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夢のおわりははじまりの鐘

10カイザース/主友


「パワプロさん。これ、お返しします」

そう言って友沢がオレに差し出したのは、ひとつのグラブだった。それはずいぶんとくたびれていて、はっきり言ってしまえばもう使えないだろうと思うほどぼろぼろのものだった。自分の方へ差し出されたグラブと友沢の顔を見比べる。友沢は眉のひとつも動かさずにオレを見ていた。そのまま思わず受け取ってしまったが、正直何も思い当たることはなく、オレは首をかしげた。

そもそも、友沢にこうして話しかけられたこと自体が初めてなのである。オレはこの頃ようやく調子を上げてきたプロ野球選手で、友沢はつい最近同じチームに入団してきた期待の大型ルーキーであった。今までに面識もなければ、あいさつ以上の話をしたこともない。
しかし、わざわざオレの自主練が終わるのを待ち構えていたかのように現れた友沢には、明らかに何か意図があるように思えた。そんなことを考えながら相変わらず首をかしげたままのオレに、友沢は焦れたように、そして半ばあきれたように口を開いた。

「まさか、なんにも覚えてないんですか?」

はあ、としらじらしく溜息をついた友沢はオレの顔をまじまじと眺めたあとにグラブを指さした。

「それ、昔あんたがオレにくれたんですよ」

そう言うと友沢は再び黙ってしまい、じっとオレの顔を眺めた。その仕草に何か記憶の端に引っ掛かるものを感じたが、しかしオレはそれ以上何も思い出すことができなかった。
どうやら友沢はオレのことを知っているようで、知っているどころかオレが渡したらしいグラブを返しにきたという。
オレは困り果てて、手の中にあるグラブに目を落とした。ずいぶんとくたびれたそれは、ぼろぼろではあるもののしっかりと手入れがされていて、何度も修復をしながら大切に使ってきたことが分かるものだった。思わずはめてしまったそれは驚くほど自分の手に馴染み、オレはグラブの感触を確かめるように何度も開けたり閉めたりを繰り返した。友沢はやっぱり黙ったままこちらを見ている。

「うーん…」
「あんたって人は…ほんとうに、何も覚えてないんですね」
「うん…悪いけど。人違いじゃない?」
「まさか。オレは、あんたにこれを返すために今日までやってきたんだ」
「そう言われても…確かに、このグラブはずいぶんオレの手に馴染むみたいだけど」
「友沢亮」
「え?」
「友沢亮。オレの名前」
「それはもちろん知ってるよ」
「…」
「…あっ?」

射抜くようにこちらを見つめる友沢の瞳の色に、オレは、ここではないいつかどこかで同じ色を見たことを思い出していた。そうだ。あれはもう何年前の話だろう。公園で、一人の中学生に会った。野球をしていたその子とは、そのあとも何度か偶然鉢合わせすることがあった。そうだ、あれは確か…

「まさか、お前があのときの中学生なのか?」
「だからそうだって言ってるでしょ。思い出すの遅すぎですよ」
「友沢…そうだ、友沢!お前、プロになったのか!」

ようやくすべてを思い出したオレは、嬉しさのあまりぐしゃぐしゃと掻き混ぜるように友沢の頭を撫でまわしたのだが、当の本人はそれが気に入らないようで、うっとうしそうな顔をしていやがるような素振りをしてみせた。しかしそれだけで、実際にオレの手を振りほどいたりやめるように言うことはなかった。すべてを思い出したオレは満面の笑みで友沢に声を掛ける。

「プロ入りおめでとう!オレは、お前なら絶対大丈夫だって、あのときから信じてたよ!」
「…うす」
「しっかし、まさか同じチームになるとはなあ!あのときの中学生と!」

どうやら照れているらしい友沢は、明後日の方を向いたまましきりにそわそわと視線を泳がせた。その様子を見ていれば見ているほど、オレの頭には数年前の記憶が鮮明に蘇ってくるのだった。
とんでもない野球センスを持っているにも関わらず、あの日偶然スポーツ用品店で再会した友沢は、もう野球をやめるとオレに言ったのだ。今でも詳しいことは分からない、しかし、家の事情でもう続けられないと確かに言っていた。野球は、金がかかる。だから、やめるのだと。そのときに、オレはふたつ持っていたグラブのうちのひとつを友沢に手渡したのだ。間違いない、はっきりと思い出した。

