冥土の土産
冥土の土産 (主人公×猪狩守)
左手が出る、というのは、猪狩が本気で怒っている証拠だった。サウスポーである猪狩が、自らの左手を粗末に扱うことは断じてない。粗末に扱うどころか、いつだって何よりも大切にしているものだ。だから、叩かれた頬の痛みよりも、オレはそっちの方に驚いていた。あまりの怒りに、猪狩は思わず利き手でオレを殴ったらしかった。
「キミは、本当にバカだ」
「馬鹿じゃない。オレは、ずっと考えてたことだよ。猪狩、それがやっぱりオレたちの…いや、おまえのためになると思うんだ」
猪狩は答えない。握りしめられたままの猪狩の左手は、密やかに震えていた。オレはもう、猪狩の左手が気に掛かって、喧嘩どころではなくなってしまっていた。お前の左手に、指先に、ピッチャーとしての生命線に、何かあろうものなら。
しかし、そんなことを言うのも許されないほど猪狩は怒っていた。こんな猪狩は、見たことがない。オレは、さっきから戸惑ってばかりだ。上手いことが何も言えない。最後くらいは笑って別れたいと、そんなことを思っていた自分の甘さにほとほと愛想が尽きそうだ。
「キミが…キミから始めたんじゃないか」
「そうだよ。だから、ずっと考えてた。いつまでもこのままじゃいられないって…」
「ボクのことがキライになったのか」
「そんなわけないだろ」
いよいよ別れ話の終幕に相応しいやり取りになってきた。オレと猪狩は、付き合っていた。高校2年の、初めのことだ。我慢出来なくなったオレが猪狩に手を出したのがきっかけで、そのままなし崩しに今日まで関係は続いていた。
楽しかったし、猪狩も楽しそうにみえた。猪狩からは一度も好きだと言われたことはなかったけど、それで良かった。オレが、猪狩を好きだったから。猪狩といられれば、それで良かった。だけど、それももう、終わりだ。高校3年の冬。もうすぐ、春がやってくる。春が来れば、オレも猪狩も新しい生活が待っている。甲子園優勝をも果たしたオレたちは、揃ってプロ入りを決めたのだった。
「もうすぐ、卒業式だろ。それまでに、おまえとのこと、きちんとしておきたかったんだ」
「……」
「プロになったら忙しくなるだろう。生半可なことでは、やっていけないだろう。それに、オレとおまえは男同士だ。この辺で終わりにしておいた方が、いいんだ」
「パワプロ。最後にひとつだけ聞かせろ」
「なんだ?」
「キミは、ボクのことが好きなのか。嫌いなのか」
「……」
「答えろ」
「好きに決まってる…」
思い切り振りかぶった猪狩の拳に、オレは再びぶん殴られた。先ほどとは比べ物にもならない衝撃に、後ろに吹き飛んで倒れる。そんなオレに猪狩は馬乗りになって、なおも殴りつけようとしてくる。
「やめろ猪狩、左手は使うな!落ち着け!」
「……」
「ん!?」
乱暴に胸ぐらを掴んでオレの身体を起こした猪狩は、そのまま自らの唇を重ねるのだった。互いの唇の輪郭をなぞるような、柔らかくて甘いキス。初めて猪狩からなされたそれに、オレは驚いて声も出なかった。殴られた頬と、触れ合う唇が熱い。猪狩は何度か角度を変えながらキスをすると、名残惜しそうに離れていくのだった。
「キミは、バカだ」
「…それは、さっき聞いたよ」
「バカのくせに、理屈だとか、将来のことだとか、もっともらしく言うな」
「…うん」
「もう二度と言うな」
「…うん。ごめん」
「なあ猪狩、おまえは」
「キミのことが、好きだ」
初めて聞いた猪狩の告白に、オレは返事の代わりとばかりに今度は自分から唇を重ねるのだった。そっと瞼を下ろした猪狩を抱き締めながら、オレは馬鹿だから、もう一生離してやらないぞと、そんなことを考えていた。
了
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
※冥土の土産…冥土へ行く際に持参する土産 それを手に入れて初めて安心して死ねるような事物をいう
久しぶりにガチめの主守。だいすき。
左手が出る、というのは、猪狩が本気で怒っている証拠だった。サウスポーである猪狩が、自らの左手を粗末に扱うことは断じてない。粗末に扱うどころか、いつだって何よりも大切にしているものだ。だから、叩かれた頬の痛みよりも、オレはそっちの方に驚いていた。あまりの怒りに、猪狩は思わず利き手でオレを殴ったらしかった。
「キミは、本当にバカだ」
「馬鹿じゃない。オレは、ずっと考えてたことだよ。猪狩、それがやっぱりオレたちの…いや、おまえのためになると思うんだ」
猪狩は答えない。握りしめられたままの猪狩の左手は、密やかに震えていた。オレはもう、猪狩の左手が気に掛かって、喧嘩どころではなくなってしまっていた。お前の左手に、指先に、ピッチャーとしての生命線に、何かあろうものなら。
しかし、そんなことを言うのも許されないほど猪狩は怒っていた。こんな猪狩は、見たことがない。オレは、さっきから戸惑ってばかりだ。上手いことが何も言えない。最後くらいは笑って別れたいと、そんなことを思っていた自分の甘さにほとほと愛想が尽きそうだ。
「キミが…キミから始めたんじゃないか」
「そうだよ。だから、ずっと考えてた。いつまでもこのままじゃいられないって…」
「ボクのことがキライになったのか」
「そんなわけないだろ」
いよいよ別れ話の終幕に相応しいやり取りになってきた。オレと猪狩は、付き合っていた。高校2年の、初めのことだ。我慢出来なくなったオレが猪狩に手を出したのがきっかけで、そのままなし崩しに今日まで関係は続いていた。
楽しかったし、猪狩も楽しそうにみえた。猪狩からは一度も好きだと言われたことはなかったけど、それで良かった。オレが、猪狩を好きだったから。猪狩といられれば、それで良かった。だけど、それももう、終わりだ。高校3年の冬。もうすぐ、春がやってくる。春が来れば、オレも猪狩も新しい生活が待っている。甲子園優勝をも果たしたオレたちは、揃ってプロ入りを決めたのだった。
「もうすぐ、卒業式だろ。それまでに、おまえとのこと、きちんとしておきたかったんだ」
「……」
「プロになったら忙しくなるだろう。生半可なことでは、やっていけないだろう。それに、オレとおまえは男同士だ。この辺で終わりにしておいた方が、いいんだ」
「パワプロ。最後にひとつだけ聞かせろ」
「なんだ?」
「キミは、ボクのことが好きなのか。嫌いなのか」
「……」
「答えろ」
「好きに決まってる…」
思い切り振りかぶった猪狩の拳に、オレは再びぶん殴られた。先ほどとは比べ物にもならない衝撃に、後ろに吹き飛んで倒れる。そんなオレに猪狩は馬乗りになって、なおも殴りつけようとしてくる。
「やめろ猪狩、左手は使うな!落ち着け!」
「……」
「ん!?」
乱暴に胸ぐらを掴んでオレの身体を起こした猪狩は、そのまま自らの唇を重ねるのだった。互いの唇の輪郭をなぞるような、柔らかくて甘いキス。初めて猪狩からなされたそれに、オレは驚いて声も出なかった。殴られた頬と、触れ合う唇が熱い。猪狩は何度か角度を変えながらキスをすると、名残惜しそうに離れていくのだった。
「キミは、バカだ」
「…それは、さっき聞いたよ」
「バカのくせに、理屈だとか、将来のことだとか、もっともらしく言うな」
「…うん」
「もう二度と言うな」
「…うん。ごめん」
「なあ猪狩、おまえは」
「キミのことが、好きだ」
初めて聞いた猪狩の告白に、オレは返事の代わりとばかりに今度は自分から唇を重ねるのだった。そっと瞼を下ろした猪狩を抱き締めながら、オレは馬鹿だから、もう一生離してやらないぞと、そんなことを考えていた。
了
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※冥土の土産…冥土へ行く際に持参する土産 それを手に入れて初めて安心して死ねるような事物をいう
久しぶりにガチめの主守。だいすき。
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パワフルカップ2 サークル参加のお知らせ
2019年6月23日、東京ビッグサイトで開催される
オンリーイベント「パワプルカップ2」にサークル参加いたします!
