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ハローニューワールド

主人公×友沢亮


ハローニューワールド

「友沢、なんか機嫌悪くない?」
「べつに」
 機嫌が悪いわけではない。友沢は、自分自身の感情に戸惑っているだけだった。
 部活動を終えた帰り道、友沢とパワプロは肩を並べて下校していた。今日は友沢のアルバイトも休みの日だ。厳しい練習、忙しいアルバイト、その合間を縫うようにしてパワプロと一緒に過ごす時間が友沢は好きだ。友沢は、パワプロのことが好きだった。パワプロも、友沢のことが好きだった。そういう二人が交際をするようになるまで、それほど時間はかからなかった。
 こうして二人で過ごす時間が何より大切で大事にするべきものだと理解しているにも関わらず、この頃の友沢ときたら、不貞腐れたり素っ気ない態度を取ったり、つまらない気持ちになることが多くなっていた。それもこれも、パワプロが悪い。友沢の心中を掻き乱すのは、良くも悪くもいつもパワプロだった。
 もともと友沢は、あまり他人に興味がない。それは、元来の性格によるものであったり、友沢自身の置かれた境遇のせいであったり、様々な要因はあるものの、他人に対する関心が希薄なのは昔からだった。兎角友沢には余裕がない。野球のこと、家族のこと、家計のこと、考えるべきことは山ほどあって、いちいち他人に干渉している暇はない。自分は自分、他人は他人。他人に構う余裕は、ない。そういう友沢の気質をすべてひっくり返していったのは、まさしくいま隣を歩いている男に他ならなかった。パワプロに出会ってからの友沢は、それまでの自分が思い出せなくなるほどに、変わってしまっていた。
 こちらの気も知らない相変わらずお喋りな男に相槌を打ちながら、友沢は道端の石ころを蹴っ飛ばす。今日の友沢が自身の気持ちを整理出来ない理由は、隣を歩く男がチームメイトたちと妙に仲良くしていたのが面白くない、といったくだらぬ内容であった。馬鹿馬鹿しいとは思っても、湧き上がる感情を止める手立てはない。そんなに楽しそうに笑わなくてもいいのに、そんなに嬉しそうに話さなくてもいいのに、パワプロは誰にでも親しげで、そして底抜けに優しいのであった。グラウンド整備のトンボを掴みながら、友沢はその様子を眺めていた。

「なあ、友沢」
 なんだ、声には出さず、視線を上げることで返事をする。友沢の態度に、パワプロは苦笑している。
 こんなどうでもいいことに心を砕いているくらいだったら、素振りでもしていた方がよほど有意義だ。だらだら歩いているくらいなら、ランニングして帰った方がトレーニングにもなるだろう。そうは思うのに、今日も友沢はパワプロと並んで歩いている。野球の練習をして、早くプロ入りを決めなければ。金を稼いで、家族を助けなければ。友沢にはやるべきこと、やらなければならないことが山ほどある。それなのに、そんな理屈をすべて飛び越えてしまうのが、隣を歩く男だった。
「友沢」
 パワプロがわざわざ立ち止まって名前を呼ぶので、友沢も歩みを止めて振り返った。さっきからなんだ、そう言おうとした友沢だったが、唇に触れたそれに驚いて、声になることはなかった。パワプロは、嬉しそうに笑っている。友沢が何も言わないのを良いことに、もう一度。口付けは、一瞬のことであった。人目のつく往来だ、注意をしようと思ったが、やはり声にはならなかった。
「へへ。ちょっとは、機嫌直った?」
 してやったり、悪戯っぽいその笑顔を前に、友沢はやはり黙っている。それを見たパワプロが、友沢を茶化す。自然と口角が上がっていることに、自分自身でも気が付いていた。
 全然、足りねえよ。今日いちばんの笑顔でそう言って、友沢はパワプロの唇に噛み付いた。夕焼けだけが、それを見ていた。



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来年2月のパワフルカップ3にサークル参加することとなりました!やんややんや
新刊等々全くのノープランですが、何かしら出せたらいいなと思っております。
パワプロって、いいよね