「でも、これはオレがお前にあげたものなんだから、べつに返してくれなくても…」
「あんたはあの日、グラブを受け取らないオレにこう言ったんだ。グラブをあげる代わりに自分の学校を応援してほしい、自分を応援するのと交換にこれをくれるって。きっと甲子園に行くから、その応援をしてほしいって」
「ああ、そういえば、そんなことを言ったような…」
「でもオレはもう、あんたを応援することは出来ないから」
「…どういうことだ?」
「オレは今まであんたを応援することしか出来なかった。でも、これからは違う」
「?」
「オレはプロになった。これからオレは、やっとあんたと同じところで野球ができる。…オレたちはもう、ライバルだから」

もうオレにあんたの応援をすることはできないから、返します。

そう言う友沢の目は、確かにオレを挑発していた。自分はオレと肩を並べて競い合うライバルなのだと、堂々と宣告しているのだ。遠目から応援するのではなく、今後は切磋琢磨し合いながら競うライバルなのだと。
思わず笑み崩れてしまったオレに、友沢はびっくりしたように瞳を瞬かせた。

「ルーキーのくせに生意気ばっかり言いやがって、こうしてやる~!」
「わっ、ちょ、やめてくださいよ、大人げない!」

オレにくすぐられた友沢は、いやそうな顔をしながら笑うという器用な芸当を披露していたが、くすぐっているオレの方こそ笑えてきてしまって仕方がなかった。他に誰もいない室内演習場に二人分の笑い声が響く。
そうして散々笑い合ったあと、友沢は生意気そうな笑みを唇に乗せて言った。

「オレ、腹が減りました。先輩なんだからなんか奢ってください」
「ったく、もっと可愛げのある誘い方はできないのか?久しぶりに再会した先輩の話を聞きたいです!とかさ」
「寝言は寝てから言ってください」

そう言って振り返った友沢の顔があんまり優しく笑っているものだから、オレはたまらず、もう一度だけその頭を撫でた。ぽふぽふと何度か撫でると、友沢は今までに見たことのない複雑な顔をしていた。その口から、「子ども扱いするな」という批判の声が聞こえてくる前に、オレは何が食いたいかと友沢に尋ねるのだった。


―――――――――――――――――――――――
2011の、高校生の主人公が中学生の友沢にグラブを渡すというイベントにしこため夢を詰め込んだ結果
かわいすぎました

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いただいたメッセージのお返事になりますので、お心当たりのある方は追記よりどうぞ!
通販に関するお問い合わせも随時受け付けておりますので、お気軽にどうぞです^^



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通販のお知らせ

先日のスパコミでスペースまでお越しくださった方、ほんとうにありがとうございました!
たくさんの方にお手に取っていただき、とても嬉しかったです。
温かい言葉を掛けてくださった方、差し入れを持ってきてくださった方、嬉しさのあまり上手く言葉になりませんが心からの感謝を申し上げます。
もう、ほんと、ぱわぷろを好きになって良かった!

さて、今回もスパコミで発行した本の自家通販をいたします
ご興味のある方は追記よりご確認ください
よろしくお願いします^^


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サークル参加のお知らせ

4/28更新

2014年5月3日 SUPER COMIC CITY23への参加について
当日のおしながきとお知らせになります~!

▼場所/東6 み31a
▼サークル名/ブルーアイズサウスポー ※合同サークルでの参加となります

▼おしながき
①新刊『きらきら』
オフセット本/A5/28P/¥200
・猪狩守と主人公♀(白薔薇かしまし)、主人公♂(パワフル高校)と猪狩守の話
・文章を私が、イラスト・まんがを平酢さんが担当しています


②既刊『八月の風』
オフセット本/A5/42P/¥200
・昨年発行した野球マスクの本です


 