・場所/西2ホール ナ05b
・サークル名/かち割りグラサン
※うま子さん(@tonikaku_umai)との合同サークルでの参加となります。
・おしながき
①新刊『Delicious days』
小説/A5/36p/¥500
・主守、主友、進守の短編集 + アンソロジー寄稿再録
・サンプル(pixivに飛びます)
②既刊『エンディングはお好みで』
小説/A5/38P/¥400
・主守、主進、主友 短編読み切り
・サンプル(pixiv)
③既刊『八月の風』
小説/A5/42P/¥200
・パワポケ1、野球マスク中心
・全年齢、健全本です
・サンプル(pixiv)
どうぞよろしくお願いします^^
オンリーイベント「パワプルカップ2」にサークル参加いたします!
・場所/西2ホール ナ05b
・サークル名/かち割りグラサン
※うま子さん(@tonikaku_umai)との合同サークルでの参加となります。
・おしながき
①新刊『Delicious days』
小説/A5/36p/¥500
・主守、主友、進守の短編集 + アンソロジー寄稿再録
・サンプル(pixivに飛びます)
②既刊『エンディングはお好みで』
小説/A5/38P/¥400
・主守、主進、主友 短編読み切り
・サンプル(pixiv)
③既刊『八月の風』
小説/A5/42P/¥200
・パワポケ1、野球マスク中心
・全年齢、健全本です
・サンプル(pixiv)
どうぞよろしくお願いします^^
好きなんだ
好きなんだ(主人公×猪狩守)
「パワプロくんが、さっき女の子に呼び出されてたでやんす!きっと告白されるに違いないでやんすよ!」
悔しいでやんす〜!と勢いよく駆け出していった矢部とは対照的に、ボクは制服を中途半端に引っ掛けたまま、ユニフォームに着替えている途中であった。
いつもならば部室まで矢部と一緒にやってくるパワプロの姿はなく、特に尋ねてもいないのだが、矢部は勝手に言いたいことだけを言ってグラウンドに出ていったようだ。他の部員はまだ来ていない。一人になった部室でボクはようやくユニフォームに袖を通した。タオルを掴んで、スパイクに履き替える。
なんだか、変な感じだ。スパイクの紐を掴むのに上手く結べなくて、ボクはもどかしくなる気持ちを抑えてなんとかそれを結び終えた。ぼんやりと浮かぶのは、さっきの矢部の言葉と、ボクが勝手に想像するパワプロの姿だった。
パワプロが女生徒に呼び出されたらしい。そして告白をされるそうだ。一体それがどうしたというのだろう。馬鹿馬鹿しい。ボクにはなんの関係もないことだ。
そうは思うのに、ボクの頭の中には随分と勝手な想像が散らかっていた。パワプロに彼女が出来たら。きっと、ボクと過ごす時間は今までよりも減ることだろう。
部活動のあと、個人練習と称して二人だけで自主練習をする時間。時折、公園に寄ってキャッチボールをする時間。学校からの帰り、寄り道をして一緒にハンバーガーを食べる時間。新しいゲームを買ったと言って、パワプロの家で一緒にゲームをする時間。テスト前、助けて欲しいとボクにみっともなく泣き付いたパワプロに勉強を教えてやる時間。
それらの時間はきっと、その「彼女」とやらに割かれてしまうのだろう。「彼女が欲しい」そんなことを常日頃から冗談めかした口調で話していたパワプロの顔がいやというほど鮮明に思い出される。
そうしてボクはひとつの結論、気付きを得るのだった。一度腑に落ちてしまえばなるほど理解の出来る感情で、ボクは驚くほど素直にその気持ちを認めるのだった。そしてそれと同時に湧いてくるのは怒りである。パワプロからしてみれば不当としか言いようのないものであろうが、当事者のボクからすればまさしく怒り以外のなにものでもない。この天才猪狩守を差し置いて、いい度胸だ。
「あれ、猪狩しかいないの」
ガチャガチャと騒々しくドアノブを回して入ってきたのは、パワプロだった。鞄を放るようにして椅子へ置くと、さっそく制服のボタンを外して着替え始めた。
「猪狩、珍しいじゃん。いつもならさっさと着替えてランニングでもしてるのに」
あっという間にユニフォーム姿になったパワプロは、帽子を掴むとさっさとスパイクを履いて、今にも駆け出していってしまいそうだ。
「おい、パワプロ」
「へ、なに?」
「キミ、ボクに何か言うことはないのかい」
「え…ないけど。猪狩、なんか怒ってる?どうかしたのか?」
へらりと笑ってみせたその顔に、ボクはほんの今しがた導き出した気付き、結論への回答を見たような気がした。もう認めるしかないだろう。
「パワプロ。ボクは、キミのことが…」
さて、そのあとどうなったかといいますと、皆さまご承知置きの通りでございます。
突然降ってきた愛の告白にあっけに取られる人間がいる一方、言いたいことを言って勝手にスッキリしている天才が一人、そもそも話の始まりからすべて眼鏡の彼の早とちり思い違いだったとか、それによって天才が起こした天災のような告白から付き合うようになった二人がいたとかいないとか、おおむねそんな感じの、今日も平和なあかつき高校野球でしたとさ。終わりだよ!
