メロンソーダは知っている
メロンソーダは知っている(主人公×猪狩進)
「進くん。オレと付き合ってくれないかな」
映画館の帰り道。隣を歩くパワプロさんがそう言った。ちらり、腕時計を確認する。時刻はまもなく日が暮れる頃で、なるほどいつもならこの辺りで解散する頃合いだった。彼は、真面目な人なのだ。遅い時間に、後輩である自分を付き合わせることを悪いと思っているのだろう。
彼は僕の先輩で、兄の同級生であった。野球をきっかけに親しくなり、時々バッティングセンターに行ったり、時には息抜きにゲームセンターで遊んだり、今日は初めて一緒に映画館に行った。
パワプロさんと一緒にいるのは楽しい。彼は気さくで話しやすくて、その人柄をそのまま体現したようなおおらかさと優しさを持ち合わせていた。普段、他人に全く興味を示さない兄が、彼といるときだけはムキになったり笑ったり、楽しそうにしているのもなるほど納得のいくことだった。彼は、僕にも兄にも等しく優しい。
「いいですよ。どこに行くんですか?あ、この前新しいグラブが気になるって言ってましたから、それですか?」
「進くん、その、違うんだ。そうじゃなくって…」
珍しく困っているらしいパワプロさんは、どうにもいつもと様子が違う。その顔が赤いのは、どうやら夕焼けのせいだけではなさそうだ。パワプロさんは、うーだとかあーだとか、何やらずいぶん言い淀んで逡巡している。
その様子を見て僕は、ようやく気が付いたのだった。でも、まさか。そんなことがあるわけない。そんな風に期待してしまうのは、僕が彼のことを好きだから。そうに違いないのだ。
じっと彼を見つめると、パワプロさんは僕の方に向き直って、はっきりとした声で言った。
「ごめん、オレの言い方が悪くて。オレ、進くんのことが好きなんだ。オレと、付き合ってください」
本当に驚いたとき、嬉しいとき、人は声が出なくなるものなのだと、僕はそのときに初めて知った。嘘みたいだ。いや、夢みたいだ。まさか、こんな日が来るなんて、これっぽっちも想像したことがなかった。頭の中が混乱している。そのせいで、僕は彼の返事をするよりも先に、言わなくてもいい余計なことを口にしてしまうのだった。
「だって、パワプロさん、兄さんのことが好きなんだと…思ってました。兄さんの話ばっかりするし…」
「それは、なんていうか、口実っていうかさ…猪狩の話を出せば、進くんに話しかけやすかったから。うわ、オレいまめちゃくちゃ恥ずかしい」
嬉しさが、胸いっぱいに弾けるような感覚を覚えていた。今までのあれも、それも、これも、兄さんのことが好きだと思っていた彼の行動が全部、実は僕のことが好きだったから、なんて。
「わ、進くん」
今の気持ちを言葉にすることがどうしても出来なくて、僕はパワプロさんに抱きついていた。ずっと我慢していた。僕のものにしたかった。僕のことを好きになってほしかった。それがいま、こうして手が届くところにその人はいるのだ。
パワプロさんの腕が背中に回されて、僕は静かに顔を上げた。瞼を下ろすと、そっと唇が重なった。一瞬のようで、僕にとっては永遠のようなひととき。目を開けると、触れ合うほど近くに彼がいた。
「進くん」
返事は彼の唇に、今度は僕からキスをした。そこはほんのり甘くて、さっきまで彼が映画館で飲んでいたメロンソーダの味に違いないと、僕はこっそり笑った。
了
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主進しあわせになってくれ
「進くん。オレと付き合ってくれないかな」
映画館の帰り道。隣を歩くパワプロさんがそう言った。ちらり、腕時計を確認する。時刻はまもなく日が暮れる頃で、なるほどいつもならこの辺りで解散する頃合いだった。彼は、真面目な人なのだ。遅い時間に、後輩である自分を付き合わせることを悪いと思っているのだろう。
彼は僕の先輩で、兄の同級生であった。野球をきっかけに親しくなり、時々バッティングセンターに行ったり、時には息抜きにゲームセンターで遊んだり、今日は初めて一緒に映画館に行った。
パワプロさんと一緒にいるのは楽しい。彼は気さくで話しやすくて、その人柄をそのまま体現したようなおおらかさと優しさを持ち合わせていた。普段、他人に全く興味を示さない兄が、彼といるときだけはムキになったり笑ったり、楽しそうにしているのもなるほど納得のいくことだった。彼は、僕にも兄にも等しく優しい。
「いいですよ。どこに行くんですか?あ、この前新しいグラブが気になるって言ってましたから、それですか?」
「進くん、その、違うんだ。そうじゃなくって…」
珍しく困っているらしいパワプロさんは、どうにもいつもと様子が違う。その顔が赤いのは、どうやら夕焼けのせいだけではなさそうだ。パワプロさんは、うーだとかあーだとか、何やらずいぶん言い淀んで逡巡している。
その様子を見て僕は、ようやく気が付いたのだった。でも、まさか。そんなことがあるわけない。そんな風に期待してしまうのは、僕が彼のことを好きだから。そうに違いないのだ。
じっと彼を見つめると、パワプロさんは僕の方に向き直って、はっきりとした声で言った。
「ごめん、オレの言い方が悪くて。オレ、進くんのことが好きなんだ。オレと、付き合ってください」
本当に驚いたとき、嬉しいとき、人は声が出なくなるものなのだと、僕はそのときに初めて知った。嘘みたいだ。いや、夢みたいだ。まさか、こんな日が来るなんて、これっぽっちも想像したことがなかった。頭の中が混乱している。そのせいで、僕は彼の返事をするよりも先に、言わなくてもいい余計なことを口にしてしまうのだった。
「だって、パワプロさん、兄さんのことが好きなんだと…思ってました。兄さんの話ばっかりするし…」
「それは、なんていうか、口実っていうかさ…猪狩の話を出せば、進くんに話しかけやすかったから。うわ、オレいまめちゃくちゃ恥ずかしい」
嬉しさが、胸いっぱいに弾けるような感覚を覚えていた。今までのあれも、それも、これも、兄さんのことが好きだと思っていた彼の行動が全部、実は僕のことが好きだったから、なんて。
「わ、進くん」
今の気持ちを言葉にすることがどうしても出来なくて、僕はパワプロさんに抱きついていた。ずっと我慢していた。僕のものにしたかった。僕のことを好きになってほしかった。それがいま、こうして手が届くところにその人はいるのだ。
パワプロさんの腕が背中に回されて、僕は静かに顔を上げた。瞼を下ろすと、そっと唇が重なった。一瞬のようで、僕にとっては永遠のようなひととき。目を開けると、触れ合うほど近くに彼がいた。
「進くん」
返事は彼の唇に、今度は僕からキスをした。そこはほんのり甘くて、さっきまで彼が映画館で飲んでいたメロンソーダの味に違いないと、僕はこっそり笑った。
了
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主進しあわせになってくれ
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