ねがいごと
ねがいごと(猪狩守)
弟が交通事故に遭ったのは、今から一週間ほど前のことだ。日にちの感覚が曖昧になっていて、いまいち判然としない。マナーモードにしていた携帯電話がポケットの中で震えて、見慣れない番号に首を傾げながら受話器ボタンを押した。確かに音は聞こえて来るのに、意味はよく理解出来なかった。振り仰いだ空が目に染みるほど青い。雲一つない快晴。よく晴れたある夏の日、進はトラックに轢かれた。
意識不明の重体であると告げられ、自分が病院に駆けつけた時にはもう、弟は集中治療室に入っていた。遅れて父と母もやって来たが、何を話してどんなやり取りをしたのかよく覚えていない。弟とは、今朝も普通に会って会話を交わした。それは覚えている。他愛のない話、進は笑っていて、あまりにいつも通り、普段通りの朝だった。それが、どうして。常ならば部活動でも顔を合わせるが、今日は監督が休みであるという理由から部活動は休みになっていた。進は買い物に出掛けると言っていた。兄さんも一緒にどうですか?いやいい、ボクはトレーニングがてらランニングしながら帰ることにするよ。あのとき、進の誘いに乗っていたら。そもそも部活動が休みになっていなければ。無数に湧く「もしも」が泡のように湧いては消えていく。
「兄さん、心配掛けて本当にごめんなさい」
そうやって笑う弟を見たのは、それから幾日も経ったあとのことだ。意識を取り戻してからの進の回復力にはめざましいものがあった。今では一般の病棟に移り、一人で身体を起こして話が出来るまでになっていた。笑う進に、黙っている自分。掛けられる言葉などあるはずもない。命は助かった。命だけは。
進はもう、野球が出来ない。医者がそう言うのだから、たぶんそうなんだろう。
今まで生きてきて、神さまに何かを願ったことなどない。一度もない。願いとは、自分の力で叶えるものだからだ。だからこれは、生まれて初めてする、ボクの一生のお願い。神さま、ボクの弟から野球を取らないでください。
進が病院からいなくなったのは、その次の日のことだ。
ーーーーーーーーー
♪今日は七夕なので短冊に吊るすお願いごとのつもりで書きました♪
そして出来上がったのがこちらになります
(進くんの交通事故話書きすぎ)
弟が交通事故に遭ったのは、今から一週間ほど前のことだ。日にちの感覚が曖昧になっていて、いまいち判然としない。マナーモードにしていた携帯電話がポケットの中で震えて、見慣れない番号に首を傾げながら受話器ボタンを押した。確かに音は聞こえて来るのに、意味はよく理解出来なかった。振り仰いだ空が目に染みるほど青い。雲一つない快晴。よく晴れたある夏の日、進はトラックに轢かれた。
意識不明の重体であると告げられ、自分が病院に駆けつけた時にはもう、弟は集中治療室に入っていた。遅れて父と母もやって来たが、何を話してどんなやり取りをしたのかよく覚えていない。弟とは、今朝も普通に会って会話を交わした。それは覚えている。他愛のない話、進は笑っていて、あまりにいつも通り、普段通りの朝だった。それが、どうして。常ならば部活動でも顔を合わせるが、今日は監督が休みであるという理由から部活動は休みになっていた。進は買い物に出掛けると言っていた。兄さんも一緒にどうですか?いやいい、ボクはトレーニングがてらランニングしながら帰ることにするよ。あのとき、進の誘いに乗っていたら。そもそも部活動が休みになっていなければ。無数に湧く「もしも」が泡のように湧いては消えていく。
「兄さん、心配掛けて本当にごめんなさい」
そうやって笑う弟を見たのは、それから幾日も経ったあとのことだ。意識を取り戻してからの進の回復力にはめざましいものがあった。今では一般の病棟に移り、一人で身体を起こして話が出来るまでになっていた。笑う進に、黙っている自分。掛けられる言葉などあるはずもない。命は助かった。命だけは。
進はもう、野球が出来ない。医者がそう言うのだから、たぶんそうなんだろう。
今まで生きてきて、神さまに何かを願ったことなどない。一度もない。願いとは、自分の力で叶えるものだからだ。だからこれは、生まれて初めてする、ボクの一生のお願い。神さま、ボクの弟から野球を取らないでください。
進が病院からいなくなったのは、その次の日のことだ。
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♪今日は七夕なので短冊に吊るすお願いごとのつもりで書きました♪
そして出来上がったのがこちらになります
(進くんの交通事故話書きすぎ)
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