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よくある話

主人公×猪狩守

よくある話

「キミ、ボクのことが好きなんだろう。付き合ってあげてもいいよ」
 それが猪狩の言う渾身の愛の告白であったということに気が付いたのは、家に帰って風呂に入り、飯を食い、布団の中に入ってからのことだった。なぜなら猪狩ときたらなんの脈絡もなく、グラウンド整備につかうトンボを掴んだまま、突然こちらの目を見て言うのだ。
 帽子を取ったのは、猪狩の誠意や決意の表れだったのかもしれないと今になって思い付く。オレはというと、真っ直ぐに見つめる猪狩の青い目と夕陽のコントラストにぼうっと見惚れていた。それにしても、猪狩の考えていることは相変わらず分からないことばかりだ。
 翌日、学校に登校したオレはそれをそのまま矢部くんに話したけれど、ほんの世間話のように笑われただけで終わってしまった。分かってないのは、パワプロくんだけでやんすよ。そんなことより、昨日のガンダーロボのアニメを見たでやんすか?矢部くんも矢部くんで、相変わらずだ。
「猪狩、昨日の話の続きなんだけど」
 仕方がないので、オレは猪狩のクラスにまでわざわざ出向いて、さらにご苦労なことに二人揃って屋上にまでやって来ていた。
 以前、決め球の練習に付き合ってほしいと猪狩から話をされたあの日のように、空は晴れ渡っていて青かった。それよりももっと青い猪狩の目が、昨日と同じように真っ直ぐこちらを見つめている。そうしているうちに、オレの返答を聞いた猪狩の目が、ふにゃりと緩んだ。猪狩、お前ってそんな顔もするんだな。衝動に任せて、目の前にあった唇に自分のそれを重ねたオレが猪狩から本気のビンタを頂戴するのが、さらに数秒後の話だ。何も左手で、本気で叩かなくてもいいのに、やっぱり猪狩の考えていることはオレには分からない。



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2019.10.3
主守っていいな

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The world is in your palm.

主人公×猪狩守


「え、猪狩おまえ、風呂入るときっていつもそうなのか?」
「そうだよ」
 湯船に浸かっている猪狩はこちらの方を見もしないで言う。猪狩の家の、家というより「大豪邸」の風呂である。家と同様にばかでかいその風呂は、浴槽の広さもすごかった。それに一人ちょこんと浸かりながら、猪狩は手を湯につけないようにして、湯船に浸かっていた。
「お湯につけて、指先の皮膚がふやけるのがいやなんだ。感覚が狂うような気がしてね」
「へえ…そんなもんか」
 身体を洗い終えたオレは、よいしょと立ち上がり猪狩と同じ湯船に浸かる。猪狩とは違い、オレは思いっきりその中に浸かって身体を伸ばした。気持ちがいい。こんなに気持ちがいいのに、猪狩は相変わらず興味もなさそうに静かに指先を眺めながら湯に浸かっている。球界のエース、いや、大エース様の指先だ。
「オレ、そんなの全然知らなかった」
「キミに話す理由もないからね」
「ピッチャーが…おまえが、指先の感覚を何より大事にしてるのは知ってたけど、そこまで神経使うもんなのか」
「さあね、人によるんじゃないかい」
 相変わらず猪狩は素っ気ない。まるで恋人に対しての態度ではない。こいつは昔からそうだ、初めて会った高校生のときから変わらない。猪狩と過ごすようになって、何年経つだろうか。猪狩が変わらないように、オレも大概変わっていないのだろう。オレは昔から猪狩のこういうところが好きなのだった。オレなんかより野球が大事で、恋人よりも野球が好きな猪狩が好きだった。だからこの気持ちは封印するしかないのだろう。初めて恋人と一緒に風呂に入って浮れている、オレの助平心なんかは特に。
「あ、じゃあ、オレ先に出てるな」
「パワプロ」
 猪狩が顔を上げて、こちらを見ていた。湯に浸かっているせいで上気した頬はいつもより血色が良く、薄く開いた唇は濡れていてとても美味そうに見えた。物欲しそうにも見えるその表情に、オレは言葉が詰まった。
「猪狩」
 風呂場で反響した声は、やけに響いた。唇を離したときのリップ音まで響くようで、一拍置いて赤面する。そんなオレの様子に、猪狩はいつものようにふてぶてしく笑っているのだった。
 猪狩の手の平を、掴む。指を絡めて握っても、猪狩はいやがらなかった。こういうところだと思う。オレは猪狩のこういうところに心底骨抜きにされてしまっている。野球に心を砕き、何よりも自分の身体を大切にして、風呂に入るそのときの指先にまで神経を使っている猪狩が、こうもあっさりとオレにその身体を触れさせる意味。
 好きだなあ。こぼれた声は風呂場で大きく反響して、それを聞いた猪狩はやっぱり笑っているのだった。