了
ーーーーーーーーーーーー
たまにはいいだろうという意欲作。
みなまで言うな…^^
「パワプロくんが、さっき女の子に呼び出されてたでやんす!きっと告白されるに違いないでやんすよ!」
悔しいでやんす〜!と勢いよく駆け出していった矢部とは対照的に、ボクは制服を中途半端に引っ掛けたまま、ユニフォームに着替えている途中であった。
いつもならば部室まで矢部と一緒にやってくるパワプロの姿はなく、特に尋ねてもいないのだが、矢部は勝手に言いたいことだけを言ってグラウンドに出ていったようだ。他の部員はまだ来ていない。一人になった部室でボクはようやくユニフォームに袖を通した。タオルを掴んで、スパイクに履き替える。
なんだか、変な感じだ。スパイクの紐を掴むのに上手く結べなくて、ボクはもどかしくなる気持ちを抑えてなんとかそれを結び終えた。ぼんやりと浮かぶのは、さっきの矢部の言葉と、ボクが勝手に想像するパワプロの姿だった。
パワプロが女生徒に呼び出されたらしい。そして告白をされるそうだ。一体それがどうしたというのだろう。馬鹿馬鹿しい。ボクにはなんの関係もないことだ。
そうは思うのに、ボクの頭の中には随分と勝手な想像が散らかっていた。パワプロに彼女が出来たら。きっと、ボクと過ごす時間は今までよりも減ることだろう。
部活動のあと、個人練習と称して二人だけで自主練習をする時間。時折、公園に寄ってキャッチボールをする時間。学校からの帰り、寄り道をして一緒にハンバーガーを食べる時間。新しいゲームを買ったと言って、パワプロの家で一緒にゲームをする時間。テスト前、助けて欲しいとボクにみっともなく泣き付いたパワプロに勉強を教えてやる時間。
それらの時間はきっと、その「彼女」とやらに割かれてしまうのだろう。「彼女が欲しい」そんなことを常日頃から冗談めかした口調で話していたパワプロの顔がいやというほど鮮明に思い出される。
そうしてボクはひとつの結論、気付きを得るのだった。一度腑に落ちてしまえばなるほど理解の出来る感情で、ボクは驚くほど素直にその気持ちを認めるのだった。そしてそれと同時に湧いてくるのは怒りである。パワプロからしてみれば不当としか言いようのないものであろうが、当事者のボクからすればまさしく怒り以外のなにものでもない。この天才猪狩守を差し置いて、いい度胸だ。
「あれ、猪狩しかいないの」
ガチャガチャと騒々しくドアノブを回して入ってきたのは、パワプロだった。鞄を放るようにして椅子へ置くと、さっそく制服のボタンを外して着替え始めた。
「猪狩、珍しいじゃん。いつもならさっさと着替えてランニングでもしてるのに」
あっという間にユニフォーム姿になったパワプロは、帽子を掴むとさっさとスパイクを履いて、今にも駆け出していってしまいそうだ。
「おい、パワプロ」
「へ、なに?」
「キミ、ボクに何か言うことはないのかい」
「え…ないけど。猪狩、なんか怒ってる?どうかしたのか?」
へらりと笑ってみせたその顔に、ボクはほんの今しがた導き出した気付き、結論への回答を見たような気がした。もう認めるしかないだろう。
「パワプロ。ボクは、キミのことが…」
さて、そのあとどうなったかといいますと、皆さまご承知置きの通りでございます。
突然降ってきた愛の告白にあっけに取られる人間がいる一方、言いたいことを言って勝手にスッキリしている天才が一人、そもそも話の始まりからすべて眼鏡の彼の早とちり思い違いだったとか、それによって天才が起こした天災のような告白から付き合うようになった二人がいたとかいないとか、おおむねそんな感じの、今日も平和なあかつき高校野球でしたとさ。終わりだよ!
了
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たまにはいいだろうという意欲作。
みなまで言うな…^^
恋わずらうひと
恋わずらうひと(主人公×友沢亮)
「友沢くんって、かっこいい!」
幼い頃から今日に至るまで、散々聞かされてきたその言葉を友沢は思い出していた。他者から与えられる己の評価に対して興味はなく、まして自身の外見に関することとなればなおのこと。
なぜなら、そんなものは野球の技術や良し悪しに全く関係がないからだ。その態度がまたストイックだとか、クールだとか、とかく友沢の評価をうなぎのぼりにさせる要因の一つであるのだが、友沢はこれまたこれっぽっちも興味がない。
しかし、ここにきてなぜそんなことを思い出しているのかというと、隣を歩く一人の男が原因であった。呑気に笑っている、この愚鈍な恋人に対して自身が勝負できる、すなわちアプローチできるところがあるとすれば、これしかないと思ったのだ。
友沢がこんなことを考えているとはちっとも知らずに、隣を歩くパワプロはいつもの通りにこにこと笑って他愛のない話をしている。
部活動の練習が終わった帰り道、二人で歩くこの道は恒例のものとなりつつあった。時々は練習後にラーメンを食べて帰ったり、コンビニに寄ったり、公園に寄り道したりして、友沢とパワプロは清く正しい学生らしい交際を続けていた。
パワプロの話に適当な相槌を打ちながら、友沢の胸中たるやぐるぐると思惑が渦巻いている。
クールで、ストイックで、ポーカーフェイスで、かっこいい友沢亮といえども、中身は平凡な高校生、ただの健全な男子高校生なのである。付き合うようになってそこそこの時間を重ねたいま、恋人としてさらなるステップを踏みたいと思うのも当然の欲求であるだろう。平たく言うと、友沢は欲求不満なのであった。
「でさあ…友沢、聞いてる?」
聞いている。だんだんイライラしてきた友沢は、声には出さずに心の中で返事をした。友沢がこんなにも毎日、毎晩、もやもやしているにも関わらず、パワプロときたらいつもこんな調子で、にこにこ呑気に笑って世間話を続けているのだ。こっちの気持ちも知らないで、いや一度も口にしたことがないのだから伝わるわけもないのだが、恋煩いに忙しい友沢は己の正論をかざして怒っている。
もうすぐ、分かれ道の交差点に差し掛かる。あそこまで歩いたら、友沢は右に曲がって、パワプロはその反対の道に帰っていく。だから、友沢は、意を決した。勝負だ。
「えっ、なに友沢、顔近いんだけど…」
立ち止まったパワプロの顔に、ぐっと近付く。べつに何を言うこともない。今まで散々聞かされてきた「かっこいい」が武器になるのなら、これしかないだろうという確信を持っての行動だ。沈黙、そして静寂。
「なんかよく分かんないけど、友沢ってかわいいよな、急に突拍子もないことするし」
