ぜんぶ食べるまで
ぜんぶ食べるまで
とんでもないことになった。
想像もしていなかった不測の自体に、猪狩進は頭も身体もすっかり停止してしまって、固まっていた。やけに鼻につく、焦げ付いた甘い匂い。オーブンから取り出したケーキは、見事に爆発していた。チョコレートケーキだったため、より臨場感のある爆ぜ方をしている。まるで爆弾が飛び散ったかのような有り様だ。
「ど、どうしよう……」
頭の回転が早く聡い進は、普段であれば大抵の困難は機転を利かせて乗り越えてきたが、よもや制作していたチョコレートケーキが爆発するとは思いもせず、動揺していた。キッチンの周りをうろうろと歩き回る。料理は自分の得意分野であり、そもそも先週練習として作った分は、完璧に近いものが出来ていたのだ。それが、どうしてこうなった。
もうもうと黒い煙まで出して爆ぜているそれを見ながら、進はかつての兄が自らの髪をアフロヘアーに弾けさせていたときのことを思い出していた。あれも見事に爆発していた。いや、こんなことを考えている場合ではない。一刻も早く、焼き直さなければ間に合わない。今日は大切な彼と、約束をしているのだ。
「もしもし、進くん?」
「あの、パワプロさん」
ひったくるように携帯を掴み、約束の時間をずらして貰えないかと進は頼むつもりだった。随分と機嫌の良さそうな彼が、そう言うまでは。
「丁度よかった!実はオレ、楽しみすぎてかなり早く着いちゃったんだよ。今ね、進くんちのマンションの下」
「え!?」
窓に寄りカーテンを開けると、眼下で嬉しそうにこちらに手を振る彼の姿が見て取れた。今日は天気が悪く氷点下まで冷え込むこともあると天気予報は告げていた。そんな寒空の下、にこにこと微笑む恋人に帰れなどと言えるはずもなく、進は観念して彼を自室に招き入れた。
「あの、本当に、ごめんなさい」
「いや、オレこそ早く来ちゃってごめんね。ケーキ爆発したって言ってたけど、怪我とかしなかった?」
静かに頷く。事情を話した進はしきりにごめんなさいと繰り返して、付けたまま外すのも忘れていたエプロンの裾を握りしめた。自分の誕生日を祝いに来てくれる彼のために、とびきり美味しいケーキを用意しておくつもりだったのに、不甲斐ない。優しくされればされるほど、進はどうしたら良いのか分からなくなって、キッチンの隅で小さくなっていた。下ごしらえは昨晩すべて済ませておいたご馳走の用意も、この後しなければならないのに。
「あのさ、これ食べてもいい?」
「だ、ダメですよ、こんなの。まずいですから!」
「うん、真ん中のところはそんなに焦げてないし、美味しいよ」
彼は優しい。いつも通り底抜けに優しい彼の笑顔に力が抜けて、進はようやく落ち着いてきた。あとで無事なところを食べるから捨てちゃだめだよと何度も言い含める彼に、進は素直に頷いて少しだけ笑った。
「あ、そうだ!オレも進くんに、バレンタインのチョコレートと、誕生日にワイン買ってきたんだ。ふふ、ちょっと奮発しちゃったから、楽しみにしててよ」
進が精一杯の笑顔で応えてみせると、彼は進の髪をくしゃりとかき混ぜて、また笑った。
「誕生日にも頑張り屋さんの進くんには、オレが今日一日めいっぱい甘やかしてあげるから、覚悟してて」
「ふふ、なんですか、それ」
「なんでもいうこと聞いてあげるよ」
「ほんとうに?」
「うん」
「なんでも?」
「うん」
「じゃあ、チョコレート食べさせてください」
彼の持ってきたチョコレートの包みを指差して、進は言う。そんなことでいいのと瞳で問う彼に進はゆっくり頷いて、きれいな包装紙が剥がされていくのを黙って見つめていた。いかにも高級そうなその一粒を摘み、彼が進の口元に持っていく。あーん、と言って口を開けた進はしかし、その手を取ってそのまま彼の口の中にチョコレートを入れてしまった。
「オレが食べたら……ん」
少しだけ背伸びをして、ちょこんと唇を合わせた進は、彼の瞳を静かに見つめ返した。ようやく合点がいったらしい彼に腰を抱き寄せられ、進はうっとりと目を閉じる。それはこちらの好みに合わせたビターチョコレートで、甘い甘いそれに進はくすくすと笑った。
「もう、食べさせてくれないんですか?」
首の後ろに手を回して、催促する。チョコレートをねだったのに、降ってきたのは柔らかい彼の唇と温かな包容だった。進は心から満足して、幸せを噛み締めながらチョコレートを飲み込んだ。
「進くん、誕生日おめでとう!」
了
ーーーーーーーーーーーーー
Happy birthday & Valentine´s day!
久しぶりに進くんおたおめバレンタイン書けて嬉しい〜!!!おめでとう〜!!!