世界はあなたのてのひらの中

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守さんのツンデレ加減って公式さんが絶妙すぎるものだから、自分で表現しようとするとなんだか女王さまのようになってしまう(…)
女王さまの守さんも好きなんですけどね!

指先とお風呂のエピソードは、以前にテレビで見た某ピッチャー様のものを参考にしました。

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チョコレート・ラブ

2010/巨人/主守

チョコレート・ラブ

 猪狩からチョコをもらった。猪狩というのは、球界を代表する大エース様、オレも所属する巨人軍の背番号18を背負う猪狩守のことだ。そして、このチョコというのは、バレンタインチョコレートのことを指している。壁に掛けられた日めくりカレンダーは、確かに今日が2月14日であることを知らせていた。
 やたらと華美なラッピングがほどこしてあるそれを眺める。キラキラと瞬く包装紙にきらびやかなリボンが巻かれたそれは、派手好きな猪狩の好みそうなものだった。こんなもの一体どこで買ってきたんだろう。ずいぶんと厳重な梱包をされたチョコレートを荷ほどき、箱まで辿り着いて蓋を開ける。ぱかり、開けられた蓋の中身とはこれいかに。気が付けば、オレの口も開いていた。
 美しい包装紙の中から出てきたのは、とても人様にはお見せすることのできない代物、例えるなら放送事故のような有様となったチョコレートだった。いや、チョコレートの残骸と言って差し支えがないように思える。開けている途中からなんとなく想像していたことだが、もしかしなくてもこれは、猪狩の手作りチョコなのではないか。
 そもそもなぜオレが猪狩からチョコをもらったのか。それは、猪狩がオレの寮の部屋に勝手に入ってきたからだ。少し前からたびたびあることだった。猪狩は自由だ。自分の好きな時に好きなようにやって来ては、なぜだかテレビゲームをしていったり、そのまま一緒にトレーニングをしたりもしていた。
 そして今日も御多分にもれず、わざわざ部屋までやって来た猪狩。いつもと違ったのは、部屋には上がらずに、なんだか早口に話をするだけして帰っていってしまったことだ。自分がいかにファンからたくさんチョコをもらったか、そしてオレがひとつも貰っていないことを憐れむような内容だった。そして長々と話し終えるとぽつり、猪狩は言ったのだ。
「これは、キミに恵んであげるよ」
 差し出された、派手な包み。てっきりオレは、今まで猪狩が話していたファンからのチョコレートを分けてくれたのだと思った。そう言うと、猪狩は「ファンからもらった大切なチョコを渡すわけがないだろう」と憤慨するのだった。ならば、この手の中にある、これは?
 焼きチョコレートとでも表現すれば良いのだろうか。焼失寸前の炭のようになっているそれをひとつ手に取る。ぱくり、口に入れると苦いんだか甘いんだか、なんだか猪狩みたいな味がした。なんて、そんなことを思うオレも大概なんだろう。
 特に美味くもないそれを次々と口の中に入れながら、きっとオレの顔はいま、にやにやとだらしなく笑っていることだろう。来月のホワイトデーには覚悟しておけと、オレは心の中で猪狩に宣戦布告を果たすのだった。


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前にも同じの書きましたね。もはやセルフリメイク
好きなんですよねえ

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返事はいらない

返事はいらない(主人公×猪狩守)