するりとかわされたパワプロにそんなことを言われて、友沢は目を瞬かせた。かわいい。かわいい?なんだろうそれは。全く意図しないことを言われ、反応が鈍くなる。ぶに、と鼻先を摘まれて友沢が目を白黒させていると、そんな様子を見たパワプロはやっぱりころころと笑っているのだった。
なんで分からないんだこの鈍感、かわいいなんて言われて嬉しいなんて嘘だ、パワプロの馬鹿、いろんな気持ちを煮詰めた友沢がパワプロの胸ぐらを掴んでその唇を奪うのは、ほんの十数秒後の話であった。
了
ーーーーーーーーーーーーー
こういう主友がどうしようもなく好きですね
今まで自分の容姿に無頓着だった美形が、恋人の気を引きたいために自分の容姿について考え直す感じ、とっても好き、かわいらしい、いじらしい
友沢くん、幸せになってね
「友沢くんって、かっこいい!」
幼い頃から今日に至るまで、散々聞かされてきたその言葉を友沢は思い出していた。他者から与えられる己の評価に対して興味はなく、まして自身の外見に関することとなればなおのこと。
なぜなら、そんなものは野球の技術や良し悪しに全く関係がないからだ。その態度がまたストイックだとか、クールだとか、とかく友沢の評価をうなぎのぼりにさせる要因の一つであるのだが、友沢はこれまたこれっぽっちも興味がない。
しかし、ここにきてなぜそんなことを思い出しているのかというと、隣を歩く一人の男が原因であった。呑気に笑っている、この愚鈍な恋人に対して自身が勝負できる、すなわちアプローチできるところがあるとすれば、これしかないと思ったのだ。
友沢がこんなことを考えているとはちっとも知らずに、隣を歩くパワプロはいつもの通りにこにこと笑って他愛のない話をしている。
部活動の練習が終わった帰り道、二人で歩くこの道は恒例のものとなりつつあった。時々は練習後にラーメンを食べて帰ったり、コンビニに寄ったり、公園に寄り道したりして、友沢とパワプロは清く正しい学生らしい交際を続けていた。
パワプロの話に適当な相槌を打ちながら、友沢の胸中たるやぐるぐると思惑が渦巻いている。
クールで、ストイックで、ポーカーフェイスで、かっこいい友沢亮といえども、中身は平凡な高校生、ただの健全な男子高校生なのである。付き合うようになってそこそこの時間を重ねたいま、恋人としてさらなるステップを踏みたいと思うのも当然の欲求であるだろう。平たく言うと、友沢は欲求不満なのであった。
「でさあ…友沢、聞いてる?」
聞いている。だんだんイライラしてきた友沢は、声には出さずに心の中で返事をした。友沢がこんなにも毎日、毎晩、もやもやしているにも関わらず、パワプロときたらいつもこんな調子で、にこにこ呑気に笑って世間話を続けているのだ。こっちの気持ちも知らないで、いや一度も口にしたことがないのだから伝わるわけもないのだが、恋煩いに忙しい友沢は己の正論をかざして怒っている。
もうすぐ、分かれ道の交差点に差し掛かる。あそこまで歩いたら、友沢は右に曲がって、パワプロはその反対の道に帰っていく。だから、友沢は、意を決した。勝負だ。
「えっ、なに友沢、顔近いんだけど…」
立ち止まったパワプロの顔に、ぐっと近付く。べつに何を言うこともない。今まで散々聞かされてきた「かっこいい」が武器になるのなら、これしかないだろうという確信を持っての行動だ。沈黙、そして静寂。
「なんかよく分かんないけど、友沢ってかわいいよな、急に突拍子もないことするし」
するりとかわされたパワプロにそんなことを言われて、友沢は目を瞬かせた。かわいい。かわいい?なんだろうそれは。全く意図しないことを言われ、反応が鈍くなる。ぶに、と鼻先を摘まれて友沢が目を白黒させていると、そんな様子を見たパワプロはやっぱりころころと笑っているのだった。
なんで分からないんだこの鈍感、かわいいなんて言われて嬉しいなんて嘘だ、パワプロの馬鹿、いろんな気持ちを煮詰めた友沢がパワプロの胸ぐらを掴んでその唇を奪うのは、ほんの十数秒後の話であった。
了
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こういう主友がどうしようもなく好きですね
今まで自分の容姿に無頓着だった美形が、恋人の気を引きたいために自分の容姿について考え直す感じ、とっても好き、かわいらしい、いじらしい
友沢くん、幸せになってね
犬も食わないなんとやら
犬も食わないなんとやら(主人公×猪狩守)
「だから何回言ったら分かるんだよ、猪狩!」
「それはこっちのセリフだね。キミこそ何度同じことを言わせるつもりだい?まあ、キミの頭では、理解出来ないことも致し方ないけどね」
「なんだと!」
「なんだい」
いつものように隣で賑やかに言い争っているパワプロくんと猪狩くんの声を聞きながら、練習後の疲れた身体を引きずるようにして着替えをしているオイラの名前は矢部明雄というでやんす。
いつものことなので、オイラを含めたチームメイトたちも全く意に介さず、各々好きに会話を続けている。矢部、昨日のテレビ見た?昨日オイラはガンダーロボの一挙放送を見てたでやんす。
それにしても、名門あかつき大附属高校野球部のあの厳しい練習のあとでこんなにも元気にじゃれているのは正直すごいと思うでやんす。それも飽きることなく連日、毎日、きっかり欠かすことのない日課のように。だからついオイラの口からぽろりと零れ落ちてしまったのは、仕方のないことだと思うでやんす。
「パワプロくんと猪狩くん、本当に仲がいいでやんすね。毎日、飽きないんでやんすか?」
「ちょっと矢部くん、これのどこが仲がいいっていうの?」
「お互い、相手のことが好きなのがバレバレでやんす」
「オレ、べつに猪狩のことなんて全然好きじゃな、い…」
パワプロくんが変なところで言い淀んだので、どうしたのかとオイラも顔を上げて、そしてすぐに合点がいった。
誰の目から見ても明白に、はっきりと、如実に、猪狩くんが真っ赤な顔をして固まっていたのでやんす。それを見たパワプロくんもつられたように赤面してしまって、二人の間に妙な沈黙が漂う。
しかし、それもまたいつものように「二人の間にだけ」起きたことでやんす。オイラを含めた周りのチームメイトたちは、「今更かよ〜」という感想しかなく、相も変わらず各々好きなおしゃべりを続けている。
真っ赤になった猪狩くんをつっついて、パワプロくんもまた赤くなっていて、やれやれでやんす。あかつき大附属高校野球部の部室は、今日も平和でやんすねえ。
了
ーーーーーーーーーーーーー
毎度ご無沙汰しております。
今年もパワフルカップにサークル参加する予定でございますので、何卒よろしくお願いいたします〜!