今年は合同サークルでの参加です、よろしくお願いします!
猛走こっぺぱんっの平酢さんとご一緒させていただきます^^

主人公と猪狩守が大好きすぎるあまりとうとうやってしまいました
ポタ4白薔薇かしましのパワ子ちゃんといつもの高校生パワプロくんを書きました
CP要素は薄め?で、少なくともホモ描写はない気がするので、老若男女のみなさまが安心してお手に取っていただける仕様です

無料配布等々なにか用意できればと思っていますが…どうなるでしょう
当日スペースでお会いできるのを楽しみにしております♡

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邪険にしないで

なんとなく守さんっぽいなあと思いながら聞いていたうたが守さんに直して脳内再生してみたところ思いがけずとても守さんだったので興奮した、という話をします
そのままです
元は方言をふんだんに使ったチャーミングなうたなのですが、あまりにかわいかったので守さんにしてしまいました

守語に直した歌詞を勝手に置いていきます
個人で楽しむ範囲のことです、よろしくお願いします
ぽるのぐらふぃてぃ、「邪険にしないで」
とてもかわいくて優しいうたなので、機会があればぜひ一度聞いてみてくださいね



うまく言えたらいいんだが なにか言ったらキミが
そんなにプンスカ怒るから ボクもいい気がしないよ

時が経っても経たなくても どうでも 変わらないものだってあるだろう
寄せる波は途切れないだろうし
夏にはみかんが香るだろう

好きか嫌いかで言ったら好きさ
大事かどうかで言ったら大事
キミがいなくなったら まあ さみしいかもしれない
ボクの気持ちが分からないというのか
いつもキミの名前を呼ぶときには
その後ろにハートマーク そっと付けているんだが 分からないか

こんなに近くにいたのに気付かないこともある
こんなに近くにいればこそ分からないこともある

離れていてもどうしているのか気になって
だからと言って電話するのはつまらないし
少しは気のきいたところをみせて メールでもしてこないか

好きか嫌いかで言ったら好きさ
大事かどうかで言ったら大事
キミがいなくなったら すごくさみしいかもしれない

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閑話休題

主守


テレビから流れる賑やかな音を聞きながら、オレはといえばテレビも見ずに猪狩のつむじを眺めていた。
当の猪狩はそんなオレのことなどどこ吹く風で、手元の本に一生懸命視線を落としている。その様子は、よくもまあそんなところで読書など出来るものだと感心してしまう程で、猪狩はオレの足の間に座り込んで本を読んでいる。オレの腕の中で猪狩は大人しく読書を楽しんでいるのだった。
時折頬を寄せてみたり手遊びで髪をいじってみたりするのだが、完全に無視されている。どうやら今日は本当に本が読みたい日らしい。

オレはソファでだらだらしながらテレビを見るのが好きだったが、そんなオレのところに気まぐれを起こした猪狩がやってくることがある。いつの間にか、この場所は猪狩の特等席になってしまった。
オレがテレビを眺めて、猪狩は黙って本を読んでいる。猪狩はあまりテレビを見ないのだった。何がそんなに気に入ったのか、猪狩はこんな狭苦しいところで本を読むのが好きらしい。

今日も猪狩は当たり前の顔をしてオレの足の間に収まっている。猪狩がこれをやるとき、オレには見極めなければならないことがあった。すなわち、猪狩が本当に本を読みたくてここにいるのか、そうではないのか、ということである。
後者の場合はつまり、簡単に言うとただ構ってほしいだけのときである。猪狩は昔からシャイなアンチクショーであるので、構ってほしいときほど分かりやすいアクションをとる傾向にある。

さて、と猪狩に視線を落とす。先ほどから様子を見ている限り、今日の猪狩に限っては本当に本が読みたいだけのようであった。オレの方には目もくれずに、熱心にページをめくっている。ちらりと内容に目を落とすと、なんとか理論だとか物理学的に野球を紐解く云々だのと意味不明な単語ばかりが並んでいた。猪狩は練習熱心なのに加え、こういった知識欲に関しても旺盛である。

猪狩の髪を撫でながら、オレは思いついたことを尋ねてみた。眺めているテレビは芸能人の恋バナで大層盛り上がっているところだ。

「なあ猪狩」
「……」
「なあ」
「なんだい」
「お前ってオレのどこが好きなの?」

聞かれた猪狩はどこ吹く風である。無視しているだけなのかもしれないし、単純に本の世界に没頭しているだけなのかもしれない。腕の中の猪狩を抱き直しながらオレはもう一度尋ねた。