 風呂から上がると、猪狩はもう布団の中に入って寝ていた。こちらに背を向けるようにして寝ている猪狩を眺めながら、オレは適当に濡れた髪を拭きながらビールの空き缶を片付ける。
 猪狩が酒を飲むのは、チームが日本一になったときと、オフの前日だけだ。今日はオレも猪狩もよく飲んだし、よく食べた。なにしろ、猪狩とこうして二人で会うのは久々なのである。酒が入って普段よりもさらに饒舌になる猪狩を眺めながら、こいつもオレと同じように嬉しいのかなと思うと、コンビニで買った安酒もとんでもなく美味く感じるのだった。
 オレは猪狩のようにドライヤーで髪を乾かすという高等な習慣がない。そもそも家にあるドライヤーは、猪狩が持ってきたものだ。髪を拭いたタオルをそこらにぽいと放り、オレも同じく眠ることにした。
 一人暮らしの部屋に似つかわしくない、キングサイズのベッド。野球でそこそこ飯が食えるようになった頃、自分へのご褒美にと奮発して買ったものだったが、今やまるで猪狩とこうするために購入されたもののようだ。人生、何がどうなるものか、本当に分からない。
 照明を落とし、布団に潜り込む。その間にも、にやにやと笑ってしまう顔が戻らなくてオレは困っていた。猪狩は眠っている。オレが布団に入ってきても相変わらず知らん顔で、そっぽを向いている。
 猪狩は、左肩を下にして寝ていた。これが、すべての答えだった。サウスポーである猪狩が、眠るときに左肩を下にすることはあり得ない。つまり猪狩は寝たフリをしていて、もっと言うなれば、これは猪狩なりの「イエス」のサインなのであった。こんなの、オレにしか分からないだろう。なあ、猪狩。
 たぶん今頃、耳まで赤くしながら期待に胸を膨らませているだろう猪狩に応えてやるべく、オレは後ろから静かに猪狩を抱き締めた。すぐに我慢できなくなってその首筋に噛み付くと、やっぱり寝たフリをしていた猪狩から抗議の声が上がるのだった。



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嬉しいときに書く主守〜
病める時も健やかなるときも主守〜〜

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パワフフカップ2 新刊通販のお知らせ

先日のパワフルカップ2にて頒布した新刊をBOOTH通販いたしますので、お知らせです。
今回の本も一生懸命書いたので、お手に取っていただけたらとっても嬉しいです!

BOOTH(pixivに飛びます)

ありがたいことに残部少数ですが、よろしければご利用くださいませ^^
なお、既刊はすべて完売いたしました。本当にありがとうございました!



今回のパワカプもほんとうにほんとうに楽しかったです。
この4月から少し体調が安定しないこともありまして、一時は参加を見送ろうかとも考えていたのですが、たくさんの方に助けていただき、またお気遣いをいただき、参加することができました。
おかげで楽しい思い出がたくさんでき、感謝の気持ちでいっぱいです。
1年前から楽しみにしていたイベントだったので、見送っていたら一生の後悔ものでした、、そのくらい楽しかったです!
スペースにお立ち寄りくださった方、お声を掛けてくださった方、差し入れをくださった方、改めてありがとうございました。
パワプロ好きだなあって思います。
初めて書いた同人誌から7年、やっぱりパワプロが大好きです。

7年前に書いた、人生で初めての同人誌、野球マスク本も完売いたしました。感無量です。書いて良かった。
今回野球マスクのお話をたくさんさせていただいたのですが、やっぱりもうどうしようもなく好きだなあって思いました。
あの本を書かなければ、私はきっとこんな風にパワプロで何冊も同人誌を書いて、ここでこんな風にブログもやっていなかったかもしれません。
大好きです。

そして、なんと次のパワプロオンリーの開催が決定しているとのことで…すごいですね。
次は2月ですか。
どうなるか分かりませんが、いいなあ〜という気持ちだけはいっぱい^^
パワプロ大好き!

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これは嫉妬なんかじゃない

これは嫉妬なんかじゃない(主人公×猪狩守)