日にちが近くなったらまた詳細をお知らせいたします^^
「だから何回言ったら分かるんだよ、猪狩!」
「それはこっちのセリフだね。キミこそ何度同じことを言わせるつもりだい?まあ、キミの頭では、理解出来ないことも致し方ないけどね」
「なんだと!」
「なんだい」
いつものように隣で賑やかに言い争っているパワプロくんと猪狩くんの声を聞きながら、練習後の疲れた身体を引きずるようにして着替えをしているオイラの名前は矢部明雄というでやんす。
いつものことなので、オイラを含めたチームメイトたちも全く意に介さず、各々好きに会話を続けている。矢部、昨日のテレビ見た?昨日オイラはガンダーロボの一挙放送を見てたでやんす。
それにしても、名門あかつき大附属高校野球部のあの厳しい練習のあとでこんなにも元気にじゃれているのは正直すごいと思うでやんす。それも飽きることなく連日、毎日、きっかり欠かすことのない日課のように。だからついオイラの口からぽろりと零れ落ちてしまったのは、仕方のないことだと思うでやんす。
「パワプロくんと猪狩くん、本当に仲がいいでやんすね。毎日、飽きないんでやんすか?」
「ちょっと矢部くん、これのどこが仲がいいっていうの?」
「お互い、相手のことが好きなのがバレバレでやんす」
「オレ、べつに猪狩のことなんて全然好きじゃな、い…」
パワプロくんが変なところで言い淀んだので、どうしたのかとオイラも顔を上げて、そしてすぐに合点がいった。
誰の目から見ても明白に、はっきりと、如実に、猪狩くんが真っ赤な顔をして固まっていたのでやんす。それを見たパワプロくんもつられたように赤面してしまって、二人の間に妙な沈黙が漂う。
しかし、それもまたいつものように「二人の間にだけ」起きたことでやんす。オイラを含めた周りのチームメイトたちは、「今更かよ〜」という感想しかなく、相も変わらず各々好きなおしゃべりを続けている。
真っ赤になった猪狩くんをつっついて、パワプロくんもまた赤くなっていて、やれやれでやんす。あかつき大附属高校野球部の部室は、今日も平和でやんすねえ。
了
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毎度ご無沙汰しております。
今年もパワフルカップにサークル参加する予定でございますので、何卒よろしくお願いいたします〜!
日にちが近くなったらまた詳細をお知らせいたします^^
meaning
meaning(猪狩兄弟)
「兄さん、ちょっと味見をしてもらえませんか?」
年が明けて正月、元旦だろうといつも通りトレーニングのウォーミングアップを終えて自宅に戻ると、ちょうど弟と出くわした。エプロンを付けているその出で立ちを見るに、料理をしていたのだろう。弟は、野球も勉強も料理も出来る。
「お夕飯に、母さんとおせちを作ったんですけど、初めて作るものばかりで自信がないので、兄さんに味をみてもらいたいんです」
「ああ、いいよ。でも、母さんと作ったんだろう?」
「ふふ、母さんは何を食べても「美味しい」になっちゃいますから」
「確かに」
2人で笑いながら長い廊下を歩く。ボクたち兄弟、ことさら進には甘い母の反応は見なくても目に浮かぶようで、ボクたちは顔を見合わせて笑った。
「どうぞ。口に合えばいいですけど」
「いただくよ」
キッチンというよりは厨房と表現した方が良いそこへ到着し、進から箸を渡される。色とりどりのそれらに感心しながら、ボクは静かに箸を付けた。
「どうですか?」
「ああ、どれもおいしいよ。ほとんど、進が作ったんだろう」
「母さんにも手伝ってもらいましたよ」
一皿ずつ少しずつ食べ進め、お世辞抜きにしてどれも初めて作ったとは思えないくらいに美味しかった。我が弟ながらしみじみと感心してしまう。
「兄さん、おせち料理の意味って知ってますか?」
「意味?」
「例えば、れんこん。穴が多く空いていて先がよく見えることから、見通しの良い1年を祈るという意味が込められているんですよ」
「へえ、なるほど。知らなかったよ」
「伊達巻きは、巻物の形をしていることから学問が成就するように、筑前煮は、根菜類と鶏肉を一緒に煮ることから家族が仲良く一緒に結ばれるように」
「詳しいんだな」
「レシピを調べるときに、一緒に書いてあって覚えちゃいました。おもしろいですよね」
「あ、数の子もあるんだな。ひとつもらおう」
進に取ってもらって、ボクはもぐもぐと数の子を食べた。醤油もなにも付けないでそのまま食べるのが好きだった。正月に食べる数の子はなんとなく特別で美味しい気がして、ボクはもうひとつ食べようかと箸を伸ばした。
「兄さん、数の子の意味は知ってます?」
「うーん、知らないな」
口を動かすのに忙しいボクを見てにこにこと微笑みながら進は言う。それはさながら天使の微笑み。
「とてもたくさんの卵が付いていることから、子孫繁栄の意味があるんですよ。そして、子宝成就」
「んっ!?」
唐突に頬に触れた進に驚いて、ボクは大袈裟に反応してしまった。それでもにこにこと笑っている進は先程と寸分も様子が違わない。
「口元、付いてましたよ」
「あ、ああ、ありがとう」
「兄さんに食べてもらって自信が付きました。お夕飯、楽しみにしててくださいね」
「じゃあ、あとで」そう言った弟は今日いちばんの笑顔で微笑むのであった。無意識に、先程弟の指が撫でていった場所に手を当てていた。頬が熱いのはトレーニング後のせいだと言い聞かせ、ボクはシャワーを浴びるべく浴室へ向かうのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
新年明けましておめでとうございます!
本年もゆっくりぱわぷろしていく所存ですので、何卒よろしくお願いします^^
また、6月に開催されるぱわぷろオンリーにも参加する予定でおります!
改めてお知らせいたしますので、こちらもよろしくお願いしますー!