「なんだい、キミは急に」
「お前ってオレのどこが好きなわけ」
「そんなことを聞いてどうするんだ」
「べつにどうもしないけど、聞きたいだけ」

猪狩は黙って本を読んでいる。催促する意味でぎゅうぎゅうと腕の力を強めると、猪狩はやれやれと言って大きな溜息をついてから口を開いた。オレは猪狩のつむじに顎を乗っけて遊んでいる。

「ボクは、キライな人間とは一緒にいないよ」
「そんなの分かってるけどさ。じゃあなに、お前ってオレの嫌いなとことかないの」
「だから、キライだったら一緒にいないと言っているだろ」

それってつまりさあ…
未だに手元から視線を上げようとしない猪狩からオレは本を取り上げた。放ると怒られるので、そっとソファの脇に置く。

「オレの全部が好きってことになっちゃうけど?」

猪狩は否定しない。猪狩は黙って態勢を入れ替えると、くるりとこちらに体を向けてオレの頬を掴んだ。利き手である左手でぎゅうと力を込められ、きっとオレは変な顔になっている。

「さっきからうるさいのはこの口か」
「なんらよいかり」
「キミは、ボクが本を読んでいるときくらい静かに出来ないのかい」
「いやだったら、黙らせてみる?」

言った時にはもう、猪狩の唇が重なっている。それは柔らかく吸い付いて、一度合わさるとすぐに離れていった。猪狩は本を拾い上げるとさっさと元の態勢に戻り、再び本に視線を落とした。

「もうすぐキリのいいところまで読み終わる」
「はいはい」

今日は一緒に風呂に入ることを勝手に決めたオレは、もう一度だけ猪狩の髪を撫でるのだった。


――――――――――――
あまくておいしいヤオイの季節になりました

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見てくださっている皆様へ、いつも本当にありがとうございます
さらりと言ってしまいますが、ほんとうに心から嬉しいです


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巡ること

主守

完全なるパラレルワールド
癖のある話のため、捏造偽造設定が苦手な方は閲覧を控えていただきますようお願い申し上げます






 僕の名前は、猪狩進という。少し長くなるが、記録としてここに残しておこうと思い立ち、このたび筆を取った次第である。

 これから話す出来事は、幼い頃兄が一匹の犬を拾ってきたところから始まる。
 僕自身の記憶が定かではないので、あれは兄が3つか4つのときのことだと思う。あの日の兄は、何の前触れもなく唐突に犬を拾ってきた。きょとんとしている使用人や僕を差し置いて、兄はただ「飼う」の一点張りで、小さな手をいっぱいに使って抱いた犬を決して離そうとはしなかった。

 当然反対した父と母は兄へやんわりと諭すように教え聞かせたが、兄は頑として主張を譲らなかった。今まで父や母に逆らったことのない兄があのような物言いをするのかと、僕は幼心に衝撃を受けたのを覚えている。静かに、それでも絶対に自分の主張を曲げずに兄は犬を手放さなかった。そうして、最終的に折れたのは両親の方だった。

 それから、犬は家族になった。拾ってきた兄が世話を焼くのはもちろん、僕や父と母、使用人にもよく懐いたその犬は皆からかわいがられていた。犬の名前はパワプロといった。兄が付けたのだ。どうしてその名前なのかと僕は尋ねたことがあったが、兄はとうとう犬が死ぬまでその理由を言わなかった。

 ある日、年をとった犬はとうとう弱って、安らかに死んでいった。寿命を全うしたのだ。朝、兄が様子を見に行ったときにはすでに冷たくなっていたという。その日のうちに、犬は庭に作られた墓へと埋められた。僕たちの家は一般的な家庭よりも裕福だったため、犬一匹の墓を庭に作ることくらい造作もないことであった。

 犬が死んだ日、兄はもちろん落ち込んでいたが、決して泣かなかった。犬が墓へ埋められるとき、兄は「大切な人の名前」だと言って、最後にもう一度だけその名前を呼んでいた。まだあどけなさが残る子供の顔にしては随分と感傷的な表情で、その横顔は僕の中に今でも印象深く残っている。