 授業中、グラウンドの騒がしさに思わず目をやると、そこにはよく見知った人物が大いにはしゃいでいるのだった。ボクの席は窓際いちばん後ろ、少し目をやるだけで、グラウンドの様子がよく見えた。今日の体育は、クラス合同で行われているらしい。パワプロが、矢部と一緒になって走り回っていた。
 カチカチカチ。意味もなくシャープペンシルをノックしていたことに気付いて、ボクは無駄に出してしまった芯をしまう。その間にも、パワプロと矢部は何がそんなに楽しいのか、おそらく体育の授業であることも忘れて遊んでいる。カチカチカチ。
「じゃあ、ここ、猪狩。訳せるか?」
「…ああ、はい」
 ボクのクラスはいま、古典の時間だった。ぼんやりと窓の外を見ていたボクへの腹いせで、教師はわざわざボクを指したに違いなかった。当てられた箇所をさらりと訳して、席につく。こんなことは、朝飯前だ。正解だったらしいそれに教師はそれ以上何をいうこともなく、そのまま授業は続いていった。そして、グラウンドでは相変わらずパワプロと矢部が大きな声で騒ぎながら遊んでいる。
 その様子を眺めながら、思う。パワプロがボクのことを好きなのは知っていた。なんだかんだと理由を付けてはボクの前に現れて、部活に休み時間に放課後まで、パワプロは飽きもせずボクに構っていた。人間、好意を示されることに対して、悪い気はしない。それに、パワプロと一緒にいる時間はキライじゃなかった。あいつといるのは、楽だった。きっとあいつも、そうなんだろう。だから、今日までボクからは何も言わずに黙っていたのに。パワプロは、馬鹿で、不器用で、鈍感だった。
「ちょっと矢部くん待ってよー!」
 何がそんなに楽しいのか、パワプロはにこにこと笑いながら矢部を追い掛け回している。だから一体何の時間なんだ、これは。出し過ぎたシャープペンシルの芯がぼきりと折れた。
 おまえが構うのは、追いかけるのは、ボクひとりだけで十分だろう。そんなことを思う。どうやら、バカはボクの方だったみたいだ。



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猪狩守は主人公のことが大好き。知ってました。

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永遠に手が届く

永遠に手が届く(主人公×猪狩守)

「猪狩。話があるんだ」
「なんだい」
「あの、真面目な話なんだけど」
「ああ」
「猪狩。オレ、お前のことが好きなんだ」
「ああ、知っていたよ」
 部活が終わったあと、いつのまにか二人だけで練習をするようになったグラウンドでの出来事だ。いつもより練習に熱が入ってしまったせいで夜も遅く、ぽっかりと照らされた照明の下には、オレと猪狩しかいない。なんだか世界で二人きりになったみたい。そんな馬鹿なことを考えてしまうほどにはオレは猪狩にのぼせ上がっていて、どうしようもなく好きになってしまっていた。だから、今しかない。そう思った。
 そうして一世一代、オレのすべてを賭けるつもりで放った告白は、猪狩によって一蹴されて終わったのだった。ちゃんちゃん。
「キミ、早く片付けないと、いつまでも帰れないだろう」
「あ、うん」
 猪狩はネットにたまったボールを拾いながら、オレを叱るのだった。オレがのろのろとしている間にも、猪狩はマウンドをならしている。
「よし、帰ろう」
 片付けが終わったらしい猪狩に声をかけられる。あまりに練習で遅くなった日には、オレたちは着替えもせずにユニフォーム姿のまま帰るのが恒例になっていた。オレたちが終わる頃には部室もとっくに閉められてしまっているので、あらかじめ鞄はグラウンドの適当なところに置いてあった。オレはそれを拾って、もうとっくに歩き出している猪狩の後ろ姿を追い掛けた。
「それで、キミはどうしたいんだい」
「え?」
 振り向いた猪狩が、オレの顔を見ながら言う。そこで初めて、オレはさっきの話の続きをしているのだと気付いた。オレの告白は、どうやらなかったことにはされていないようだ。しかし、猪狩の質問の真意は分からない。
「どうって…そりゃあ、その、付き合いたいよ」
「これ以上、何を付き合うっていうんだい」
「えっ?」
「キミとボクは部活で一緒だろ、そのあと、こうしていつも二人で練習してる。部活だけじゃない、休みの日だってそうだ。この前は一緒にバッティングセンターに行って、そのあとキミの家でゲームをしたな。テスト前には泣き付いて来たキミに勉強をみてやった。それからキミはクラスが違うくせにわざわざボクの教室にやって来ては、教科書を借りに来たり、頼んでもいないマンガを持って来たり。キミが言うから、この前はラーメンを一緒に食べにいった。ハンバーガーも。そして今は一緒に帰宅している。これ以上、何に付き合えっていうんだ、キミは?」
「いやあの、そうなんだけど、いや、そういうことじゃなくてさ」
「じゃあ、どういうことだい」
 自信満々に言う猪狩に、オレはたじろいだ。そうなんだけど、そうじゃない。どうして猪狩には伝わらないんだろう。猪狩は大きな目を瞬かせてこちらを真っ直ぐに見つめていた。
「だから、オレ、猪狩のことが好きなんだよ」
「だから、知っているよ」
「あ〜話が進まない。なんでだ?これ以上なんて言えばいいんだ?」
「さあね」
 猪狩はどこ吹く風で涼しい顔をしている。なんだこれは。打つ手なし。
「あのさあ、猪狩」
「なんだい」
「おまえって、オレの事どう思ってんの?」
「どうって?」
「そのままの意味だよ。好きなのか?嫌いなのか?」
「キミは本当にばかだな。ボクは、キライな人間とは一緒にいないよ」
「そりゃそうだろうけど…」
 なんだかトンチのようなナゾナゾのような、そんな気分にすらなってきた。猪狩は前から変なやつだけど、本当に変なやつだったようだ。その変なやつを好きなオレも、変なんだろうけど。
「もういいや。じゃあな猪狩、また明日」
「あ、キミ」
 いつも別れる交差点、猪狩に呼び止められて振り返る。街頭の下、猪狩が近付いて来て、そのまま影が重なった。なんだろうと思っているうちに、もう一度。ぽかんとしていると、猪狩が不機嫌そうにオレを睨め付けていた。
「なに変な顔をしてるんだ。キミが言うから、ボクからしてやったんだろう」
 なんという不遜な態度。それが、たった今オレのファーストキスを奪っていったやつのする言動か。頭ではそう思っているのに、あまりにのぼせ上がってしまったらしいオレは、そのまま猪狩を抱き寄せて、思い切り腕の中で押しつぶすことしか出来なかった。
「猪狩。猪狩。好きだ」
「だから、知っているよ」
 ふてぶてしく言った猪狩の真っ赤な顔を見届けて、オレはかわいくない恋人の唇に口付けを落とすのだった。