「兄さん、ちょっと味見をしてもらえませんか?」
年が明けて正月、元旦だろうといつも通りトレーニングのウォーミングアップを終えて自宅に戻ると、ちょうど弟と出くわした。エプロンを付けているその出で立ちを見るに、料理をしていたのだろう。弟は、野球も勉強も料理も出来る。
「お夕飯に、母さんとおせちを作ったんですけど、初めて作るものばかりで自信がないので、兄さんに味をみてもらいたいんです」
「ああ、いいよ。でも、母さんと作ったんだろう?」
「ふふ、母さんは何を食べても「美味しい」になっちゃいますから」
「確かに」
2人で笑いながら長い廊下を歩く。ボクたち兄弟、ことさら進には甘い母の反応は見なくても目に浮かぶようで、ボクたちは顔を見合わせて笑った。
「どうぞ。口に合えばいいですけど」
「いただくよ」
キッチンというよりは厨房と表現した方が良いそこへ到着し、進から箸を渡される。色とりどりのそれらに感心しながら、ボクは静かに箸を付けた。
「どうですか?」
「ああ、どれもおいしいよ。ほとんど、進が作ったんだろう」
「母さんにも手伝ってもらいましたよ」
一皿ずつ少しずつ食べ進め、お世辞抜きにしてどれも初めて作ったとは思えないくらいに美味しかった。我が弟ながらしみじみと感心してしまう。
「兄さん、おせち料理の意味って知ってますか?」
「意味?」
「例えば、れんこん。穴が多く空いていて先がよく見えることから、見通しの良い1年を祈るという意味が込められているんですよ」
「へえ、なるほど。知らなかったよ」
「伊達巻きは、巻物の形をしていることから学問が成就するように、筑前煮は、根菜類と鶏肉を一緒に煮ることから家族が仲良く一緒に結ばれるように」
「詳しいんだな」
「レシピを調べるときに、一緒に書いてあって覚えちゃいました。おもしろいですよね」
「あ、数の子もあるんだな。ひとつもらおう」
進に取ってもらって、ボクはもぐもぐと数の子を食べた。醤油もなにも付けないでそのまま食べるのが好きだった。正月に食べる数の子はなんとなく特別で美味しい気がして、ボクはもうひとつ食べようかと箸を伸ばした。
「兄さん、数の子の意味は知ってます?」
「うーん、知らないな」
口を動かすのに忙しいボクを見てにこにこと微笑みながら進は言う。それはさながら天使の微笑み。
「とてもたくさんの卵が付いていることから、子孫繁栄の意味があるんですよ。そして、子宝成就」
「んっ!?」
唐突に頬に触れた進に驚いて、ボクは大袈裟に反応してしまった。それでもにこにこと笑っている進は先程と寸分も様子が違わない。
「口元、付いてましたよ」
「あ、ああ、ありがとう」
「兄さんに食べてもらって自信が付きました。お夕飯、楽しみにしててくださいね」
「じゃあ、あとで」そう言った弟は今日いちばんの笑顔で微笑むのであった。無意識に、先程弟の指が撫でていった場所に手を当てていた。頬が熱いのはトレーニング後のせいだと言い聞かせ、ボクはシャワーを浴びるべく浴室へ向かうのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
新年明けましておめでとうございます!
本年もゆっくりぱわぷろしていく所存ですので、何卒よろしくお願いします^^
また、6月に開催されるぱわぷろオンリーにも参加する予定でおります!
改めてお知らせいたしますので、こちらもよろしくお願いしますー!
なんでもない帰り道
主人公←友沢亮
「わ、あの子かわいい〜」
隣を歩く男がそんなことを言うので、友沢は顔を上げた。少し視線を彷徨わせてみるが、しかし、どの女のことを指しているのか分からなかった。休日、部活帰りに歩く街は人でごった返していた。
「いいな〜。あんなかわいい子が彼女だったら、毎日幸せなんだろうなあ」
「ふうん」
つまらなさそうに、実際つまらない気持ちで相槌を打って、友沢は隣で話すパワプロの顔を見る。
「かわいい」だなんて言われたいわけもないのに、面白くない気持ちになるのはなぜだ。むしゃくしゃして、口には出せない感情が胸いっぱいに広がる。
この胸に膨らみがあれば。この身体がもっと小さくて柔らかければ。こいつが言う「かわいい」を手に入れることが出来るのならば。
そんな下らないことが頭に浮かんで、友沢は思わず笑ってしまった。
「友沢、なんか今日は機嫌良さそうだな」
「べつに」
「なあ、もうちょっとだけ練習してかないか?」
「もう完全に日も暮れるだろ。それに、これ以上やるのはオーバーワークだぞ」
「そうなんだけどさあ。なんか物足りないっていうか」
「うち、来るか」
「友沢の家?」
「嫌なら、べつにいい」
「いやなんて言ってないじゃん!行く行く!」
「そうか」
なにが嬉しいのか、パワプロは隣でにこにこ笑っている。それをかわいいと思ってしまった自分に、友沢はやっぱり笑ってしまった。
ーーーーーーーーーーーーーー
片思いをする友沢亮くんに夏を感じています
「わ、あの子かわいい〜」
隣を歩く男がそんなことを言うので、友沢は顔を上げた。少し視線を彷徨わせてみるが、しかし、どの女のことを指しているのか分からなかった。休日、部活帰りに歩く街は人でごった返していた。
「いいな〜。あんなかわいい子が彼女だったら、毎日幸せなんだろうなあ」
「ふうん」
つまらなさそうに、実際つまらない気持ちで相槌を打って、友沢は隣で話すパワプロの顔を見る。
「かわいい」だなんて言われたいわけもないのに、面白くない気持ちになるのはなぜだ。むしゃくしゃして、口には出せない感情が胸いっぱいに広がる。
この胸に膨らみがあれば。この身体がもっと小さくて柔らかければ。こいつが言う「かわいい」を手に入れることが出来るのならば。
そんな下らないことが頭に浮かんで、友沢は思わず笑ってしまった。
「友沢、なんか今日は機嫌良さそうだな」
「べつに」
「なあ、もうちょっとだけ練習してかないか?」
「もう完全に日も暮れるだろ。それに、これ以上やるのはオーバーワークだぞ」
「そうなんだけどさあ。なんか物足りないっていうか」
「うち、来るか」
「友沢の家?」
「嫌なら、べつにいい」
「いやなんて言ってないじゃん!行く行く!」
「そうか」
なにが嬉しいのか、パワプロは隣でにこにこ笑っている。それをかわいいと思ってしまった自分に、友沢はやっぱり笑ってしまった。
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片思いをする友沢亮くんに夏を感じています
かみさまのいない病室で
かみさまのいない病室で
(友沢亮と母)
私は、親として失格なのだと思いました。なぜなら、病室で静かに泣き崩れる息子を見て、「死んでしまいたい」などと思ってしまう母親なのですから。
私は母親であるにも関わらず、この子の涙ひとつ満足に拭ってやることが出来ないのです。本当は、駆け寄って、抱き締めて、「いいのよ、泣かないで」なんて言ってあげたかった。それが出来なかったのは、ひとえに不甲斐ない自分、そしてこんな重荷を息子に背負わせてしまったことへの自責の念からでした。ごめんね、ごめんね、亮。あなたが大好きだった、ただ純粋に大好きだった野球を、私のせいでこんなにも変質した足枷として背負わせてしまった。あなたは優しいから、もちろんそんなことはおくびにも出さなかったけれど、私はずっとそれを知っていた上で、知らないフリをしていました。
「プロ野球選手になる」、それがあなたにとってどんな意味を持つのか、そして私たち家族にどんな意味をもたらすのか、私はまるで第三者のように知らないフリをしてきてしまったのです。ごめんね、亮。私がこんな身体でさえなければ、あなたが苦しむことも泣くこともなかったのに。
