒っているようなニュアンスで、彼は何度も尋ねる。会話は平行線だ。
「きみと猪狩を比べたことがないから、分からないよ」
そう言うと、ようやく収まってきた嗚咽がまた大きくなって、とうとう彼は堰を切ったようにわんわん泣き出してしまった。いつも朗らかに微笑んでいる聡明な彼が、鼻の頭を真っ赤にして、まるで子供のようだった。
「僕のこと、嫌いになったでしょう」
「まさか」
少し落ち着いたあと、ふて腐れたようにしながらぐずぐずと鼻を鳴らす彼は、本当に子供のようだった。一度も見たことのないその表情はあどけなくて、かわいらしかった。持っていたタオルを差し出すと、彼は素直に受け取って、しかし顔を埋めるようにして動かなくなってしまった。
「恥ずかしい、見ないでください」
「まあ、いいじゃないか。こんな日だって」
「いやだ、見ないで」
「進くん、あんな顔もするんだね」
「お願いです、忘れてください」
「忘れられるわけないよ」
「ごめんなさい、こんなみっともない」
「みっともなくはないけど、オレの前だけにしといてね。もったいないから」
「もったいない?」
「うん。それに、あんな顔を見たら、みんなきみのことが好きになっちゃう」
「そんな物好きな人、いません」
「ここにいるけど」
そう言うと、進くんはようやくタオルに押し付けていた顔を上げてくれるのだった。泣き腫らしたその顔は今までに見たこともない表情で、オレは笑った。
「ひどい。笑いましたね」
「ごめん、つい」
「ひどいです」
「ねえ。聞くけどさ。進くんのどの辺が、猪狩に似てるの?」
「え」
「進くんは、自分のどこが猪狩に似てると思うの」
「顔、とか」
「猪狩のそんな顔、見たことないけど」
「そういうことじゃないです」
「あとは?」
「野球、してる、ところとか」
「じゃあオレもじゃん。オレも野球してるから、猪狩に似てるってことになるけど」
「だからそういうことじゃないです。違います」
「違わないよ」
きょとんとしている彼の鼻の頭をつまんで、オレは呼び掛けた。
「進くん」
「……」
「進くん」
「はい」
「うん。進くんだ」
鼻をつままれた進くんは、不本意そうに眉をしかめて、そのあとで困ったような顔で笑ってくれた。ほろり、最後に一筋だけ頬をすべった美しい涙は、まるでドラマのワンシーンのよう。テレビの中の役者顔負けの真剣な表情で、オレは彼を抱き寄せる。寄せた唇、勢い余って歯をぶつけてしまったのは、なるほどご愛敬である。オレの恥ずかしさなど、彼の笑顔に比べたらなんでもないものだ。
ちょっぴりかしこまったあと、改めて目を瞑った進くんは、たぶんいまこの世界でいちばんかわいらしい。そういうことを考えながら、オレはかわいいかわいい彼の唇にそっと口付けた。
了
ーーーーーーーーー
考えるな感じてほしいし主進しあわせになってほしい
恋愛未満な二人が書きたかったのに勝手にイチャコラはじめおって!
PR