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主守!スキ!何度同じ話を書いてもスキ!

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メロンソーダは知っている

メロンソーダは知っている(主人公×猪狩進)

「進くん。オレと付き合ってくれないかな」

 映画館の帰り道。隣を歩くパワプロさんがそう言った。ちらり、腕時計を確認する。時刻はまもなく日が暮れる頃で、なるほどいつもならこの辺りで解散する頃合いだった。彼は、真面目な人なのだ。遅い時間に、後輩である自分を付き合わせることを悪いと思っているのだろう。
 彼は僕の先輩で、兄の同級生であった。野球をきっかけに親しくなり、時々バッティングセンターに行ったり、時には息抜きにゲームセンターで遊んだり、今日は初めて一緒に映画館に行った。
 パワプロさんと一緒にいるのは楽しい。彼は気さくで話しやすくて、その人柄をそのまま体現したようなおおらかさと優しさを持ち合わせていた。普段、他人に全く興味を示さない兄が、彼といるときだけはムキになったり笑ったり、楽しそうにしているのもなるほど納得のいくことだった。彼は、僕にも兄にも等しく優しい。
「いいですよ。どこに行くんですか?あ、この前新しいグラブが気になるって言ってましたから、それですか?」
「進くん、その、違うんだ。そうじゃなくって…」
 珍しく困っているらしいパワプロさんは、どうにもいつもと様子が違う。その顔が赤いのは、どうやら夕焼けのせいだけではなさそうだ。パワプロさんは、うーだとかあーだとか、何やらずいぶん言い淀んで逡巡している。
 その様子を見て僕は、ようやく気が付いたのだった。でも、まさか。そんなことがあるわけない。そんな風に期待してしまうのは、僕が彼のことを好きだから。そうに違いないのだ。
 じっと彼を見つめると、パワプロさんは僕の方に向き直って、はっきりとした声で言った。
「ごめん、オレの言い方が悪くて。オレ、進くんのことが好きなんだ。オレと、付き合ってください」
 本当に驚いたとき、嬉しいとき、人は声が出なくなるものなのだと、僕はそのときに初めて知った。嘘みたいだ。いや、夢みたいだ。まさか、こんな日が来るなんて、これっぽっちも想像したことがなかった。頭の中が混乱している。そのせいで、僕は彼の返事をするよりも先に、言わなくてもいい余計なことを口にしてしまうのだった。
「だって、パワプロさん、兄さんのことが好きなんだと…思ってました。兄さんの話ばっかりするし…」
「それは、なんていうか、口実っていうかさ…猪狩の話を出せば、進くんに話しかけやすかったから。うわ、オレいまめちゃくちゃ恥ずかしい」
 嬉しさが、胸いっぱいに弾けるような感覚を覚えていた。今までのあれも、それも、これも、兄さんのことが好きだと思っていた彼の行動が全部、実は僕のことが好きだったから、なんて。
「わ、進くん」
 今の気持ちを言葉にすることがどうしても出来なくて、僕はパワプロさんに抱きついていた。ずっと我慢していた。僕のものにしたかった。僕のことを好きになってほしかった。それがいま、こうして手が届くところにその人はいるのだ。
 パワプロさんの腕が背中に回されて、僕は静かに顔を上げた。瞼を下ろすと、そっと唇が重なった。一瞬のようで、僕にとっては永遠のようなひととき。目を開けると、触れ合うほど近くに彼がいた。
「進くん」
 返事は彼の唇に、今度は僕からキスをした。そこはほんのり甘くて、さっきまで彼が映画館で飲んでいたメロンソーダの味に違いないと、僕はこっそり笑った。