肘が壊れてもう投げられない、そう言って泣く息子の肩を黙って抱いてやることしか出来ない無力な自分。優しい言葉も、息子の欲しい言葉のひとつも掛けてやることの出来ない愚かな母親。あまつさえ、いっそ死んでしまいたいなどと思ってしまうのですから、救いようがありません。
私が病に倒れたのが先か、会社が倒産したのが先か、今となってはおぼろな記憶しか持ち合わせていない、夫。あなたが私たち家族の前から姿を消し、それから私が、亮が、どんな気持ちで毎日を生きてきたのか、あなたは一生知らないままでいるのでしょう。それでも、良かった。亮さえ、朋恵と翔太さえ、笑っていてくれるのなら。私の願いは、今も昔もただひとつだけです。
「母さん、ごめん」
優しい優しい息子の涙は驚くほど熱く、私も少しだけ、泣いてしまいました。世界は、閉ざされたこの病室だけで、終わっていました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
当たり前なんですが、これは純度100わたくしの妄想なので、友沢くんのお母さんはこんな人ではないです。
分からないけど、息子がどうすることもできないことで泣いていて、自分は病院のベッドに張り付けで、何もしてあげられない心情を思うと、ついつい考えてしまいます。
友沢くんと涙が好きすぎる病です。
今度は幸せな涙で泣いてもらいたい。
(友沢亮と母)
私は、親として失格なのだと思いました。なぜなら、病室で静かに泣き崩れる息子を見て、「死んでしまいたい」などと思ってしまう母親なのですから。
私は母親であるにも関わらず、この子の涙ひとつ満足に拭ってやることが出来ないのです。本当は、駆け寄って、抱き締めて、「いいのよ、泣かないで」なんて言ってあげたかった。それが出来なかったのは、ひとえに不甲斐ない自分、そしてこんな重荷を息子に背負わせてしまったことへの自責の念からでした。ごめんね、ごめんね、亮。あなたが大好きだった、ただ純粋に大好きだった野球を、私のせいでこんなにも変質した足枷として背負わせてしまった。あなたは優しいから、もちろんそんなことはおくびにも出さなかったけれど、私はずっとそれを知っていた上で、知らないフリをしていました。
「プロ野球選手になる」、それがあなたにとってどんな意味を持つのか、そして私たち家族にどんな意味をもたらすのか、私はまるで第三者のように知らないフリをしてきてしまったのです。ごめんね、亮。私がこんな身体でさえなければ、あなたが苦しむことも泣くこともなかったのに。
肘が壊れてもう投げられない、そう言って泣く息子の肩を黙って抱いてやることしか出来ない無力な自分。優しい言葉も、息子の欲しい言葉のひとつも掛けてやることの出来ない愚かな母親。あまつさえ、いっそ死んでしまいたいなどと思ってしまうのですから、救いようがありません。
私が病に倒れたのが先か、会社が倒産したのが先か、今となってはおぼろな記憶しか持ち合わせていない、夫。あなたが私たち家族の前から姿を消し、それから私が、亮が、どんな気持ちで毎日を生きてきたのか、あなたは一生知らないままでいるのでしょう。それでも、良かった。亮さえ、朋恵と翔太さえ、笑っていてくれるのなら。私の願いは、今も昔もただひとつだけです。
「母さん、ごめん」
優しい優しい息子の涙は驚くほど熱く、私も少しだけ、泣いてしまいました。世界は、閉ざされたこの病室だけで、終わっていました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
当たり前なんですが、これは純度100わたくしの妄想なので、友沢くんのお母さんはこんな人ではないです。
分からないけど、息子がどうすることもできないことで泣いていて、自分は病院のベッドに張り付けで、何もしてあげられない心情を思うと、ついつい考えてしまいます。
友沢くんと涙が好きすぎる病です。
今度は幸せな涙で泣いてもらいたい。
世界よこの指とまれ
世界よこの指とまれ
(10カイザース/主人公×友沢亮)
夢みたいだ。夢みたいだ。夢みたいだ。
ばかみたいに同じ言葉がぐるぐる回る。転がったオレが見上げた先には、ずっと手にしたくてたまらなかった人がいる。手を伸ばせば、触れられる。これが夢でなかったら、いったい何が夢だというのだろう?
「友沢、おまえそんな顔するんだな」
「どんな顔、ですか」
「そんな顔だよ」
ぶよ、と頬をつねられて、オレはそれすらも嬉しくて胸の奥がぎゅうと詰まった。苦しいのに嬉しい。そんなオレの顔を見て、相手は屈託なく笑っている。
「友沢、変な顔」
「うるさいですよ。ちょっと、まだ、混乱してるだけです」
練習が終わって、飯に行こうと誘われた。そんなことですらオレは内心飛び上がるほど嬉しくて、顔に出さないよう平静さを保つだけで精一杯だった。だから、それからのことはあまりよく覚えていない。酒を飲んだこの人が終電を逃してしまったことだとか、そのときの自分が何と言って自宅まで呼び込んだのか、そのあとどんな会話をして、こんなことになってしまったのか。
顔を横に背けると、皺になったシーツが目に入った。こんなことなら、新品のものに取り替えておくんだった。こんなことに、なるのなら。まさか、こんな日が来るなんて。
「友沢、なに考えてる?」
「べつに…」
「でも、意外だったな」
「何がですか」
「だって、カイザースのスーパールーキー様友沢亮とオレがこうしてるなんて、誰が想像できるの」
「それは」
こっちのセリフです。そう言いたくて声を出そうとしたのに、見上げたこの人があまりにも優しい顔でこちらを見ているものだから、それは音になることもなく喉の奥で詰まって消えてしまった。さっきから苦しくて仕方がない。苦しくなるほどの幸福など、オレは知らない。
「ん?」
「あんた、こそ」
「オレ?」
「猪狩さんが、いいんだと、思ってた」
「猪狩ぃ?確かにあいつはミョーにつっかかってくることあるけど、そんなんじゃないだろ、どう考えても。野球バカすぎなんだよな。って、それは人のこと言えないか…」
「あと、進さん、とか」
「進くん?確かに進くんはすっごくカワイイけどさあ」
「……」
「なにムスッとしてんの」
「べつに。あんたって、外面良すぎですよね」
「そっかな?」
「褒めてないです」
「オレ、べつにそんなことないと思うけど」
「ドリトン、とかも」
「ドリトン!?いや、マジでそんなこと思ったこともないけど…はは〜ん、さては友沢、妬いてるな?」
「当たり前です」
パチクリと目を丸くしたパワプロさんに、オレはどんな顔をしたらいいのか分からない。否、オレはさっきからどんな顔をしているんだ。
こんな情け無い顔を見られたくないのに、覆いかぶさるようにしてオレの上に乗っかっているこの人から逃れる術はない。ほんとうに、夢みたいだ。
「友沢、カワイイ」
「やめてください」
「かわいいよ、ほんと」
かわいいなんて言われて嬉しいわけがないのに、女みたいに喜ぶはずもないのに、オレときたら何も言えずに、それどころか顔に熱が集まるのを自覚していた。ばかみたいだけれど、今日くらいは、許してくれないか。誰に対してなのか分からぬ言い訳ばかりが脳裏によぎる。気を抜くと、だらしなく頬が緩んでしまいそうだ。ほんとうはもう、とうに緩んでいるのかもしれないが。
「なあ、友沢」
「なんですか」
「キスしていい?」
「…普通、聞きますか、それ」
「一応、ほら、な?」
「……」
「ダメ?」
そんなわけないだろう!