 兄は死んだ犬のことを引きずることもなく、普段通りに生活をしていた。そうしているうちに自然と時間は過ぎていき、そして、次に兄が興味を持ったのは犬ではなく鳥だった。ある日、父に連れられて行った得意先の社長の家にインコがいた。確かにかわいらしいとは思ったが、僕は別段それ以上の感情を覚えることはなかった。しかし、兄は違った。インコのいる鳥籠の前から一向に動こうとしなかったのである。
 「守、いい加減にしなさい」と父に厳しくたしなめられても、それでも兄はインコから視線を離さないまま、鳥籠の前から一歩たりとも動こうとしなかった。

 最終的に、インコは僕たちの家にやってきた。根負けした父が、取引先の社長に頼んだのである。社長は朗らかに笑って、そんなに気に入ってもらえたのならと言ってすんなりとインコを兄へ渡してくれた。そのときの兄がどれほど嬉しそうな顔をしていたか、僕は今でも鮮明に覚えている。

 インコは兄の部屋で飼育されることになった。その間、兄はインコに様々な言葉を教えていたようである。たまに僕も一緒になってインコと遊ぶことがあったが、そのインコは兄のことを名前ではなく苗字で呼んでいたのをよく覚えている。

 やがてインコも死に、その後も兄は様々な生き物を飼った。それはヘビだったこともあるし、金魚だったりもした。いずれも兄は大層かわいがっていたが、やがては死んでいった。そして、それらの名前は皆、あのときの犬と同じものだった。



 いつの日か、僕は兄から不思議な話を聞かされたことがある。兄曰く、「この世界とは違う場所にいた僕たちの話」なのだそうだ。

 兄の聞かせる話の中では、僕たちは野球をしていた。兄がピッチャー、僕がキャッチャーをしていて、「猪狩兄弟バッテリー」などと呼ばれていたそうだ。僕は今日まで野球などしたこともなければ興味もなく、その話はあまりに突拍子もないことだった。それに、兄自身も野球とは全く関わりのない生活をしている。僕たち兄弟は、幼い頃からずっと父の会社を継ぐための教育と訓練を受けてきたのだから、そのような暇は一切なかったとも言い換えられる。
 そうだと思っていたのに、野球の話をするときの兄の目はいつになく輝いていて、また野球に関する知識も深かった。兄の新しい一面を知り、僕は瞳を瞬かせたものだ。

「ああ、そうだ、ボクたちは野球をしていたんだ。進、お前もやっぱり忘れてしまったんだな。どういうわけか、これはボクしか覚えていないことらしい。ただ、あのとき一緒に野球をしていたチームメイトたちは、ボクたちのすぐ身近にいたりするんだ。不思議だろう?ボクにも理由は分からないが、きっと、そういう因果で結びつけられているのだと思う。最近、父の秘書になった蛇島さんは、進も知っているだろう?あの人とも、チームメイトだったんだよ。ああ、もちろん進も一緒だった。それから…」

 兄は次々と名前を挙げていき、それはたいてい僕も知っている人の名前ばかりだった。僕が何も言わないのをいいことに、兄はこんこんと話を続けている。向ける眼差しはどこか遠く、とても懐かしいものを見ているような優しい顔をしていた。

「それから、この前公園を散歩していたときに高校生に会っただろう」
「ああ、そういえば、そうでしたね。ボールが飛んできて…」
「あいつの名前は、友沢亮というんだ」
「兄さん、知り合いだったんですか?」
「いや。初めて会った。それでも、ボクはあいつのことを知っている」
「…」
「あいつは、やっぱり野球をしていたな。嬉しかったよ。あいつは、やはりそういう星の元に生まれていたということなのだろう」

 一人納得をしたらしい兄は、うんうんと頷いて上機嫌にマグカップを持ち上げた。しかし、一口だけコーヒーを飲んだ兄は、今まで話し込んでいたのが嘘のようにそれ以降は黙ってしまった。そんな兄の様子を眺めながら、僕は今までの話を聞いていて疑問に思ったことを口にした。