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主進しあわせになってくれ

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おわりの呪文

おわりの呪文(主人公←猪狩進)

 初めから、分かっていた。僕が好きになったあの人は、僕の兄のことが好きだった。つまり僕は、兄のことを好きなあの人のことを好きになったのだった。そこには一点の疑う余地もない。
 僕の名前は、猪狩進という。野球をしていて僕を知る大抵の人間は、僕のことを「猪狩の弟」と呼んだ。猪狩の弟。昔から、それが僕の名前だった。
 しかし、そんな僕にある日事件が起こった。僕のことを「猪狩の弟」と呼ばない人物に出会ってしまったのだ。その人は、初めて会ったその日に僕のことを「進くん」と呼ぶのだった。兄のことを知っていて、野球をしていて、僕よりも歳が上なのに、その人は、そう呼んだのだ。大袈裟だと嘲ってくれて構わない、しかし、僕にとってはまさしく事件のような出来事だった。
 その日から僕は、あの人の前で「進くん」であることに徹するようになったのだ。

「進くん、聞いてよ。また猪狩のやつがさ〜」
「兄さんって、そういうところありますよね」
「だろ?さすが、進くんはオレの気持ちよく分かってくれる!」
 今日もあの人は兄の話をしている。それを僕は「進くん」として相槌を打って、時々はアドバイスめいたことを言って、ふふふと言って笑った。会話の内容は、どうでも良かった。僕は好きな人と一緒にいられたら、それだけで嬉しい。きっと、そう思うのは僕だけじゃないだろう。ねえ、兄さん。パワプロさん。
「ああ、そうだ進くん。今日は折り入って、というか、報告しておきたいことがあってさ…」
 そっぽを向いて頬をかく仕草は、この人が嬉しいときに見せる仕草だった。ほんのりと染めた頬、落ち着きなく視線を泳がせる動作は、あまりにも心当たりがありすぎた。
 ついに来たか。僕はいつも通り柔和な仮面を被ったまま、凍りついていた。予想よりも、ずいぶん早かった。もしかしたら、僕のアドバイスが思いのほか効果てきめんだったのかもしれない。だって、僕は兄さんの弟なんだもの。なんだそれ、面白い。
「あのさ、進くん。オレ、猪狩とさ…」
「ねえ、パワプロさん」
 にっこり笑ったつもりだった。だって、僕は「進くん」だからね。兄の弟で、この人の後輩で、物分かりが良くって、柔和で、いつも笑顔をたやさない、この人にとっての「進くん」でいたかった。
 辛くない。苦しくない。だって、僕の恋は初めから終わっていた。この告白は、それを事実として確認するための、ただの呪文だ。

「パワプロさん。僕は、あなたのことが好きでした。」



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相変わらずこういうのが大好きすぎる

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