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フェイス

フェイス (主人公←進)

 顔だと思う。目の前の、いつもの光景を眺めながら、進は思ってもいないことをわざと考えるようにしていた。いつもの光景というのはつまり、チームメイト同士の小競り合い、もっと正確に言えば自分の兄と、先輩との言い争いであった。あまりに日常の光景であるため、もはや気に留める者は誰もいない。練習が終わり、各々後片付けをしながら引き上げている。
 兄と先輩…パワプロさんは、顔を合わせるたびにこんな調子であった。これが猪狩カイザースの一軍選手、ひいては進が目にするあまりにいつも通りの日常であった。監督やコーチすらも、二人のやり取りに関しては触れなくなって久しい。もっともそれは、兄がこのチームのオーナーを父に持つことも原因の一端かもしれなかった。無論それは、自分もそうなのだが。
「キミ、なんだいこの前の試合は。あんなのでプロを名乗っているなんて、恥ずかしくないのかい」
「何言ってんだよ、猪狩お前だってなあ」
 相変わらず二人は仲良くじゃれ合いながら練習をしている。他の選手がみな引き上げてしまった後、二人きりで行う自主練習であった。こんなところにいて、もしも見つかってしまえば、打席勝負をするからミットを構えてくれないか、などと言われかねない。そうは思うのに、進の足はどうにも動かないのだった。進は、兄と仲良く喧嘩をしている、その先輩に仄かな恋心を寄せていた。
 よく飽きないなあ。そうは思いながらも、人の気持ちや機微に聡い進には、よく分かっていた。二人は別に、罵り合って喧嘩をするのが目的ではない。練習もその理由のひとつかもしれないが、要するに一緒にいられればなんだっていいのだ。そう、兄と先輩はとても仲が良い。それは、進が二人を見るようになってから今日までずっと、変わらない。
 先輩はきっと、兄の顔が好きなのだろう。この頃の進は、そんなことばかり考えている。自分と兄の違うところ、性格、言動、趣味、野球のポジション、食べ物の好き嫌い、他にも違うところばかりだ。同じところは、思い人、そして、顔。兄と自分の顔は、よく似ていると思う。幼少期の頃には、双子に間違われることすらあった。二つ歳の離れた兄は、幼い頃は他の子供と比べても小柄だった。
 ねえ、先輩。僕、学生時代は猪狩二号って呼ばれてたんです。二号でいいから、僕とも付き合ってもらえませんか?
 馬鹿げている。そんなことを言う人間を先輩が相手にするはずもなくて、進は思わず笑ってしまった。そのせいで、とうとう進がここにいることが二人にもバレてしまった。
「なんだ進。まだ残ってたのか」
「そうだ進くん、もしよければキャッチャーやってもらえない?」
「キミがボクに勝てるはずがないけどね。まあ、暇つぶしに勝負してあげてもいいよ」
「なに言ってんだよ、この前はオレに負けたくせに」
「覚えてないな」
 相変わらず賑やかしい二人に、進はにっこり笑って近付いた。その顔は、兄とは似ても似つかぬものであることを、よく分かっていた。




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みんな主人公のことが大好き

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