そう叫びたくなる気持ちを我慢して、オレはパワプロさんの胸ぐらを掴んで無理矢理引き寄せた。勢い余ったせいで歯がぶつかって痛かったが、そんなこともお構いなしにオレは貪欲に唇を求めた。初めは驚いていたらしいパワプロさんも、こちらから舌を差し入れる頃にはようやく応えてくれて、オレはますます夢中になった。欲しくてたまらなかったものの名を呼ぶと、その人は柔らかく笑ってこたえてくれるのだった。
「友沢」
返事の代わりに再びその唇を塞ぎ、オレは少しだけ目を閉じた。
2018.6.25
ーーーーーーーーーーーーーーーー
友沢くん、幸せになってね〜…!
そんな気持ちを両手いっぱい詰め込みました。
友沢くんのキレイな顔が歪むことにたまらない何かを感じる民だから、いつも泣かせたり振られたりさせてごめんね。幸せになってね。
主友が熱いです
(10カイザース/主人公×友沢亮)
夢みたいだ。夢みたいだ。夢みたいだ。
ばかみたいに同じ言葉がぐるぐる回る。転がったオレが見上げた先には、ずっと手にしたくてたまらなかった人がいる。手を伸ばせば、触れられる。これが夢でなかったら、いったい何が夢だというのだろう?
「友沢、おまえそんな顔するんだな」
「どんな顔、ですか」
「そんな顔だよ」
ぶよ、と頬をつねられて、オレはそれすらも嬉しくて胸の奥がぎゅうと詰まった。苦しいのに嬉しい。そんなオレの顔を見て、相手は屈託なく笑っている。
「友沢、変な顔」
「うるさいですよ。ちょっと、まだ、混乱してるだけです」
練習が終わって、飯に行こうと誘われた。そんなことですらオレは内心飛び上がるほど嬉しくて、顔に出さないよう平静さを保つだけで精一杯だった。だから、それからのことはあまりよく覚えていない。酒を飲んだこの人が終電を逃してしまったことだとか、そのときの自分が何と言って自宅まで呼び込んだのか、そのあとどんな会話をして、こんなことになってしまったのか。
顔を横に背けると、皺になったシーツが目に入った。こんなことなら、新品のものに取り替えておくんだった。こんなことに、なるのなら。まさか、こんな日が来るなんて。
「友沢、なに考えてる?」
「べつに…」
「でも、意外だったな」
「何がですか」
「だって、カイザースのスーパールーキー様友沢亮とオレがこうしてるなんて、誰が想像できるの」
「それは」
こっちのセリフです。そう言いたくて声を出そうとしたのに、見上げたこの人があまりにも優しい顔でこちらを見ているものだから、それは音になることもなく喉の奥で詰まって消えてしまった。さっきから苦しくて仕方がない。苦しくなるほどの幸福など、オレは知らない。
「ん?」
「あんた、こそ」
「オレ?」
「猪狩さんが、いいんだと、思ってた」
「猪狩ぃ?確かにあいつはミョーにつっかかってくることあるけど、そんなんじゃないだろ、どう考えても。野球バカすぎなんだよな。って、それは人のこと言えないか…」
「あと、進さん、とか」
「進くん?確かに進くんはすっごくカワイイけどさあ」
「……」
「なにムスッとしてんの」
「べつに。あんたって、外面良すぎですよね」
「そっかな?」
「褒めてないです」
「オレ、べつにそんなことないと思うけど」
「ドリトン、とかも」
「ドリトン!?いや、マジでそんなこと思ったこともないけど…はは〜ん、さては友沢、妬いてるな?」
「当たり前です」
パチクリと目を丸くしたパワプロさんに、オレはどんな顔をしたらいいのか分からない。否、オレはさっきからどんな顔をしているんだ。
こんな情け無い顔を見られたくないのに、覆いかぶさるようにしてオレの上に乗っかっているこの人から逃れる術はない。ほんとうに、夢みたいだ。
「友沢、カワイイ」
「やめてください」
「かわいいよ、ほんと」
かわいいなんて言われて嬉しいわけがないのに、女みたいに喜ぶはずもないのに、オレときたら何も言えずに、それどころか顔に熱が集まるのを自覚していた。ばかみたいだけれど、今日くらいは、許してくれないか。誰に対してなのか分からぬ言い訳ばかりが脳裏によぎる。気を抜くと、だらしなく頬が緩んでしまいそうだ。ほんとうはもう、とうに緩んでいるのかもしれないが。
「なあ、友沢」
「なんですか」
「キスしていい?」
「…普通、聞きますか、それ」
「一応、ほら、な?」
「……」
「ダメ?」
そんなわけないだろう!
そう叫びたくなる気持ちを我慢して、オレはパワプロさんの胸ぐらを掴んで無理矢理引き寄せた。勢い余ったせいで歯がぶつかって痛かったが、そんなこともお構いなしにオレは貪欲に唇を求めた。初めは驚いていたらしいパワプロさんも、こちらから舌を差し入れる頃にはようやく応えてくれて、オレはますます夢中になった。欲しくてたまらなかったものの名を呼ぶと、その人は柔らかく笑ってこたえてくれるのだった。
「友沢」
返事の代わりに再びその唇を塞ぎ、オレは少しだけ目を閉じた。
2018.6.25
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友沢くん、幸せになってね〜…!
そんな気持ちを両手いっぱい詰め込みました。
友沢くんのキレイな顔が歪むことにたまらない何かを感じる民だから、いつも泣かせたり振られたりさせてごめんね。幸せになってね。
主友が熱いです
パワフルカップ 新刊通販のお知らせ
先日のパワフルカップにて頒布した新刊の通販を開始しましたので、お知らせです。
今回はピクシブのBOOTHさんを利用させてもらっています。
不都合等ありましたら、いつも利用しているチャレマさんでも取り扱う予定ですので、何かありましたらお気軽にメッセージにてお伝えください。
BOOTH通販(外部サイトに飛びます)
よろしくお願いします!
今回のプチオンリーにて当スペースに遊びに来てくださった方、お話してくださった方、本をお手に取ってくださった方、本当にありがとうございました。
いつも唐突に現れる私ですが、みなさん優しくしてくださって感無量です。
これからものんびりペースですが、パワプロ愛を吐き出してゆきたい所存です。
大好きです。
プチオンリー、今回も本当に活気があって最高に楽しかったので、また次回も熱烈に開催していただきたいですね。
パワプロポケ大好きです。
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今回のプチオンリーにて当スペースに遊びに来てくださった方、お話してくださった方、本をお手に取ってくださった方、本当にありがとうございました。
いつも唐突に現れる私ですが、みなさん優しくしてくださって感無量です。
これからものんびりペースですが、パワプロ愛を吐き出してゆきたい所存です。
大好きです。
プチオンリー、今回も本当に活気があって最高に楽しかったので、また次回も熱烈に開催していただきたいですね。
パワプロポケ大好きです。