「兄さんも僕も、そんなに野球が好きだったのに、どうして今の僕たちは野球に無縁の生活をしているんでしょう」

 兄はちらりと視線を上げて僕を見つめると、コーヒーに追加の砂糖を加えながら静かに息を吐いた。兄は取り上げたスプーンでコーヒーを掻き交ぜながら何も話さない。その様子は、何かを考えているようにも、何も考えていないようにも見えた。そのうち、僕が焦れて兄を急かす前に、兄は再びぽつりぽつりと話し始めた。

「ボクはいつも、事故にだけは気を付けるように、進に言っているね」
「ええ、特にトラックには気を付けるようにと…」
「ボクの知っている進は、あの世界で交通事故に遭ったんだ」

 トラックに轢かれた進は、意識不明の重態ですぐに病院へ運ばれた。ボクの目の前で進は轢かれたんだ。ボクは何も出来ずに、救急車へ運ばれるお前を見ていることしか出来なかった…そう、あれは、ボクたちの通うあかつき大付属高校が甲子園まであと一歩という時のことだったな。幸い命を取り留めた進は、リハビリを頑張ったこともあってめきめきと回復していった。だが、お前の体はもう、野球が出来る状態ではなくなっていた…

 ぬるくなったコーヒーを一気に飲み干しながら兄は続けた。

 それでもお前は、野球がしたかったんだろう。いつの間にかお前は病院からいなくなっていたよ。嘘みたいな話かもしれないが、お前は野球をするために自分の身を売ったんだ。そういえば、この世界には存在していないな、お前を誘ったのはプロペラ団と名乗っている連中だった。やつらの経営する学校で野球をする代わりに、お前は事故で失った体の機能を治療してもらった。もっとも、最後に甲子園のマウンドに上がってから、二度と野球の出来ない体になってしまったんだがな…

 空っぽのカップの底を眺めながら兄は話すのをやめなかった。積年の降り積もった気持ちがこぼれ落ちているようにも見えた。

 とうとう選手としての道を絶たれた進は、スポーツドクターとして新しく歩み出したようだった。ようだった、というのは、あの世界の進にボクはひどく嫌われていてね。連絡を取ることもままならなかった。どうしてこんなことになったのか分からなかったボクには、どうすることも出来なかったんだ。一人のうのうとプロ野球選手になったボクが、やはり疎ましかったのかもしれない。ボクは最後までお前の本心を聞くことが出来なかったから、ただの憶測だけれどもね…

 いよいよ話すことが尽きたらしい兄は、ゆったりとした動作で窓の外を眺めた。何かを探しているような素振りでもあった。

「兄さん」
「なんだい」
「どうして、いま僕にそんな話をしたんですか」
「さあ、どうしてだろう。ただの気まぐれだろうな」
「ねえ、兄さん」
「なんだい」
「金魚、死にましたね」
「…」
「兄さんは、何かをずっと探しているんですね」
「どうしてそう思う?」
「そのくらい、見ていれば分かりますよ」
「そうか」
「“パワプロさん”ですか」
「…」
「兄さんの、とても大切な人だったんですね」
「あいつは嘘つきだ」
「嘘つき?」
「家族になろうと、そんなことを、このボクに言うだけ言って、死んだんだ」
「亡くなったんですか」
「トラックに轢かれてね」

 そのときの兄の顔を、僕は一生忘れることがないだろう。


 その後、兄が新しく生き物を飼うことはなかった。父の跡を継ぎ、ほどなくして結婚した兄にはそのような暇がなくなってしまったのかもしれない。兄が妻に迎えた人は、大変器量が良く様々なことに気が行き届く聡明な女性だった。しかしその幸せは長く続くことがなかった。元々病弱だったその人は、子を一人生むとその後すぐに亡くなってしまったのだった。
 子は一人。男子であった。兄は一人息子のその子を大層かわいがり、愛していた。しかし、兄の愛情表現は他人に比べてやや分かりにくいため、よく喧嘩もしていた。その度にその子は僕のところへ駆け寄ってきて、不平や不満を漏らしていったものだ。
まだ若い僕のことを「おじさん」と呼ぶことに抵抗があったらしいその子は、僕のことを「進くん」などと呼んで慕ってくれていた。
 そうして物語は、いよいよ終幕へと向かうわけなのだが、ここから先は僕が見聞きしたものではなく、ずっと後になって兄から聞かされた話である―――