進くん幸せであってくれ
とんでもないことになった。
想像もしていなかった不測の自体に、猪狩進は頭も身体もすっかり停止してしまって、固まっていた。やけに鼻につく、焦げ付いた甘い匂い。オーブンから取り出したケーキは、見事に爆発していた。チョコレートケーキだったため、より臨場感のある爆ぜ方をしている。まるで爆弾が飛び散ったかのような有り様だ。
「ど、どうしよう……」
頭の回転が早く聡い進は、普段であれば大抵の困難は機転を利かせて乗り越えてきたが、よもや制作していたチョコレートケーキが爆発するとは思いもせず、動揺していた。キッチンの周りをうろうろと歩き回る。料理は自分の得意分野であり、そもそも先週練習として作った分は、完璧に近いものが出来ていたのだ。それが、どうしてこうなった。
もうもうと黒い煙まで出して爆ぜているそれを見ながら、進はかつての兄が自らの髪をアフロヘアーに弾けさせていたときのことを思い出していた。あれも見事に爆発していた。いや、こんなことを考えている場合ではない。一刻も早く、焼き直さなければ間に合わない。今日は大切な彼と、約束をしているのだ。
「もしもし、進くん?」
「あの、パワプロさん」
ひったくるように携帯を掴み、約束の時間をずらして貰えないかと進は頼むつもりだった。随分と機嫌の良さそうな彼が、そう言うまでは。
「丁度よかった!実はオレ、楽しみすぎてかなり早く着いちゃったんだよ。今ね、進くんちのマンションの下」
「え!?」
窓に寄りカーテンを開けると、眼下で嬉しそうにこちらに手を振る彼の姿が見て取れた。今日は天気が悪く氷点下まで冷え込むこともあると天気予報は告げていた。そんな寒空の下、にこにこと微笑む恋人に帰れなどと言えるはずもなく、進は観念して彼を自室に招き入れた。
「あの、本当に、ごめんなさい」
「いや、オレこそ早く来ちゃってごめんね。ケーキ爆発したって言ってたけど、怪我とかしなかった?」
静かに頷く。事情を話した進はしきりにごめんなさいと繰り返して、付けたまま外すのも忘れていたエプロンの裾を握りしめた。自分の誕生日を祝いに来てくれる彼のために、とびきり美味しいケーキを用意しておくつもりだったのに、不甲斐ない。優しくされればされるほど、進はどうしたら良いのか分からなくなって、キッチンの隅で小さくなっていた。下ごしらえは昨晩すべて済ませておいたご馳走の用意も、この後しなければならないのに。
「あのさ、これ食べてもいい?」
「だ、ダメですよ、こんなの。まずいですから!」
「うん、真ん中のところはそんなに焦げてないし、美味しいよ」
彼は優しい。いつも通り底抜けに優しい彼の笑顔に力が抜けて、進はようやく落ち着いてきた。あとで無事なところを食べるから捨てちゃだめだよと何度も言い含める彼に、進は素直に頷いて少しだけ笑った。
「あ、そうだ!オレも進くんに、バレンタインのチョコレートと、誕生日にワイン買ってきたんだ。ふふ、ちょっと奮発しちゃったから、楽しみにしててよ」
進が精一杯の笑顔で応えてみせると、彼は進の髪をくしゃりとかき混ぜて、また笑った。
「誕生日にも頑張り屋さんの進くんには、オレが今日一日めいっぱい甘やかしてあげるから、覚悟してて」
「ふふ、なんですか、それ」
「なんでもいうこと聞いてあげるよ」
「ほんとうに?」
「うん」
「なんでも?」
「うん」
「じゃあ、チョコレート食べさせてください」
彼の持ってきたチョコレートの包みを指差して、進は言う。そんなことでいいのと瞳で問う彼に進はゆっくり頷いて、きれいな包装紙が剥がされていくのを黙って見つめていた。いかにも高級そうなその一粒を摘み、彼が進の口元に持っていく。あーん、と言って口を開けた進はしかし、その手を取ってそのまま彼の口の中にチョコレートを入れてしまった。
「オレが食べたら……ん」
少しだけ背伸びをして、ちょこんと唇を合わせた進は、彼の瞳を静かに見つめ返した。ようやく合点がいったらしい彼に腰を抱き寄せられ、進はうっとりと目を閉じる。それはこちらの好みに合わせたビターチョコレートで、甘い甘いそれに進はくすくすと笑った。
「もう、食べさせてくれないんですか?」
首の後ろに手を回して、催促する。チョコレートをねだったのに、降ってきたのは柔らかい彼の唇と温かな包容だった。進は心から満足して、幸せを噛み締めながらチョコレートを飲み込んだ。
「進くん、誕生日おめでとう!」
了
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Happy birthday & Valentine´s day!
久しぶりに進くんおたおめバレンタイン書けて嬉しい〜!!!おめでとう〜!!!
進くん幸せであってくれ
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