「父さん!」
「なんだい騒々しい。キミはいつまで経ってもマナーというものを覚えないね。全く、一体いつになったら…」
「猪狩、お前、猪狩なのか!」
「…」
「本当に、猪狩なんだな」
「全部思い出したんなら、もっと他に言うことがあるだろう?」

 パワプロ。言うなり、パワプロはボクのことを思い切り抱きしめて、これ以上ないほど腕に力を込めた。その震える背に自身の腕を回しながら、ボクはひととき目を閉じる。

「家族になりたいと言って、ボクの子供になるやつがあるか、ばか。道理でいつまで経っても見つからないわけだよ」
「でも、犬になったり、鳥になったり、オレだって苦労したんだぜ」
「あれは、ボクが見つけてやったからだろう」
「猪狩、これで、やっと約束を果たせる」
「うん」
「オレはお前を一生一人にしない」
「どこかで聞いたセリフだな」
「待たせてごめん」
「うん…」

 顔を見合わせて二人笑ったが、泣き笑いのような変な顔で、お互いにそれを茶化しながらぼろぼろとよく泣いた。毎日のように見ているはずの見慣れた顔が急に懐かしく感じられ、ボクは目を細める。パワプロは言った。

「家族になろう」
「もうなっているよ」

 抱きしめた体には懐かしい陽だまりの匂いとほんの少しの汗臭さがあって、ボクはグラブはどこにしまってあっただろうかと、パワプロの顔を見ながら考えていた。

fin


――――――――――――――――
生まれ変わってもネタが好きすぎてこじらせた感満載
頭の中にずっとぼやぼやと漂っていたものが、大変素晴らしい作品を拝見したことで形が固まり書き上げるまでに至りました
二次創作最高
この広い世界ネタが被ることくらいあるさと思っていただけると幸いです
読んでくださって、ありがとう!

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140字のやつ2

某所でやっている140字のお題です


▼主守
『黒』と『揺れる』
キスをしながら夢中で猪狩の穿いているジャージをずり降ろすと、黒い下着が目に入った。部活や体育で散々派手なパンツを見ていたオレは一瞬だけ手が止まる。怪訝そうに揺れるブルーの瞳。なるほど、これは猪狩の勝負下着らしい。確かに胸の奥がキュンとしたオレは、再び猪狩の唇を塞ぐのだった。

『信号』と『はい』
信号機は赤だった。横断歩道、猪狩と二人で立っていた。間もなく信号は青に変わったが、二人とも動かないまま再び赤になった。いつもこうだ。オレと猪狩の間にはいつだって赤信号が邪魔をしている。ただ一言、お前さえ「はい」と返事をしてくれれば、オレは何もかも投げ出して渡り切る自信があるのに

『傘』と『名前』
下駄箱の中に突っ込まれていた折り畳み傘を差し出すと、そんなものは知らないよと返された。証拠はあるのかい?などと余裕をかましている猪狩に、オレは傘に書かれた名前で呼びかけてやった。みるみる顔を赤くする猪狩に、オレは一緒に帰ろうと提案をする。お前のその顔もぜんぶ傘の中に隠してしまうよ

(テンションが上がって勝手に書きました)
好きだとも嫌いだとも、オレは猪狩に対して言ったことがなかった。まして愛しているなどとどの口が言うのだろうか。言われた方の猪狩はきょとんとしている。かすかに動いた猪狩の唇を己のそれで塞ぐと吐息が漏れた。もう一度。何度でも。猪狩。返事は、10年分のキスが済んでからにしてくれ。


▼主進
『花』と『揺れる』
ティーカップを置くとガチャリと大きな音が鳴って僕は慌てて謝った。笑う彼を見ていると余計に落ち着かない。心臓のドキドキが指の先まで伝わってしまったかのようにカップが揺れる。「この紅茶、進くんみたいな花の匂いがする」彼は美味しいと言って笑ったが、僕にはさっぱり味が分からないのだった。

『知らない』と『机』
「じゃあ二次会行くぞー」チームメイトの声に腰を上げようとしたところだった。机の下、そっと絡められる手の平。驚いて隣を見ても、俯いた彼は何も言わなかった。こんな彼を、僕は知らない。途端熱の集まる顔、僕は何も言えないまま、繋がった手の平をそっと握り返した。


▼主友
『例えば』と『面倒』
友沢は弟妹の面倒をよくみるいいお兄ちゃんである。今も二人を寝かしつけて戻ってきたところだ。しかしたまにはもう少し気を許して、オレに頼ったりすればいいのだ。「友沢はしっかりしすぎ」「例えば?」食器を洗う友沢の首筋に唇を押し付けると赤い顔ではねのけられた。ほら、そういうところだよ

こういうときの友沢は少し面倒くさい。例えばスーパーの特売がある日、バイトが忙しい日、弟妹のために都合を空けなければならない日。そんなときはただ一言だけオレに言えばいいのに、それが出来ないのだ。やれやれと息をつきオレは友沢に告げる。オレは、お前のそういうところがたまらなく好きだよ。

『太陽』と『弁当』
たまにはこうやって公園で食べるのもいいもんだろ?弁当は早々に食べ終わったらしい、芝生に寝転がりながら言う。その笑顔がなんだか見ていられなくて、オレは黙って箸を動かした。青い空、白い雲、初夏を感じさせる風は心地良い。空を見上げると太陽はやっぱり眩しくて、オレはほんの少しだけ笑った。

『病』と『ペン』
「恋の病かもしれない」隣で勉強していたパワプロが蒼白な顔で言うので、友沢はペンをおいて教科書を閉じた。オレ、今日友沢のことばっか考えてるんだ。真剣な顔が面白く、気分の良くなった友沢は目の前の唇を掠めるように奪った。これで、今日だけじゃなくずっとオレのことを考えるようになるだろう

『愛』と『もし』
愛よりも金が欲しい。言うと、「友沢は馬鹿だなあ」と笑って再び引き寄せられた。何度も振り払った手なのに、それは相変わらず温かく友沢に触れた。もしこの手を取ってしまったら、もう戻れなくなるだろう。知らなかった頃には帰れない。帰り道など、とうの昔に忘れてしまったというのに。


▼進守
『そんな』と『答え』
「それが兄さんの答えなの?」差し向けたナイフは取り上げられ、今は僕の方に向けられていた。「あ…そんな…ボクは…」渇いた音が響く。「兄さん。やるならちゃんととどめを刺さなくちゃ。狙うならここだよ」兄の左胸に触れると、確かに脈打っていて温かかった。


▼友進
『吐息』と『恋』
恋の成就は友沢の頬をだらしなくさせるのに十分であった。視線が絡まり吐息が交わる。「そんな目で見ないで」友沢、と呼びかける彼こそ熱を孕んだ目でこちらを見るのだった。傍に寄る度香ったあの甘い匂い、今は自分の腕の中にある。頬の絆創膏に唇を寄せ、友沢は決意も新たに思いきり抱きしめた。


▼主神(主人公×神高)
『金額』と『月』
金額にしてひとつ105円、揃いのカップを割り捨てた恋人はいきなりオレを殴った。「せっかく一緒に買いに行ったのにどうして割るの」「気に入らないから」「どうして殴るの」「君が嫌いだから」じゃあ、どうして泣くの。隠れて嗚咽を漏らす彼を抱きしめ、オレは月並みな言葉でもう一度愛を告げた。


▼神進(神童×進)
『スカート』と『肌』
スカートを穿けば女の子になれるなんて思っていない。神童さんは僕の格好に目を白黒させている。その顔が愉快で、僕は裾を翻して彼に抱き着いた。いくら肌を合わせても埋められないものがある。それでも僕はいつもの通り知らないふりをして、愛しい神童さんに唇を寄せた。



こんなものを堂々と垂れ流していると思うと大変恐ろしいですね
ツイッター万歳!
激闘第一の配信が待ち遠しくて主友妄想に力が入ってましたね
配信の結果は、みなさまご存知の通りですけども!

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